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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2014年05月21日

未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(後半)

今回の未来塾は「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編の後半を公開します。少子高齢社会にあって、港北ニュータウンは多子低年齢市場という東京郊外ならではの商圏です。この子育てファミリーを対象市場とした商業施設が乱立するなかでの「小売り」です。消費税導入を踏まえた小売りならではの「視座」と「ノウハウ」を学びます。


ヒット商品応援団日記No581(毎週更新) 2014.5.21. 


■街の成長と年齢分布の変化

商圏の年齢分布の変化は自店のMDを組み立てる上で重要なポイントである。チェーン店で本部より供給される商品やサービスが決まっていたとしても、重点を置くべき商品はエリアごとに変わってくる。特に港北ニュータウンのように転出よりも転入が上回っている街ではどの年齢が増えているのかを把握しておきたい。
未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(後半)



図2は平成15年の年齢分布を9年分前にずらして、平成24年の年齢分布に重ねたものである。9年間で人口は約38,000人増え、その増加率は122.8%と他のエリアに比べ魅力がある。グラフを見るとわかるように、増えたのは27歳~44歳までの子育てファミリーだけで、それ以外の世代は変化が少なく9年分歳を重ねただけである。
未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(後半)




図3は図2のように平成15年度をスライドせず、平成24年度の年齢分布を10年分スライドして平成35年度を想定し、15年、24年、35年の年齢分布を並べたものである。現在のボリュームゾーンは50代前半に移動するが、今と同じように30代ファミリーの転入が続くと30代から50代前半まで断続的に続く台形のようなボリュームゾーンが形成される可能性を指している。
現在の10代~20代前半は人口が少ないので同じ傾向にはならないものの、港北ニュータウンが次世代の子育てファミリーからも支持される可能性は高い。

■ 館の来館者数と館の名簿客数

多くのSCは月間および年間来館者数をひとつの指標にしているが、延べではなく重複を取り除いた「館の名簿客数」をきちんと割り出しているデベロッパーは多くはない。ここで言う名簿客数とは、来館者全員を名簿化したと仮定した場合の客数を指す。
来館者調査などで来店頻度が月1回:5%、月2回:10%、週1回:30%、週2回:20%、週3回以上:20%・・・とわかった場合、これに週の来館者を掛け合わせ、その他の要因を重ねていくとおよその名簿客数が見えてくる。こうして算出してみると地元密着型のコモディティSCは想像以上に名簿客数が少ないことに驚くこともある。一方、2011年度開業した湘南テラスモールなどは当初想定していた商圏よりも北に伸びしろがあり、1年で24万人ものハウスカードホルダーを獲得している。
商圏設定で半径○km、○世帯数、という数字をよく見るが、実際は乖離が大きい。道路や河川などで商圏が分断されることも多く、年配の方においては、本数の少ないバス路線は近くても商圏に結びつかない。また、300m以内に住んでいてもほとんど来館されない方も少なくない。

人口減の局面に入っても商業施設などのライバルは今後とも増え続ける。つまり今までどおりのやり方をしている限り名簿客数は減りつづけ、新規客獲得は年々難しくなるという認識が必要だ。
当たり前のことだがほとんどの上顧客は既存客である。上顧客の回数化を促進することは非常に重要だが、既存客は年齢を重ねている。ここに二つのリスクが潜んでいる。
多くのナショナルチェーンは既存客の加齢を過剰に考慮せず、自店のポジション、MDを守りながら新規を開拓し、既存客の緩やかな入れ替わりを目論むが、既存客の離反が新規獲得を上回るリスクがある。一方、既存のお客様に新たな提案を重ねているうちに自店MDが年輩者向けになり、本来のポジションとずれが生じ、次世代のお客様開拓が手薄になるリスクもある。ここのバランスをどう考えるかは事業者の考え方だが、少なくとも本部と現場の店長クラスくらいは意識を共有しておくべきだろう。

