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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2023年01月28日

常識という衣を脱ぐ

ヒット商品応援団日記No815(毎週更新) 2023.1,28

常識という衣を脱ぐ


前回のブログでは昨年のヒット商品番付の「コスパ&タイパ」というキーワードの「落とし穴」について、東京・浅草かっぱ橋道具街の包丁や卸し金、フライパンなど8400超のアイテムを取り揃える料理道具の老舗専門店の飯田屋と海外進出で一つのジャンルを確立しつつあるうどんチェーン店丸亀製麺について、その事例をもとにその発想・着眼についてコメントした。
「コスパ&タイパ」の背景については、所謂「失われた30年」と言われるように停滞する日本、その社会が存在している。大きくはバブル崩壊以降の主要なテーマである「デフレ」がある。短絡的ではあるが、競争市場にあって「価格」を下げる事が唯一勝ち抜くと考えてしまったという事だが、消費生活者にとっては収入が増えない以上「低価格」商品を選ぶという悪循環が、この30年間であった。つまり、デフレ潮流の中でのコスト意識、時間活用意識であった。

前回のブログでクールジャパン、更にクールフードについて書いたが、その本質は足元にある「宝物」に日本人自身気付かないことにある。アニメやコミックが熱心な外国人オタクによって注目され、聖地秋葉原に集まるようになって、やっと日本のマスディアも取り上げるようになる。
コロナの規制緩和によって、インバウンド需要が徐々に増加へと向かっている。中国人観光客は一部の富裕層で、欧米や香港、台湾といったリピーター層が中心となっている。ある意味クールジャパン・オタクであり、この顧客層は従来の東京・京都あるいは大阪と言ったゴールデンルートや寿司・天ぷら・すき焼きといった定番の食事から、大きく異なる世界へと向かっている。その良き事例が先日発表されたNYタイムスで「ことし行くべき52か所の旅行先」で、盛岡市が2位に選ばれたように、日本人自身が知らないだけで世界の注目する観光地になっている。ちなみに52か国の中には博多中洲の屋台が入っている。こうした傾向はコロナ禍以前からもあって、ドヤ街と言われた大阪西成のお好み薬店に訪日外国人の人気が集ってていたのも、全てSNS・口コミそれにネット検索によって生まれている。私の言葉で言うと、表通りから横丁・裏路地へと向かっていると言うことだ。そこには日本人の知らない景観と食べたことのない郷土食が体験できると言うことである。

こうしたことはマスメディアのダメさ加減もあるが、少しだけ補足してあげるとすれば、インターネット時代のメディアに相当な遅れが生じてしまったことだ。特に、メディアの最大コストは取材などの人件費であるが、他のメディアとネットワークなどを組んでコスト削減しても、メディアを持った「個人」の発信力には敵わない。私の言葉で言えば、個人放送局の時代だと言うことだ。但し、その情報は玉石混交で嘘もあれば事実もある。結果、どう言う事が起きているか、インフルエンサーといったオピニオンの情報から自ら判断し「宝」を見極める方向へと向かっている。こうした中での「盛岡」である。
若い頃、ある企業のテストエリアに岩手県が選ばれたこともあって、盛岡には頻繁に訪れることがあった。勿論わんこそばに始まり冷麺といった盛岡名物を食べた記憶とともに、確か市内を流れる川には鮭が遡上する綺麗な街という印象であった。地元の担当者に沿岸部を含め案内してもらったが、そこには地元ならではの「食」が味わえた。いまだに思い出すのは魚屋さんがやっている居酒屋「おばちゃん」では魚の炭火焼とともに、匂いが気になることからあまり食する事がなかった「ほや」も美味しく食べる事ができたことや、今ではあたり前となったサンマの刺身も「おばちゃん」で初めて食べた思い出がある。(冒頭の写真を見ても分かるように高層ビルなど見当たらない森の多い美しい街である)

その頃から始まったのかもしれないが、札幌、仙台、名古屋、広島、松山、博多、鹿児島、那覇、そして大阪・京都・・・・・全国主要都市へと出かける事が多いビジネスであった。出張の楽しみはその都市ならではの「食」で地元の人たちに愛された日常食であった。例えば、仙台では炉端焼きの「地雷也」にも何回か行ったが、どこの店が忘れてしまったが、仙台子なすの浅漬けが美味しかったことを覚えているが、それらは全て横丁路地裏の店ばかりで豊かな日常食、私の言葉で言うと「郷土食」となる。東京ではほとんど食べることができない、固有な食で訪日外国人の「日本オタク」は探し出し仲間に教え合い楽しむ。ある意味都市にはない「日本体験」を求めた結果であろう。クールジャパンはアニメやコミックからクールフードへと広がってきている。

