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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2018年04月08日

創られるものとしての「伝統」 

ヒット商品応援団日記No709(毎週更新) 2018.4.8.



大相撲の舞鶴巡業で挨拶中に倒れた市長を救命した女性に対し、「土俵から降りろ」とアナウンスがあったことが報道されている。
相撲は「女人禁制」が伝統と信じ込んでいる観客が騒いだことから、若い行司が慌ててアナウンスしたという経緯とのこと。人命と伝統どちらが大切かといった図式で論じられることが多いが、人命が何よりも最優先されるべきは当たり前のことであるが、そのことよりも相撲は「女人禁制」であることが伝統であると解説する相撲解説者が多いことに驚く。

私は今日のライフスタイルの原型の多くが江戸時代に創られていることからこの相撲という娯楽も考えてきた。少し前の暴行事件に際し、相撲は神事・武道、興行・娯楽、スポーツ・競技という3つの要素を併せ持った日本固有の伝統文化であるとブログも書いた。この3つの要素のなかで江戸庶民を惹きつけたのが興行・娯楽としての相撲であった。
相撲は江戸時代の中期になると歌舞伎や寄席、浮世絵といった人気娯楽の一つになるが、実は女人禁制と言われるが「女相撲」もこの頃広く娯楽として浸透している。勿論、まわしをつけての半裸状態での相撲である。元禄文化と言われるように爛熟した時代で、多くの見世物小屋が出来て、全国300箇所に及んだと言われている。この娯楽のコンテンツは新しい、面白い、珍しいもので極論ではあるが好奇心を満たせればなんでもコンテンツ・出し物としていた。サーカス、動物園、美術館、お化け屋敷、更には大道芸をごった煮にしたような感じで、蛇女などグロテスクなキワモノもあった。入場料(木戸銭)は32文(約640円)ほどで、歌舞伎のチケットが一番安くても100文(約2,000円)くらいだったことを考えても見世物は気軽に楽しめる娯楽であった。よく知られた見世物としては動物園があって、珍獣であった象やラクダなどが大人気あった。江戸に象が来たのは、好奇心旺盛な八代将軍吉宗の時で一年をかけて江戸に着いたと言われている。以降、文久3年(1863)にも両国西側で象の興行が行われている。
江戸の見世物の中心は浅草寺の裏手にある浅草奥山と、回向院の近くにある両国広小路であった。浅草には今も見世物小屋の名残を残した日本最古の遊園地「花やしき」がある。そして、この花やしきには今尚「お化け屋敷」が併設されている。

こうした見世物としての娯楽は明治になり、文明開化の名の下に、風紀上公序良俗に反するものとして軽犯罪法が施行される。いわゆるキワモノとしての女相撲の禁止、蛇遣いなど醜態を見世物にすることの禁止、夜12時以降の歌舞音曲禁止、路上における高声の歌の禁止などであった。こうした女人禁制に関する明治維新の事情については漫画家小林よしのり氏がブログに書いている通りである。
これを機会に日本の娯楽と共に相撲も大きく変わって行くこととなる。こうした娯楽・歓楽街の変化の歴史については「未来塾」(浅草と新世界)にも書いているのでご参照ください。しかし、「女相撲」についても昭和の時代にもまだまだ人気があって、興行として成立していた。そして、昭和30年代ごろまでは見世物小屋も寺社の縁日や酉の市などでは見られていたが、次第に廃れて行くこととなる。ネットで調べたところ新宿花園神社の酉の市の見世物小屋で知られる「大寅興行社」のみが今尚興行しているようである。相撲もいくつかの興行が統合され、「相撲会所」から今日の相撲協会へと近代化が進んで行く。