MDの組み立てとして、新規集客品と既存客向け主力リピート品をピラミッドのように組み立てる方法があるが、同一カテゴリーで松竹梅の商品やサービスを並べるだけでなく、主力リピート品へつながるルートを多方面に用意し、どのエントリー商材からでも主力品の紹介ができるよう組み立てることが重要だ。セルフ型ならば連動POPやセルフトーカーを、接客重視ならトークスクリプトを整備しておく必要がある。
価格別に松竹梅を用意すると竹が選ばれやすいのは周知のことだが、筆者が良くやるのは、松竹竹梅の4種を揃え、片方の竹は松相当品を竹に近い初回限定プライスに設定することで松を一度体験していただく方法だ。竹との違いも理解していただけやすくリピート率も向上する。

■衝動派と慎重派

TVショッピングは何度も利用する人、旅先でついついお土産を買ってしまう人、100円ショップなどで安いからとあれこれ買ってしまう人、限定やタイムセールに弱い人・・・。このような方たちをここでは「衝動派」とし、これとは間逆の方たちを「慎重派」と呼ぶことにする。もちろんどちらが良い客ということではない。
しかし、旅先のお土産の例に戻すと、他のメンバーが買い始めると慎重派も買いはじめるというシーンが思い浮かぶ方も多いだろう。衝動派の購買行動は慎重派の背中を押す力を秘めている。この力を使わない手はない。相対的には慎重派のほうが多いが、衝動派を呼び寄せるMDをすることで慎重派の入店や購買を促す環境を作りやすくなる。

衝動派が惹かれるものは、受動的な情報源で知り得た人気商品、旬の商材が多い。受動的情報源とは、テレビ、新聞折込、そして何より口コミだ。対して能動的情報源とは自ら取りに行くネット情報や購買して読む雑誌・書籍などを指す。テレビショッピングや新聞折込の通販商材は直販商品も多いので、相当品、互換品なども有力だ。
これらの商材をそのまま売るのではなく、松竹梅の梅か竹に入れ込み、自店の推奨品に結びつけたい。慎重派は、気にはなっているが納得してから購入したいので、松へつながる可能性も高い。衝動派はリピート率が低めだが、慎重派はリピートしやすいので松の紹介は重要。また、店頭集客用MDにより自店における衝動派:慎重派の比率を変えることも可能になってくるので、セール時期などは意図的に衝動派を増やすMDをすることで賑わいも出しやすくなるだろう。

■お客様に応じた松竹竹梅の組み立て方

前述したように港北ニュータウンのボリュームゾーンは20代後半から40代前半までの子育てファミリーである。感性も高く、単純な価格志向ではない人が多い。子育て終了世代に比べると可処分所得は少ないかもしれないが、お金を使うべきところ、使わないところが顕著に分かれ、それが自分にとって「新しい満足」や「将来の自分の姿」をもたらすモノやコトであるかが吟味される。商品やサービスに対する情報収集や理解は比較的高めなので、コストパフォーマンスの良し悪しもある程度判断できている。店頭では、事前に得た情報や理解が正しいかを再確認したり、事前にわからなかったところを質問したり、実際に体験・体感して感覚的に納得をすることを重視している。
そこで、先ほどの松竹竹梅に戻ると、竹と梅には違いをシンプルなキーワードで表現し、コストパフォーマンスを確認できる情報、さらに竹は優れたスタンダードとしての情報が必要だ。そして松および松相当の竹に関しては、「新しい満足」や「将来の自分の姿」を想起させるワクワク情報が重要になる。これは商品そのものの説明ではなく、それを使う、持つ、経験することが何らかの楽しさ、嬉しさ、いつもと違う、あるいはこれまでと違う自分などに結びつくものが望ましい。松竹梅ではなく単品の一押し商品・サービスの場合も、松と同様に展開することで店頭訴求力が高まるだろう。
また、松竹竹梅の価格設定においては消費増税後なので、梅は税込で×980円などの価格訴求、また松相当品をセール価格で竹に寄せる場合も同様に設定したいところだ。


