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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2016年05月17日

自販機もよう、人もよう 

ヒット商品応援団日記No645(毎週更新) 2016.5.17、

秋田港近くの船舶向け食品販売会社の軒先に置かれた、レトロなうどんの自動販売機にここ数ヶ月話題が集まっている。昨年、NHKのドキュメンタリー番組「ドキュメント72時間 秋田・真冬の自販機の前で」に取り上げられたのを機に、隠れた名所になり、全国から一杯のうどんを食べにやって来る。200円を投入すると約20秒で出てくる温かいうどんが、250食以上売れる日もあったという。
取材報道を見られた方も多いかと思うが、ひとつの場所に3日間。72時間ずっといたら、どんなことに出会えるだろう?人々が行き交う街角の片隅にカメラをすえて定点観測し、3日間の偶然の出会いを記録する、そんな番組である。

自販機を運営する佐原孝夫社長(73)が高齢を理由に3月末での廃業を決めると、別れを惜しむ客が押し寄せ、24時間営業の自販機は、頻繁にお湯切れを起こしながらも動き続けた。
自販機を譲ってほしいとの依頼も多数寄せられ、佐原社長は「港は思い出が詰まった場所。またお客さんに喜んでもらえたらうれしい」と、近くの道の駅に任せることにした。報道によれば秋田市の会社員加藤大さん(36)は父親が亡くなり落ち込んでいたときに「秋田一うまいうどん屋がある」と知人に誘われて以来、10年以上通う常連。「移転したら、もうすぐ生まれる子どもといつか食べたい」と笑顔で話していた。

なぜここまで人を惹きつけるのか、そこには番組の主旨でもある「人との出会い」という人生もようが自身の人生の写し鏡のように現れてくるからである。地元で長く愛されてきた一杯のうどんは時々の思い出とともに食べることになる。ある意味、過去を食べにやってくるということである。それをソールフードと呼ぼうが、思い出消費と言っても、必ずそんな「過去」が詰まったものの一つや二つは皆持っている。
3月以降連日連夜名残を惜しむ人々により行列ができている。そのため、お湯がすぐなくなりさらに列が伸びることに。それを心苦しく思った店主の「ひとり言」が自販機に貼られ、それがなんとも暖かく嬉しい。

俺のひとり言
お客さん待たへて申し訳ね。
俺も年だし湯っこわくまで時間かかるけど
だども寝ねで頑張っているんだ。
やっと湯っこわでも12食くらいしかないもの。
遠くからうどん食に来た人、
気つけで帰ってけれな!
おっとと車トラック入るがら気をつけてけれ。
あ~今日も寝られねー。

ところでこの自販機もようは、2010年6月60億キロの旅を終え、惑星探査機はやぶさが地球に帰還したことを思い起こさせる。わずかな予算で、壮大なゴールを目指し、燃料漏れやエンジン停止など多くの試練にもめげずに奇跡的な生還を果たしたはやぶさ。宇宙に興味を注ぐ少年や宇宙戦艦やまとになぞらえるオタクもいたが、戦後苦労した人生に重ね合わせて、はやぶさに拍手を送ったシニア世代も多数いた。
あるいは上野ー札幌間「日本初の豪華寝台特急」ともいわれた北斗星、カシオペアが2016年3月その運行を終了した。上野駅13番ホームにはそのラストランを一目見ようと多くの鉄道オタクたちが集まり、報道もされた。そして、口々に「お疲れ様」「ありがとう」の声がホームに溢れていた。この13番ホームについてはあの中島みゆきは「ホームにて」という歌を歌っている。

ふるさとへ 向かう最終に
乗れる人は 急ぎなさいと
やさしい やさしい声の 駅長が
街なかに 叫ぶ
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
灯りともる 窓の中では 帰りびとが笑う
走りだせば 間に合うだろう
かざり荷物を ふり捨てて
街に 街に挨拶を
振り向けば ドアは閉まる

周知のように、中島みゆきの出身地は北海道で、上京し降り立ったであろう上野駅を舞台にした歌である。上野は人生という「思い出」を語るホームであり、駅であった。惑星探査機も特急列車も、そして自販機もその果たしてきた役割を終えた「人生」を讃えるものであった。

その人生であるが、道元禅師の言葉の中に「切に生きる」という一節がある。「切に生きる」とは、ひたすら生きるということである。世は無常、常ならず、いまこの一瞬一瞬をひたむきに生きるということである。
ひたむきに生きるとは、辛いことをも「忘れること」ができるのが人間である。そして、時として秋田港の食品販売会社の軒先に置かれたうどんの自動販売機によって、自身の過去を想い起こされる。今回の自販機が紡ぎ出す人生物語のように。そして、ビジネスとして考えるとすれば、人生コンセプトということになる。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:31│Comments(0)新市場創造
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