チェーン店にはそれなりの意味があり、均一な味をどこよりも安く提供すると言う必要な食の業態ではあるが、ここ数年前からの食堂や町中華ブームは全て「手作り」でオヤジの味、おばちゃんの味で他にはない固有のもので、それがサービスの原点となっている。その多くは後継者のいないまま一代限りとなってしまう事が多く、稀少な価値あるものである。そうした手作りが評価されるのも、言葉を変えれば「職人」の時代を再び迎えていると言うことである。「コスパ&タイパ」の真逆、コストも時間もかけた商品・サービスと言うことである。良く生産性という言葉を使うが、生産性の高さとは職人の技・技術の高さを指すものである。その技・技術に見合った価格が受容できる市場を探せば良いだけである。飲食店であれば、例えば50席を減らし20席にする、あるいは会員制にして1日1組にすると言った市場の大きさに従えば良い。宇宙開発のロケット技術にも町工場の精巧な技術が使われているが、そうしたニッチ・隙間市場を対象とし、更に売り上げをと考えるのであればその技術はどんなジャンルに転用できるか、新たな市場を開発するということである。

勿論、チェーン店においても多くの点でのサービス化は不可欠である。チェーンストアの誕生は米国で、多くの人種、言語も文化も異なる、さらには年齢も異なる人間を従業員としなければならない状況で生まれたのが「マニュアル」で均質な作業によって作られる商品が安く提供することが可能となり、成功すれば市場は大きくなる、そんな経営手法である。
殆どのチェーン店では自然災害をはじめ多くの犯罪を回避するためのリスク回避がマニュアルとして用意されている。ところがこうしたマニュアルでは解決できない事が日常的に起きるのがビジネスである。顧客要望に応えることから1980年代には「顧客満足」というキーワードが生まれた。実は若い頃勤務した外資系の広告会社の隣のチームが日本マクドナルドを担当していた。そのチームの応援として、銀座店でマニュアルには載っていない「要望」を店頭でやって欲しいというもので当時の社長であった藤田田さんの要請であった。そこで私が行ったのは「頼んだビッグマックにマスタードを塗って欲しい」という要望であった。マニュアルに書いていない要望に困ったクルーは店長を探しにバックヤードに駆け込んだことを覚えている。問われているのが顧客現場での対応力で、その柔軟さも商品の一つであり、「サービス」の本質であると。藤田田さんはある意味日本マクドナルドの創業者でマニュアルを生かしながら多くの「固有」なことを成し遂げた人物であった。その代表例が画一されたメニュー以外に日本人の好みにあった味のてりやきバーガー、しかもビーフではなくポークの「てりやきマックバーガー」を1989年に開発発売し人気メニューとなったことであろう。

ところでマニュアル化の先には機械化・ロボット化がある。敢えて「手作り」を持ち出したのもサービスとは何か、その価値の意味を再考する時代に来ていると考えたからである。観光旅行で言えば、日本観光のゴールデンルートと言われてきた成田から東京へ、浅草・銀座から富士山観光を経て京都へ、そして大阪へといったいわば表通り観光から地方へと移行している。その象徴が盛岡である。今までのガイドブックに書かれた一般的は旅行から、より日本らしさへと迫る、寺社観光から生活観光へ、寿司・すき焼きから郷土料理へ・・・・マニュアル化された日本から多様な生活文化のある日本へと変化してきている。日本人自身が知らないだけである。生活文化にはその土地ならではの、職人たちによる技がある。日本オタクにとって宝物である。そんな街の景観、日々の生活、食、・・・・これらの楽しみを提供すること、つまりサービス提供が待たれているということだ。そして、日本オタクから遅れて、日本の都市生活者が気づくであろう。

課題は給与が上がらない悪性インフレの時代にあって、どんな価値軸を持って顧客を迎えれば良いのかということである。日本観光オタクが教えてくれたのは「より本質に迫った商品・サービスの提供」ということであろう。その「本質」とは何かであるが、こだわり、オンリーワン、ここだけ、技・技術、・・・・・過去言い古されてきたキーワードばかりであるが、「常識」という衣を脱いで、創業の時の「思い」に今一度立ち返ってみるということだ。創業時、「何を大切にしてきたか」と言ってもかまわない。そして、多くの場合大切さの向こう側には「夢」があったはずである。
最近の企業CMの中ではホンダがそんな「夢」を「Hondaハート Hondaはどっちも創りたい。」と語りかけている。「役に立つこと」、「ワクワクすること」どっちも創りたい。誰かが嬉しくなることを。これがホンダの夢、創業者本田宗一郎が町工場から始めた「原点」である。(続く)


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