ところで相撲研究者ではないのでその近代化の歴史を踏まえての考えではないが、日馬富士の暴行事件についてブログでコメントもしたが、「大相撲」のコンセプトの明確化が今問われていると感じる。かなり前になるが横綱審議委員会の委員も務めた作家の内館牧子氏はこの相撲における女人禁制に関し、「伝統」の変革に触れ、歌舞伎の女形や宝塚歌劇の男役のあり方と同じで、男女平等という考え方を当てはめたら、それは歌舞伎でも宝塚でもなくなってしまう。つまり土俵に女性を上げたら大相撲ではなくなってしまうと発言したことがあったと記憶している。そして、コンセプトに関わることだが、内館氏は横綱こそ品格が問われるとした発言を朝青龍問題を踏まえ繰り返し発言していたことがあった。内館氏は著書『女はなぜ土俵にあがれないのか』で大相撲の土俵を物理的には簡単に乗り越えられる〈無防備な結界〉の一つであるとし,それを理解するのは知性や品性だと指摘している。ある意味、今日の大相撲のコンセプトを創ってきた一人である。見世物としての相撲に「品性」という概念を持ち込んだということである。確かに歌舞伎もそのルーツを辿れば出雲阿国は女性であったが、次第に遊女歌舞伎が広まり、風俗営業が伴っていて風紀を乱すことから禁止となり、今日のような男性が女役を演じることとなって行く。伝統は常に時代と共に変わって行くものであることは間違いない。

物語消費というマーケティングの視座からこの「伝統」を見て行くと、「相撲物語」を創造し、一つの伝承文化にまで高めようとの試みのように見える。しかし、「無防備な結界」という、私の理解では聖なる場所と俗なる場所とを分ける境目を越えることはできないという限定の考え方については極めて難解で、わずかの人間しか理解できない概念のように思える。結界はあの世とこの世の境目のことで、身近なものでは住まいに置き換えれば、暖簾やふすま、扉、あるいは縁側なども境界という意味では結界の一種である。こうした考えは神道信仰によるものと思われ、相撲コンセプトのコアとなっていると推測される。しかし、内館氏のように多くの人が知性と品性によって理解共感することは極めて難しいことだ。「伝統」というのであればその根拠がわかりやすいことが前提となる。相撲における女人禁制は因習・しきたりであり、時代によって変えることはそれほど難しいことではない。よく伝統文化と言うが、文化であればその「物語」が明確でなければならないと言うことである。内館氏の言うような難しさが女人禁制を男女差別ではないかといった指摘もまた生まれることとなる。

そもそも「伝統」は既にあったものなのか、あるいは創られてきたものなのか、どちらかであることが明確にされることが必要である。歌舞伎の場合は出雲阿国から始まるかぶき踊りは遊女屋で取り入れられ(遊女歌舞伎)全国に広がるが、後に江戸幕府によって禁止され、女人禁制・女形が生まれることとなる。このように歌舞伎の場合は創られ変化してきたものとなる。結果、今日のように時代の変化に合わせた多様な楽しませ方が取り入れられて行くこととなる。
一方、相撲はどうかと言えば、神道における神事の儀礼的なことが土俵を中心に行われているが、そうした根拠は江戸中期から始まるが本格的には明治時代からである。古代の相撲は古事記にも出てくるように武芸・武術で命をも奪うものであった。奈良時代には宮中行事の一つとして行われ、中世には武家相撲へと変化して行く。このように常に変わっていったのが相撲であり、その歴史経緯から見れば今日の「大相撲」は伝統ではなく、因習・しきたりとしての女人禁制となる。

このブログの中心テーマの一つであるインバウンドビジネスにおいてもこうした「物語」づくりにおいても同様である。例えば、相撲は訪日外国人にとって興味ある日本文化の一つだが、内館氏の言う知性と品性を求めることは極めて難しい。更に言うならば、「大相撲物語」の根拠となる神事の理解も極めてわかりにくい。ただ、地方巡業などでは観客とは身近で小さな赤ん坊を力士に抱っこしてもらうフアンサービスがあるように、赤ん坊は元気に育つといった「因習」が広く残っている。勿論、こうした縁起の良いとされる因習を誰もが心底信じているわけではないが、これも大相撲における神事につながるわかりやすい小さな物語である。つまり、物語は理解と共に共感されることが必要で、過去そうであったからという理由で繰り返すことに身を委ねて行くことの中に伝統はない。伝統は多くの顧客の理解共感者によって育てられ、文化という物語が創られ継承して行くものである。そのためにはわかりやすい物語であると共に、時代の共感者、相撲であれば次の時代の顧客となる女性と訪日外国人の理解と共感によって変えて行くことが必要ということだ。相撲に限らず、企業活動において同様であることは言うまでもない。
今回の女性看護士さんによる土俵に上がっての人命救助を伝統と対比させるのではなく、大相撲は時代の要請にしたがって日々創られ変化していくという原点に立ち返るべきであろう。つまり、求められて変わる大相撲ということである。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:36│Comments(0)新市場創造
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