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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2013年01月25日

デフレとインフレが混在する消費市場

ヒット商品応援団日記No542(毎週更新)   2013.1.25.

一昨日、日銀から2%の「物価安定目標」設定の発表があった。このインフレ目標の是非と共に、マスメディアにおいてもネット上においても、デフレの犯人探しが盛んである。JMMの寄稿家の一人である、外資系証券会社のチーフストラテジストである北野一氏の「デフレの真犯人」(講談社刊)を読んだが、現場の実務アナリストならではの視座を持った分析で極めて示唆的かつ共感できる内容であった。是非一読をおすすめしたい1冊である。
1998年以降デフレが始まった10年余、政権が変わる度に多くの成長戦略が語られ、ゼロ金利は何年続いてきたのか、この国には「政府」と「日銀」しかないのだろうか、と北野氏は問う。そして、このデフレという経済の低迷には「民間」「企業」にこそ原因があるのではないかと異なる視座を提起する。それがROE(株主資本利益率)で、その間違った経営者の認識こそがデフレの原因であると指摘する。そして、供給過剰が問題であればROEは経営に役に立つが、しかし今日のような需要不足が深刻であれば「売上高」をこそ経営の目標とすべきであると提言する。

私はマクロ経済のプロではなく、更に北野氏が使うデータ類(日米の金利差)への深い理解はないが、デフレへの認識がより鮮明となった。つまり、日本経済を低迷させている犯人は、「物価」が問題なのではない。よく物価が上昇すると企業利益が増し、その先には給与も上がる、というロジックで日銀犯人説が説明されているが、さて物価が上がれば景気は良くなるであろうか。物価上昇に伴う利益が従業員の所得に回り、明日への心配が無い社会であれば、それは消費へと回る、結果景気も良くなる。しかし、ROE(株主資本利益率)を第一義とする経営からは、その利益の多くはまずは投資家へと回り、数年先従業員にやっと回るのか、あるいは全く回らない場合もあるのではないかという疑念、そうした経営の構造そのものが問題であるのだという認識が鮮明になった。
そして、今回の政府の政策であるが、そうしたROE重視経営を脱するための助成として、新規雇用だけでなく、在籍している従業員の給与や賞与を増やして人件費総額を拡大した場合も減税対象にするとした対策がどれほどの効果があるかである。これもまた大いなる実験と言えるかもしれない。

ROEという指標は投資家に対するリターン(期待金利)を最大化することにつながるが、需要がないところにおいては設備、人員、経費などを削減、スリム化することなど、全てが抑制的引き締めへと向かう。具体的には、例えば経費削減はもとより、賃金を下げ、有休設備を売却したり、そうして利益を確保しROEを最大化するのである。このように投資家ばかりに目をやる経営こそがデフレの犯人で、その多くはサラリーマン社長による企業が多く、オーナー型企業の場合は広く従業員や取引先企業などステークホルダーへの目線が行き届いている。そして、その経営であるが、デフレ化された市場に新たな需要を見出し、「売上高」を目標としている「脱ROE」企業群こそがデフレ脱却の旗手であると北野氏は指摘する。より具体的に言うならば、大企業と比較し中小企業の方が該当し、事実そうした企業が市場創造に向かい多くのヒット商品を産み出している。例えば、最近のサントリーの企業風土について実感していないが、「脱ROE」企業とは”やってみなはれ精神”が現場を動かしている企業のことである。


ところでROE重視経営を家計に置き直してみるとまさに同じで、そんなデフレ家計のことを「巣ごもり消費」と呼んできた。例えば家計における経費削減は安さのみで商品を買い求めたり、外食を減らして内食を増やすといった節約工夫、若い世代であれば流行となった弁当族であったりする。賃金はお父さんの減らされた小遣いが該当し、立ち飲み居酒屋ではないが「千ベロ酒場」(千円でベロベロに酔える居酒屋)が繁盛する。若い世代の支持を得て注目されている「俺のフレンチ」も同様である。まさにデフレ時代のデフレ家計・巣ごもり消費そのものである。節約されたお金はどこに向かうか。勿論、貯蓄で、企業における内部留保と同じである。
前回のブログにおいて上半期の消費行動について次のように書いた。

『以前「巣ごもり」しながら首だけを出して、キョロキョロ見回して消費する、そうした行動を「キョロキョロ消費」と呼んだことがあった。まさにこうした消費環境の変化に素早く敏感に反応することとなる。例えば、ちょうど円高を背景に、年末年始の海外旅行者数が増え、しかも少し遠出のヨーロッパ旅行が増えた。このように為替の上り下がりに敏感に反応する。』

