さぽろぐ

ビジネス  |札幌市中央区

ログインヘルプ


インフォメーション


QRコード
QRCODE
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 1人
プロフィール
ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年08月02日

未来消費の羅針盤

ヒット商品応援団日記No388(毎週2回更新)  2009.8.2.

2ヶ月ほど前、これからのライフスタイル傾向として自己解決型へと向かうであろうと書いた。勿論、単なる節約といった経済面からの要請だけでなく、それ自体を楽しみに変えるという意味を含めてである。その象徴例ではないが、「お弁当族」と呼ばれるサラリーマンの間で、自分が作る弁当をブログに公開する遊びが流行っている。弁当づくりだけでなく、生活の多くに自分で作る、自分で直す、自分で解決する、しかもそれ自体を楽しみとするライフスタイルである。ひと頃流行った「ヒトリッチ」というキーワードと対比させる意味で、「エンジョイプワー」と名付けてみた。ヒトリッチという「おひとりさまメニュー」の代表がオーベルジュであったのに対し、エンジョイプワーのヒット商品はあんこが尾まで詰まった「たいやき」である。

こうした自己解決型の背景には経済的要因が大きいのだが、今年の家電製品の売れ行きが見事に表している。周知のエコポイント対象商品には、この時期の売れ筋商品であるエアコン、薄型TV、冷蔵庫があるが、梅雨明けしていない地域もあるが、エアコンはまるで売れない情況となっている。エコポイントスタートから6月末までは前年比−6%、ボーナス支給日以降の7月からはー30%であるという。売れているのは2年後のデジタル化を控えた薄型TVで、冷蔵庫はほぼ前年並み。全て買い替え需要商品であるが、薄型TVについてはかなり価格が安くなり、いわば買い時と考えており、そうした「価格」を物差しにした家計支出がなされているということだ。いずれにせよ、買い換え需要の前倒しであって、来年3月末を終えた以降、大きく落ち込むことが想定される。こうした消費は、追加補正予算バブルとは言わないがエコカーの補助金制度やエコポイントといった支援による一時的なもので、景気が持ち直したからではない。
携帯電話各社の4−6月第一四半期の決算でも、ドコモとauは前年比大きくマイナスであったが、ソフトバンクだけは増収増益となった。これもいち早く、低価格戦略を実行に移したことによるもので、ユニクロ同様一人勝ちの結果となっている。

ここ1年半ほど、私は価格を中心とした消費について書いてきた。10年ほど前のブランド論もそうであったが、結論から言うとブランド物語やこだわり物語、付加価値と呼んできた一種の物語の皮膜を1枚1枚生活者自身がはがしてきた2年間であった。ヒトリッチもそうであるし、隠れ家ブームなどもこうした物語の一つであった。こうした物語消費は1980年代後半からの差別化要請から生まれてきたものであるが、その本質は「他とは違う」という自身への癒し効果であり、マイブームのような「これってかわいい〜」といった自己確認にあった。こうした消費はバラバラとなった個人化社会を背景に、収入が増えないという経済的理由と度重なる情報偽装によって、物語という皮膜をはがしてきた訳だ。そして、その皮膜の核に「価格価値」を見出し、その「わけあり」を確認して消費するに至るのである。

ここ1年ほど、そうした「自己確認」のために「過去」に遡って「何か」を得るための消費行動が見られた。それらは古典文学であったり、歴史本(レキジョはマスコミが勝手につけたトレンドネームである)、あるいは阿修羅像のような菩薩ブームや太宰治の生誕地を巡る旅であった。最近では占いブームも一段落し、占いに代わって「家系図づくり」が安心の担保となっている。3年ほど前、私は地方が面白いと書いたことがあったが、東京ではそうした地方のアンテナショップ巡りに話題が集まっている。地方とは、変化の波に洗われずに今なお「過去」が残っているからだ。皮膜をはがしていくとは、こうした過剰な情報や実体のないイメージをはがし、そこに「何」があるかを確認する作業のことである。

