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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

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2012年04月21日

物見遊山の消費文化

ヒット商品応援団日記No525(毎週更新)   2012.4.21.

今年から団塊世代が65才を迎え、つまり年金受給世代としてどんな消費を見せるか、私のブログにも「団塊世代のヒット商品」というキーワード検索で多くの方がアクセスしてくれている。6年程前にも60才定年を迎えるにあたって40〜50兆円という退職金争奪戦に注目が集まった。しかし、周知の通り、その多くは株や投資信託へと向かったが、リーマンショックによって金融資産は30〜40%減となり大きく目減りした。こうした経済背景と心理ショックを踏まえたうえでの年金受給生活である。
ところで、今日のライフスタイルの原型は江戸時代にあるというのが私の持論であるが、現役を引退した「ご隠居さん」は江戸文化を花開かせたものの一つとなっている。その江戸時代の4大隠居文化といえば、「魚釣り」「盆栽」「歌舞音曲」「俳句」であった。さて、団塊世代が65才を迎え、どんな現代隠居文化が流行るか考えてみたい。

この団塊世代が具体的にどんな消費を見せるかであるが、その第一のヒントはどんな時代を送ってきたかを探ることのなかにある。周知のように団塊世代の命名者は堺屋太一さんであるが、一塊となった分かりやすいマーケットである。その団塊世代であるが戦後という荒廃した町や村にあって、しかも食べることにも不十分で「ひもじい経験」をした世代である。食を始め多くの生活に必要な必需商品が無かった時代。一言で言えばモノ不足の時代経験が大きくその後の消費を決めてゆくこととなる。その少年期であるが、多くの新しい商品が続々と市場化される。つまり、何も無かった生活のなかに新商品が次々入り込んでゆく時代であった。
白黒TVを始め、未だかって手にしたことがなかった一眼レフカメラ、ステレオ、ギター、青年期に入れば車やバイクなど高額でなかなか手に入らなかった新商品が広く市場化される。また、1ドル360円の時代にあって、海外旅行といえばせいぜいハワイなどへのハネムーン旅行程度であった。つまり、団塊世代にとって子育ても終わりやっとそうした商品や時間を手にすることができるようになった。例えば、カメラ好きは、今やヴィンテージとなったコンタックスを持ち、カメラ小僧になって旅に出る。バイク好きはハーレーに乗り仲間と一緒にツーリングする。関東であれば伊豆スカイライン、関西であれば京都の北に位置する美山の林道へと。
まるで少年少女に再び戻っていくような気持ちである。ある意味、「失った何か」「失った時」を取り戻す旅となる。リタイア後の人生を第二の人生と表現するが、過去のなかに第二の人生を見出す旅のことである。

ところで江戸時代の隠居文化、道楽は別な言葉で言えば「時間を楽しむ」ということになる。亡くなられた杉浦日向子さんは好きであった江戸を次のように書いている。
「江戸の人々は”人間一生、物見遊山”と思っています。生まれてきたのは、この世をあちこち寄り道しながら見物するためだと考えています。・・・・・ものに価値をおくのではなく、江戸の人々は、生きている時間を買います。芝居を観に行く、相撲を応援しに行く、旅に行くーーーと、後にものとして残らないことにお金を使うのが粋でした」(「お江戸でござる」杉浦日向子より)

JR東海のCMに「いま、ふたたびの奈良」というキャッチフレーズがある。団塊世代を意識したコピーである。団塊世代にとって修学旅行といえば京都&奈良であった。中学の生徒時代は「修学旅行」であったが、65才という年齢を迎え、過去を思いつつ生きてる時間を実感する旅である。
団塊世代の消費文化の根底には、江戸の「粋」ではないが、物見遊山という精神世界を見出すことが出来る。旅の途中に出会った里山が好きになり、古民家を購入し移住する。そんな田舎暮らしも物見遊山の旅、生きてることを実感する旅である。自宅を改造し、少女期になりたかったパン屋さんを開業する、そんな夢の実現も物見遊山の旅と言えよう。
先日JTBから今年のGWの旅行動向の発表があった。期間中に1泊以上の旅行に出かける人の総数は前年比4,2%増の2120万8000人となり、このうち海外旅行者数は、昭和44年の調査開始以降過去最高を記録した平成12年に次ぐ56万3千人に上る見通しであると。昨年秋から東日本大震災によって萎縮した消費も徐々に戻って来たと言える。ただ、こうした旅行者にはシニア世代も含まれるが、シニア世代の旅はこうしたGWといった休暇期間以外の時間の旅となる。勿論、1年365日自由時間であるが。