小売りから学ぶ


1、創られた市場という認識

時代の変化を映し出すのが小売業であるが、今回の横浜市都筑区(港北ニュータウン)という市場は「街から学ぶ」吉祥寺編で明らかにしたように同じ郊外型市場、東京及び横浜へのベッドタウンではあるが、吉祥寺とは異なる市場である。その最大の違いは「創られた」市場、つまり人工的に住宅や商業施設、道路といったインフラが開発され創られてきた街である。東京近郊という点では規模は異なるが筑波エクスプレスの開通によって新たな街づくりを行っている千葉県流山市と同じ構造である。
未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(後半)

写真を見ても分かるが、のどかな田園風景はセンター北とセンター南とを分ける早淵川の一部に残っているだけで、その多くは大型商業施設の建物とマンション群である。緑もまた開発された緑であり、その土地固有の四季を感じさせる緑ではない。商業という観点から街を見ていくと、マンション(住居)と商業施設と駅とを直線的につなぐだけで、いわゆる本来「街」が持っている界隈性や回遊性は乏しい。商業はそうした街機能の替わりを果たしていかなければならないということである。
そして、同じような子育てファミリーのライフスタイル、時間の過ごし方は特定場所、特定時間に集中することとなる。その例えが、休日の大型商業施設のフードコートでファミリーで埋め尽くされることとなる。効率の良いコンパクトな市場ではあるが、またそれ以上に競争も激しい。


2、子育て市場への集中ともう一つの視点

少子化が大きな問題としてテーマとなっている日本であるが、ここ都筑区は多子市場を形成している。結果、子育て市場を狙った専門店群が大型商業施設へと大挙して出店している。勿論、オーバーストア状態となり、価格を始めとした厳しい競争市場となっている。こうした市場にあって、時間の経過と共に顧客も変化するとした年齢分布による「マーケットの推移」への視点を指摘してくれたことは私たちへの大きな警鐘としてある。小売りがまず目指す「今」という子育て市場もまた、時間経過ととも年齢を重ね次なるライフステージへと変化し、そうした視点をもって「今」を経営しなければならないということである。
こうした視点は既存客へのリピート促進と共に、新規客づくりのためのMDとその価格設定、坂野氏の言う「松竹竹梅」という小売り現場ならではのレポートに出てきている。「衝動派と慎重派」という顧客識別に沿って、あるいは「松」である商品を「竹」並の価格で販売する。つまり、新規客への興味・関心を狙った入り口価格設定、ある意味お試し的価格と言うことてある。店頭を常に変化させることによって顧客反応をとる一種の仕組みとも言えるノウハウである。こうした価格に対する「考え」は消費増税という変化を読み取るには極めて有効な方法としてある。

3、常に顧客反応を観測する「小売り」

新消費税が導入され1ヶ月半ほど経過した。政府は物価の推移を見ていくと増税分3%はほぼ価格転嫁できていると発表した。しかし、どの調査を見ても約2/3の生活者は節約すると答えている。その節約にどう応えるかが小売業の主たる仕事となる。節約とは「全体での支出」を減らすことであり、お気に入り商品はそのまま継続消費するかもしれないが、コモディティ商品は激安流通へと店自体を変えるかもしれない。
今回坂野氏にレポートをお願いしたのも、東京近郊のコンパクトな市場、しかも日常消費については旺盛な消費を見せる子育て市場での小売りである。そっして、多くの市場がそうであるように、「オーバーストア(過剰流通)」、「価格競争」といったどの市場にも当てはまる市場での「小売り」である。こうした市場にあって消費増税はどんな変化をもたらすか、坂野氏による実態客数の把握と顧客識別としての「衝動派と慎重派」、更にはマーチャンダイジングにおける価格戦略「松竹竹梅」といった小売り戦略こそが必要であると考える。 
駈け込み需要の反動と共にゴールデンウイークも終わり、日常が戻ってきた。消費増税がどんな変化をもたらすか、これからが本番である。坂野氏が指摘してくれたこれらの視点をもって観測していただけたらと思う。(続く)        
                                                                              専門店経営 坂野公美
                                                                               ヒット商品応援団 飯塚敞士


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:18│Comments(0)新市場創造
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