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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年08月05日

所有からの自由

ヒット商品応援団日記No389(毎週2回更新)  2009.8.5.

以前居たマーケティング会社の社内勉強会の延長線上で始めたブログも、5年目を迎えることとなった。当時の勉強会参加メンバーは、メーカーやデベロッパーへと移り、あるいは子育て中といったように各人各様活躍しているが、今なおこのブログを介したつきあいをしている。以降、沖縄で子育てしながら起業したいと頑張っていた主婦二人を応援に出かけ、今は小さな塾へとつながっている。1週間に1度の更新が2回になり、沖縄を始めとした地域ブログにも同じ内容のブログを書き、累計で約22万人の方が読んでいただいている。最近では1日約200人を超えるアクセス人数となり、PVも350〜400となった。マーケティングという専門分野、しかも社内勉強会を源としていることから、かなり限られた方を対象としてきたにも関わらず、当ブログに訪問いただき感謝する次第である。

ところで、前回のブログでunder29、特に草食系世代の価値観が江戸時代の価値観と良く似ていると指摘をした。「今日」のライフスタイルの原型が江戸の生活文化に見いだせる点については最近になって少しづつメディアに取り上げられるようになった。夏の風物詩である「花火大会」も江戸時代に生まれ、今日のファーストフーズである「屋台」や「銭湯」の普及もそうであり、1日2食であったライフスタイルが火事が多かったことと豊かになったこともあり江戸中期には1日3食へと変化したのも江戸時代であった。今日と較べ粗食ではあったが、江戸前と呼ばれた新鮮な魚と近隣の農村でつくられた新鮮野菜が毎食食卓にのぼる。これも今風に言えば地産地消ということになる。また、江戸湾には一番喜ばれた魚である鯛を生簀で飼っていたとの記録も残されている。今日言うところの鮮魚、活魚を食していたという訳だ。

さて本題であるが、総人口3000万人、ほとんど増減がなかった日本において、最初40万都市であった江戸が120〜130万都市にまでふくれあがり、幕府から「人返し令」が出るほどの魅力があった。東京への一極集中の是非が指摘されているが、当時の江戸は武士が50%、町人や農民等が50%、今風に言えば生産人口は半分しかいない「消費都市」であった。鬼平犯科帳の火付け盗賊改方長官ではないが、当時は極めて火事が多かった。長屋の一部屋は3坪程度で、狭いように感じるがほとんど寝室(ベッドルーム)兼台所(ダイニング)だけの利用である。町には銭湯(バスルーム)があり、その二階には世間話ができる場所(リビングルーム)があり、更には何か食べたいなと思う時には屋台(ファストフード)もあった。そんな寝室兼台所だけのような長屋にも火事は多発するのだが、古材を使って2〜3日には元通り住めるように建て直しが行われていた。こうしたことが可能であったのも全てが「町単位」というコミュニティがあればこそであった。つまり、ほとんどが地方出身者(95%)の寄せ集め都市であった江戸の生活とは、町単位での行政、治安、生活というコミュニティルールが作られ、そこでは身軽に、手軽に、自由に生活することが出来た。つまり、長屋という賃貸もさることながら、町単位での共同使用であり、個人所有という概念がほとんど無かった。

江戸時代は士農工商という身分階級制度があり、自由ではなかったと理解しがちである。しかし、士農工商も明治政府の教科書によってPRされて広まった言葉で、江戸の庶民はそんな階級制度があったなんてほとんど知らないほどであった。自分の上には親方がいて、その上に町名主、町役人がいる。つまり、職業の上下関係はあっても、職業別のランク付けなど無かった。一種の横並び、フラットな分業感覚で経済、社会が運営されていたということだ
そうした江戸には福祉やボランティアに該当する言葉はなかった。お金のある人はお金を出し、お金はないが力を出せる人は力を出す、そんなコミュニティ風土がベースにあった。例えば、江戸の一大ブームとなったお伊勢参りを始めとした旅行であるが、若い娘は一人で出かけ帰ってくる時にはお腹に赤子を授かっていることが多発したようだ。当時にもネグレクトはあり、産んだ赤子をそのままにして行方をくらます娘もいた。そんな時は、子は天からの授かりものとして長屋で育てることが至極当たり前であった。熊本の赤ちゃんポストは病院であったが、江戸では長屋の住民が力を出し合って育てていた。

