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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2013年02月03日

人は自ら育つものである

ヒット商品応援団日記No543(毎週更新)   2013.2.3.

大阪市立桜宮高校における体罰を苦にしたバスケットボール部主将の自殺に引き続き、全日本女子柔道全日本候補選手への代表監督による暴行・暴言といったスポーツ界における問題が奔出している。スポーツと教育、スポーツと指導者、「スポーツとは何か」「教育・指導のあるべき方法とは何か」という本質への問いとなっている。体験に依拠した旧来型のスポ根や愛のムチ必要論と、スポーツは人間形成の一つであり、自らが考え引き受け行動するという自主性そのものに依拠すべきもので、精神論ではなく理にかなった科学的方法をこそ必要とすべき。2つの考えの衝突がメディアを通して語られている。ところがこうした議論の構図、特にマスメディアが用意した文脈にいま一つしっくりこない感がしてならない。

10年ほど前、ビジネスの世界でも「コーチング」が大きなテーマになったことがあった。勿論、人材育成が企業の成長に欠かすことができないという認識のうえで、数年先には団塊世代が定年を迎えどのように経験や技術を継承したらよいのかという課題でもあった。
その継承の根底にある人を育てるコーチングであるが、基本はコミュニケーションであり、インタラクティブであること、継続すること、そして相手に合わせる、ということである。当時は更に踏み込んで、既に表現されている技能や技術は「形式知」は学習すれば良い。そして、伝えたいと考えるコーチの経験則やそれに基づく感、技、知恵、アナログ感性という「見えないもの」をどう伝え継承したら良いのかということが議論の核となった。当時の議論を思い起こすと、体験や経験則はまずマニュアル化し、出来る限りデータベース化、数値化して「見える化」をする努力が多くの企業で採用されてきたと思う。ところがそれでもなお、継承できない、伝えることができないものが残る。それが「暗黙知」の継承、「暗黙知」をどうコミュニケーションしたら良いのかという課題であった。面白いことに、あのP、ドラッカーはそもそもビジネスは「丁稚奉公」であると指摘していた。「見えない」世界を感じ取る方法を丁稚奉公と呼んだのである。日本の就労人口の70%以上を第三次産業が占めており、ホワイトカラーあるいはサービス従業者には「現代の丁稚奉公」が求められているという指摘であった。桜宮高校の顧問教諭や女子柔道代表監督の側の問題指摘だけでなく、伝えられる選手の側、継承される側を含めた相互関係に問題の本質がある。

今回のスポーツに関する事件を見るにつけ、ある意味良き結果を残しているスポーツ界の監督やコーチがどんな履歴をもって監督やコーチとして臨んでいるかを見ていくと共通した「何か」を見出すことが出来る。例えば、ワールドカップ優勝、ロンドンオリンピック銀メダルの全日本女子サーカー監督である佐々木則夫氏、一方ザッケローニ監督の前任者である男子全日本サッカーの代表監督であった岡田武史氏、二人ともに共通することはサッカー経験者ではあるがいわゆる「スター選手」ではなかった。岡田氏は早大卒業後マスコミ志望がかなわず一般社員として古河電工に入社し、サッカー部に入団する。そして、選手として活動するのだが、当時から「考える」サッカーを実践し、後のコーチや監督の在り方にもつながる選手であった。つまり、選手と同じ目線に立つことが出来、失敗体験、出来ない理由などを実感・理解できたことにある。

そうした考えは指導者として広くマスコミを通じ知ることになるが、もう一つの共通項は「過去」にとらわれないということであろう。その過去とは勿論自分の過去体験であり、所属チームの伝統のような過去継承とは異なる、選手本位主義とでも言うべきものである。一見仲良しクラブ、友達関係のように見える監督と選手との関係は全く異なり、シビアなものである。
病に倒れたオシム監督に替わって代表監督となった岡田氏は自分が選手として行なってきた監督・コーチからの指示だけではどうしても世界では勝てない。選手は「監督のロボット」から脱しなければならないという結論に至る。言われたことだけする選手だけではどうしても勝てないということだ。選手の意識を変えるために多くの時間を使ったと後に語っている。そのために、世界で勝つ為にどうすれば良いのか、マスコミを含めベスト4を目指すなんてできっこないと言われたことを思い起こす。ベスト4という一つの限界を超えるために、選手自身の自発性を求めた。これ以上選手にとって厳しいことはない。自ら考え、やってみて、結果を引き受けるというシビアさである。そして、岡田氏は自発性のスタートとして、「自分がどのくらい弱いのか」を把握することから始めたという。間違ってはならない、どれだけ強いかではない。過去からの限界を超えるには素直に弱さを認め、超える為にはどうすれば良いのか自身に問いかけ、行動しなければならない。スポーツに限らず、人も、組織も同じである。
こうした自ら考え行動するチームの風土からは何が生まれるか。ビジネスでいうところのナレッジマネジメントのことであるが、チームリーダーが抜けてもチーム力が寸断されることなく、自然と次のリーダーが生まれてくる。例えば、なでしこジャパンにおけるキャプテン澤から宮間へのバトンタッチが良き例であろう。

ところで渋谷109の代表的専門店であるエゴイストもそうしたビジネス風土を持った企業である。1999年9月、わずか16.9坪という小さな店舗で月商2億8万円という驚異的な売上を残す。マスコミは一斉にエゴイストに注目し、カリスマ販売員、カリスマ店長というキーワードと共に渡辺加奈という名前が登場する。エゴイストもSPA(製造小売業)で、当時は韓国で生地を調達し、製造し、素早く日本に戻り販売する。その結果を踏まえ新たなデザインを起こし、韓国へと飛ぶ。チームを組み、このサイクルを1週間単位で回し続けていくビジネスであった。代表である鬼頭さんにインタビューしながら、アパレルの製造現場を知らない私でもその凄まじい現場の様相が実感できた。以降、渡辺加奈さん、森本容子さん、中根慶子さん、そして熊谷真帆さん、と歴代のカリスマを輩出する。
元々エゴイストのスタートはヨーロッパから仕入れ販売するセレクトショップであった。失敗とはいわないが、それほど売れたわけではなかったと鬼頭さんは話してくれた。そして、渡辺加奈さんという人材と出会い、当時誰も着目しなかった韓国製の生地と製造へと乗り出す。そして、凄まじいほどの限界を超えたビジネスを進めていくこととなる。カリスマリーダーを中心とした自発性に依拠したチーム運営。これもエゴイスト流のナレッジマネジメントである。そして、ものの見事にP.ドラッカーいうところの「丁稚奉公」となっている。番頭であるカリスマ店長の限界を超えるための判断や行動を身近に感じ、学び、体得したことを次なる場で自身生かしていく。それらがつながって今のエゴイストがあるのだと思う。

マスメディアは今回の事件の背後に柔道界を始めスポーツ界に根ざす金メダル至上主義や勝利至上主義を批判するが、目標を目指すことに問題があるのではない。柔道界や学校というたこ壷型構造のなかでの監督やコーチにこそ問題があるのだ。人を育てるのではない、人は自ら育つのである。監督や経営リーダーは自らを含めメンバーの意識改革をこそ使命とし、ナレッジマネジメントやコーチングを活用し、相互に理解・納得して活動する時代となった。その意識とは前監督岡田氏に言わせれば「弱さ」であり、私の言葉では「失敗」であるが、つまり問題はどこにあるのかという認識である。そして、それらを克服すべきは自身であり、選手やメンバーと「出来るための方法」を共有することから始めるということだ。そして、結果、人は自ら育っていく。 (続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:35│Comments(0)新市場創造
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