こうした「為替の上り下がり」とは、金利の上下をうまく活用することと同じで、消費は常に移動するということである。消費増税法案が昨夏国会で通貨された後、ブログにも書いたが長期金利が低いこともあり、マンションや戸建て住宅購入の検討が始まっていると。そして、住宅ローン減税の延長を含め、その詳細が明確になると共に、巣から出て購入へと向かってきた。軽減税率実施時期を含めた消費増税の内容が決まるに従い、ある時は巣から出て消費へと向かい、次なる変化を見届ける間はまた巣ごもりに戻る。家計における「売上高」とは収入増が見込めることであり、アルバイトのような副業はこれからも増加すると思うが、1〜2年は緊縮・抑制的生活を行ったり来たりすることであろう。


そして、日銀による2%のインフレ目標が実施され物価が高くなる商品も出てくるが、例えば市場がグローバル化しているデジタル家電のような商品は競争市場ということもあって依然としてデフレ価格となる。また食品のような輸入に頼る市場では円安を含め、高騰する。こうしたインフレ商品とデフレ商品が混在する消費市場が出現する。こうした消費環境の下では、更に「キョロキョロ」見回し、それこそ最適な解を見出していくこととなる。今以上に精度ある情報が必要となり、体験・実感といったリアルさが消費のキーワードになっていく。ただ心配なのは1980年代後半のようなバブルにはならないと思うが、土地などの不動産価格が高騰し、資産デフレは解消できることとなるが、同時に住宅購入が難しくなることが想定される。そして、住宅の購入時期を消費増税前にすべきか、後にすべきか、控除内容検討してどちらがお得になるか決めるといった単純な問題ではない。不動産価格が上がれば、当然購入価格に反映されることとなる。

数年前、巣ごもり消費に代表されるような低迷状態にあって、私は「買う余裕が無いのか、買いたい商品がないのか」というある意味デフレの課題をテーマにブログを書いたことがあった。勿論、1998年以降10年間で平均100万円弱年収が減少してきたことを踏まえてであるが、「買う余裕があるのに、買いたい商品がない」唯一の市場がシニア市場である。百貨店に替わって、より専門性の高い編集を行なってきたSC(ショッピングセンター)であるが、その専門店群のほとんどが若い世代及び30〜40代のファミリーを対象としたテナント構成となっている。つまり、シニア世代のライフスタイルに沿った商品がほとんど無いというのが実情である。唯一充実しているものがあるとすれば、ウオーキング、ハイキング、登山といった健康関連商品と旅メニューである。しかも、その旅行であるが、旅行会社が企画した旅ではなく、シニア世代自身が企画する旅である。それは思い出旅行、リバイバル旅行の京都・奈良やハワイ旅行から始まり、若い頃お金が無くて単なる夢であった東欧チェコであったり、南の島バリであったりする。

今、政府はシニア世代が保有する預貯金を孫の教育資金への贈与に際し、非課税枠を拡大させてなんとか保有する預貯金を流通させたいと考えている。これも一つのアイディアであると思うが、その前に、企業は新たな需要を創造するために新たな「売上高」を目標とすべきである。つまり、「買いたい商品」という市場の創造である。私の友人の一人は、まずは自分たち夫婦で使えるだけ使い、子や孫には残さないと断言する。
例えば、若い世代であれば「俺のフレンチ」になるが、シニア世代の場合は「俺たちのおばんざい」(京都家庭料理)になるのか、あるいは「ニッポン巡り 離島キッチン」となる。この「離島キッチン」は昨年東京浅草のEKIMISEに隠岐の島海士町の郷土料理の店がオープンした、その店名である。しかし、家庭料理である「サザエカレー」他数種のメニューのみでリピーターはあまり期待しえない。面白いコンセプトなので、全国の離島にある隠れた郷土料理を再発掘してネットワークさせたら面白い。
昨年12月、好きな沖縄にまた行ってきたが、今回の食のテーマは「大東寿司」であった。沖縄の先にある離島、大東島の郷土料理で漬けにしたサワラのにぎり寿司である。わさびではなく、和からしの漬けで、さわらにはもちもち感があり、江戸前の寿司や関西の押し寿司、あるいは地方毎に具材が異なるチラシ寿司があるように、それらとは異なる珍味な寿司である。そして、離島キッチンと同様に、山間レストランがあっても面白い。

ところで地方活性のための町起こし・産業起こしの動きであるが、東京でのアンテナショップのブームは既に2年前に終わり、B-1グランプリもイベント催事による話題づくりの先が求められている。「離島キッチン」のような新しいコンセプトの下でのネットワーク型ビジネスが待たれている。こうした次の市場の動きはネット通販においても始まっている。2000年代初めに「お取り寄せ」通販が始まったが、全国うまいもの商品は一巡し、次が待たれていた。確か数年前のスタートであったと思うが、47都道府県の地方新聞社がお薦めする埋もれた商品のお取り寄せサイト「47CLUB(よんななくらぶ)」が急成長している。数年先には海外通販に進出すると聞いている。顧客は「未だ知らない何か」を求めているということだ。(続く)

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