皮膜をはがした先に見出したのが、まずは「わけあり商品」が象徴する低価格であったが、価格以外にはないのか、あるいは価格そのものがこれから変化していくであろうか、まだ誰も提示し得てはいない。私もここ数ヶ月間考えているテーマであるが、これからの日本経済がV字回復するとは思えない。雇用は更に悪化し、特に地方、中小企業は出口が見えない情況である。そうしたことを背景に考えると、ここ何回か「草食系世代」の消費を見ていくことが極めて重要であると指摘してきた。少し前に日経新聞が消費しない貯蓄世代として「under29」という世代を取り上げていたが、更に消費しない世代が草食系世代である。注目すべき理由は、一言でいうと「一番お金を使わない節約世代」だからである。つまり、別の価値観によって消費を行っているということだ。未来は不安だらけということもあるが、買う理由、使う理由が見出せないから、そのお金は預貯金にいくだけである。例えば、かれら草食系世代の消費を代表していることの一つに「車離れ」がある。私たちの世代であれば、買い換え需要期であれば、価格の問題もあるが「エコカー」という価値観で車を買うであろう。これは従来の「大人の価値観」、HVや電気自動車に新しい価値を見出すということである。しかし、草食系世代にはそうした価値観はない。

今、草食世代は黙って「誰からも好かれる人格」を演じている、私にはそう見える。そして、私が「二十歳の老人」と呼ぶように、情報的には体験を積み重ね既に老人の域に達している。つまり、かれらが自ら体験したいとするリアルな「消費」、特別な消費欲望が向かう先は、ある意味未来の消費価値を体現することになる。ファミリー消費の今(消費氷河期に入るか否か)を計る指標としてディズニーリゾートの集客数を指摘したが、草食系世代の動向は、いわば未来消費の羅針盤のようなものだ。繰り返しになるが、草食系世代は物心がつく幼い頃から、バブル崩壊、従来の価値観神話の崩壊、・・・・今回の世界同時大不況を肌身で実感してきた。つまり、生まれたときから、混迷、混乱、激変といった何が起こるか分からないカオスの世界が全てであった。そして、重要なことは「これからも混沌世界は続くであろう」と思っているからだ。

例えば、人生で一番高い買い物は住宅であるが、従来の発想であると資産価値を得ると共に、家具や家電、更にはテーブルウエアーに至る周辺商品を一緒に購入する。つまり、住宅需要とは裾野が広い市場であると理解してきたが、そのような所有観、購入観、生活観が変わるかもしれない。つまり、車離れもそうであるが、従来とは全く異なる「車文化」を創造できるならば、超節約世代も消費へと向かうかもしれない。つまり、所有価値ではなく、レンタルといった使用価値にウエイトを置くライフスタイル文化が生まれるかもしれない。例えば、カーシェアリング、ルームシェアリングのような「共同使用」といった使用価値観も広がるかもしれない。いわゆる低成長時代、いや右肩下がりの時代の新しい合理的な価値観である。つまり、新車であれ中古車であれ、所有を前提にしてきた自動車産業、あるいは住宅産業など多くの産業の在り方が根底から変わるということだ。実は、無駄を徹底的に無くし、使用価値を追求したのが江戸のライフスタイルであった。未来市場を解く「鍵」は、この世代を中心とした所有から使用への価値転換にある。(続く)

あなたにおススメの記事


同じカテゴリー(新市場創造)の記事画像
マーケティングノート(2)後半
マーケティングノート(2)
2023年ヒット商品版付を読み解く 
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半  
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半
春雑感  
同じカテゴリー(新市場創造)の記事
 マーケティングノート(2)後半 (2024-04-07 13:03)
 マーケティングノート(2) (2024-04-03 13:47)
 2023年ヒット商品版付を読み解く  (2023-12-23 13:34)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半   (2023-07-05 13:21)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半 (2023-07-02 14:15)
 春雑感   (2023-03-19 13:29)

Posted by ヒット商品応援団 at 13:50│Comments(0)新市場創造
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
未来消費の羅針盤
    コメント(0)