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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2010年01月27日

100ー1=0、マニュアルという罠

ヒット商品応援団日記No439(毎週2回更新)  2010.1.27.

先日、2〜3のメーカーによるバーゲン催事、百貨店のバーゲンセールを見て歩いた。どこも90−50%offといったセールで混雑するほどの集客であった。しかし、ひと頃のようにこの時だけといったまとめ買い顧客は少なく、せいぜい1〜2点の買い物に終わっている。いわゆる客数は若干増えたが、客単価は減り、前年並みもしくは前年割れといったところである。勿論、催事フロア以外は閑散としていたことは言うに及ばない。
そして、通年であると2月のバレンタイン商戦へと向かうのであるが、その小売りエネルギーを感じることがない。恐らく、来週あたりから「婚活」女子向けのバレンタインといったテーマでマスコミが動くであろうが、それすらも寒々しい空虚な情報となるであろう。昨日、昭和59年にオープンした東京有楽町西武が年内に撤退すると発表があった。まさに消費の今を象徴した発表である。

ところで、私はこの2年間ほど、東京のOKストアを始め、鹿児島阿久根市のAZスーパーセンター、京都のスーパーNISHIYAMA、といった中堅の地域スーパーを取り上げてきた。勿論、東京にはOKストア以外にも、オオゼキやサミットストアなど頑張っている特徴あるスーパーも存在している。それぞれ地域スーパーの元気さの根底には、地域顧客が求める日常的要望をしっかりと捉まえているからである。日経MJ的に言えば、顧客情報のデータベースによるMD分析や社員力の向上、変化対応のある売り場づくり、徹底した無駄の排除・・・・至極当たり前のことをきちんと実行しているスーパーである。そして、顧客が求める日常的要望として、安心価格、安心品質、安心できる売り場環境、そして安心できるサービス、こうした原則を踏まえた上での「特徴」である。この特徴の出し方に違いはあっても、全て共通しているのが「現場力」「人力経営」である。

今、実質倒産したJALの再建が、経済誌やマスコミに大きく取り上げられている。破綻に至った経緯や問題点については多くが語られているのでここでは指摘はしないこととする。ただ、一番気になったことがある。破綻後のキャビンアテンダントへの取材で、それまでの顧客サービスをマニュアルによるものではなく、各個人が柔軟に対応するというものであった。私に言わせれば、放漫経営であると同時に、放漫現場であったということである。実はマニュアルというツールに安住してきたということだ。しかし、安住できる場所など無いというのが現実である。半官半民、エリート世界とはこのようなものであると分かってはいても、倒産を前にやっと理解し得たのか、遅れているなというのが私の実感である。これでは潰れるべくして潰れたのだと納得した。

少し古い話になるが、JALの破綻で思い起こされたのが1948年創業の東京の名所観光バス「はとバス」の再建についてである。「はとバス」も1990年代末債務超過に落ち入り倒産寸前となる。背景にはバブル崩壊による客数の減少であるが、1998年に東京都交通局長であった宮端清次氏が社長に就任する。宮端さんがおこなった改革の中でも一番大きなことが、現場での意識改革であった。大きくは2つの運動を提起し、宮端さん自ら行動する。一つめが「なら、しか運動」と呼ばれるもので、”私ならこうする、私しかできない”現場サービスをやろうというものである。奈良(なら)と鹿(しか)という分かりやすさで、一人ひとりが「はとバス」ブランドを創っていこうというものである。そして、理屈っぽくならないように「自分の信者をつくろう。”信””者”をつなげれば”儲”になる」という分かりやすい説明と共にスタートする。二つ目が顧客情報の収集と活用であった。ドライバーや添乗員がその日あったお客さまの小さな声、本音をメモし、それを「お帰りボックス」に毎回入れる。そうした小さな声を集め以降多くのヒットメニューを生み出すこととなる。今では当たり前となっているが、「レディスシート」、「ゆったり座れる28人乗りのピアニシモ」、「1人で2席のゆったりシート」、あるいは昼食ぐらいは家族で食べたいという声から「個室昼食プラン」、富裕層向けには「12万円の箱根日帰りツアー/往路にヘリコプターを利用」・・・・従来の団体・貸し切りという「量」を追いかけてきた経営から、一人ひとりの顧客を大切にする、リピーターによる現場経営への転換であった。勿論、わずか数年で復配できる企業へと生まれ変わった。

マニュアルはチェーンオペレーションを必要とする業種・業態で活用されてきた。マニュアルに準じれば、一定の商品品質、一定のサービス品質が得られるためのもので、多様な言語・文化を持つ移民の国米国で生まれたシステム運営ツールである。いわば提供する側の合理的なツールであるが、今や多様に変化し続ける顧客に対してはマニュアルを超えた自在な対応力が求められている。極論ではあるが、マニュアルは顧客にとって合理的ではないということだ。
巣ごもり生活における消費は、常に価格を軸としながら消費移動を繰り返している。その変化移動の動きを唯一キャッチできるのが現場であり、人である。顧客の多様さに向き合うにはマニュアルを捨てなければならないということだ。そして、現場の人材を信じることでもある。それは必ず現場の人間に伝わり、結果顧客にも伝わる。1990年代半ば、米国からストックオプションに代表されるような成果主義に基づいた評価の仕組みが導入された。しかし、周知のようにバラバラとなった個人化社会にあって、荒んだ競争しか生まれなかった。勿論、成果すら挙げることはできなかったということである。
私は現場のスタッフに常に言うことの一つに、「貴方はお客さんを好きになれますか」と。それは、とりもなおさず、経営者に対しても「現場のスタッフを好きになり、信じて任せられますか」ということと同じである。当時、私はこうした市場の在り方に対し、次のような記号で表現した。

100-1=99 ではなく 0であり
100+1=∞の可能性を追求すべきであると

つまり、1(イチ)とは何かということである。市場が心理化している時代にあって、1(イチ)はマニュアルには現れては来ない「何か」で、現場、人しか分からない「何か」ということだ。例えば、飲食店では最初に水やお茶を出しながらオーダーを聞きにくる。その時、厨房が混んでいて10分間待たされたとする。しかし、オーダーの時に「今、このメニューだと10分かかります。こちらだと5分で召し上がれます。いかがなさいますか。」と言われるか否かで、待たされた時間への気持ちは大きく変わる。これも1(イチ)である。チョットした気遣い、一言、アイディア溢れる応対、そして何よりもマニュアル(テクニック)ではない自然な笑みということだ。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:39│Comments(0)新市場創造
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