生活でいうと、非所有、共同利用、という概念そのものであるような業態が江戸の至る所にあった。物を大切にするとしたエコロジー社会であることと共に、3坪という狭い居住スペースということと、江戸は単身赴任者が多いこともあって「レンタル社会」が存在していた。貸本屋だけでなく、手ぬぐい1本から墓参りの代行までを引き受ける「損料屋」という商売である。勿論、犬や猫のペットレンタルもメニューにあった。レンタル期間も数年から数時間まで設定されていて、日中の日が出ている時間だけ貸す「昼貸し」、逆に日暮れから夜明けまでを「夜(よ)貸し」という具合であった。ビジネスの仕組みは「損料(レンタル料金)」の他に保証料が設定されていた。例えば、レンタル料が10文の場合、保証料20文の合計30文を預け、レンタル品の返却時に20文を返すという盗難防止の仕組みである。
江戸にはこうした損料屋が今日のコンビニのように無数にあったが、これは江戸固有の商売で、京都や大阪にはほとんど存在していなかった。これは単身者が多かったことと共に、火事が多く、所有するよりかは「借りて済ます」という合理的な考えが徹底していたと江戸研究者は指摘している。

車やオフィス、あるいは部屋のシェアリングだけでなく、PCのサーバーも共同で利用する時代である。例えば、レンタルという仕組みも従来だと所有したくなるようなハーレーダビットソンやBMWといったバイクもレンタルの時代へと移りつつある。その代表的レンタルショップが東京町田の「レンタル819(バイク)」で、店舗拡大し急成長している。オシャレはしたいが買うにはチョット手が届かない、そんな女性達にブランドバッグのレンタルも1年ほど前から人気となっている。チョット変わったところでは、長野県飯田市の「いろりの里大平宿」では、廃屋になりかねない古民家を1泊2300円という格安料金で一般に開放し、薪割りから風呂たき、炊事、掃除といった何も持たないことを遊ぶ、そんな試みも始まっている。つまり、「持たないことの幸福」、「持つことからの自由」、使うことにこそ意味がある、そう考える若い世代が増えてきている。物の本質は所有ではなく、「使う」という使用頻度にあるということだ。

さて、江戸時代のライフスタイル価値観と今日のunder29、特に草食系世代の価値観との類似点であるが、短絡的に共通項を見出すつもりはない。ただ比較して見ると、江戸時代には火事・盗賊という不安が常にあり、草食系世代にも雇用を始め常に不安がつきまとっている。他にも、江戸時代=単身社会、今日=個人化社会という見知らぬ人間同士が住む社会。3坪長屋とワンルームマンションという賃貸の滞在型ライフスタイル。宵越しの金は持たない江戸っ子/実はその日暮らしであった、と今日では非正規労働が約半数の日雇い労働。類似点を挙げればきりがないが、江戸と比較し根底から異なるものもある。今日の日本、特に都市においては大家というリーダーによる長屋というコミュニティを喪失している。また、共同、共有という思想もまだまだ希薄である。
ところで、under29、草食系世代が次なる消費の羅針盤であると私は書いたが、所有から自由になり、持たないことの満足を追求する潮流は確実に大きくなっている。私のような団塊世代は物の欠乏時代を経てきた。物を生活の中に取り込むことに満足を得、また働いてきた。しかし、経済が停滞、右肩下がりの時代にあって、物の所有にとらわれない、所有から自由である市場が生まれつつある。結果、所有を前提とした物づくりや流通、ビジネスフォーマットが根底から変わるということだ。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:45│Comments(1)新市場創造
この記事へのコメント
サイト運営し始めた者なんですが、相互リンクしていただきたくて、コメントさせていただきました。
http://hikaku-lin.com/link/register.html
こちらより、相互リンクしていただけると嬉しいです。
まだまだ、未熟なサイトですが、少しずつコンテンツを充実させていきたいと思ってます。
突然、失礼しました。
12a6WS52
Posted by hikaku at 2009年08月05日 15:19
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