団塊世代をはじめとしたシニア世代をアクティブシニアなどと呼んでいるが、現象的にはここにもあそこにもといった具合に世界中いたるところで見かけるからであろう。夫婦、旧友、クラブの仲間、・・・・いわゆる「観光」の旅もあるが、途上国へのボランティアやまだまだ現役とばかり働くシニアも多い。それら全て、物見遊山の旅である。後ろから見る限り、年齢不詳、全く年齢を感じさせない、そんなスタイルと行動である。
勿論、身体機能は落ち、病気の一つや二つは持っている。例えば、商品のプライスや使い方など文字を大きく分かりやすくすることは重要ではあるが、間違った商品開発が多く見受けられる。十数年前シニア向けにソフトデニムのジーンズが発売され一定程度売れたが、その後は数年前話題となった980円ジーンズのように低価格商品が市場を席巻した。先日銀座で新しいデニム商品のファッションショーが行なわれたが、これは新たなマーケット開発の意味としてはあるが、ジーンズそのものはもっと売れて然るべきものであると思う。団塊世代にとってジーンズは身近に米国文化を感じさせる商品で、青春を想起させる商品である。十代の頃と比較し、体重は増え、ウエストも太くなり・・・・・・しかし、はけるものであればはきたいファッションの一つである。団塊世代であればジーンズ=リーバイスであり、その象徴を品番でいうと501である。しかし、細身の501は窮屈すぎてはくことはできないが、ゆとりのある503であればあの頃の「青春」を感じさせてくれる。ただ、あの頃感じたジーンズはもっと地厚な生地でごわごわしたデニムであった。そんなジーンズが求められている。ダメージジーンズなど論外ということだ。これが第二のヒントである。

少年少女期にモノ不足体験をし、モノの豊かさを追い求めてきた団塊世代もモノから離れ物見遊山という時間を楽しむ時を得た。さて江戸時代のように「隠居文化」という新しい市場を創造しえるであろうか。江戸時代は現代と違って、ある意味幸運な時代であった。よく鎖国といわれ外国と遮断されたように想像されるが、海外取引は長崎を通じて盛んに行なわれ、例えば象なんかも輸入されていたぐらいであった。幸運という意味は一番影響をもたらしてきた中国が明から清への混乱期にあって日本への介入がほとんどなかったからである。鎖国はある意味中国から自立した国家として政治的にも経済的にも整備された時代であった。そして、隠居文化をはじめ江戸庶民文化が時間をかけて熟成されたのである。
江戸との比較で現代はどうかと言えば、江戸が鎖国という容器のなかで熟成・発酵され固有文化が生まれたのに対し、現代はといえば標準化というグローバリズムの波による一般世界・共通文化となる。更に熟成に必要な時間的余裕はなく、文化はあっても個人単位のなかにしか生まれない。庶民文化という文化市場、マス市場化することは現時点においてはないと思う。個人単位においてもグローバル市場にあって際立つ現象は出てくるとは思えない。しかも、それらは「クールジャパン」、マンガやアニメ、禅やサムライがそうであったように、外側、外国人によって表舞台へとあがる。江戸の隠居文化の一つである盆栽が日本人ではなく、海外オタクによって盆栽の持つ小宇宙、その精神世界に注目し、次の「クールジャパン」として考えられているように。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 10:37Comments(0)新市場創造