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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年12月02日

愚の力

ヒット商品応援団日記No424(毎週2回更新)  2009.12.2.

時代の踊り場にいる、と私は良く表現してきた。踊り場に立って見回してもどこに進んでいけば良いのか分からない、でも小さな一歩を踏み出すことが必要だと。混迷、混乱、ねじれ、混沌、閉塞、新たな価値観を創っていくために、この十数年踊り場で多くの事柄を見聞き、そして体験もしてきた。どう突破したら良いのか、パワーを求めた発言が多かった。最後は「人」に行き着き、最初の頃は知力から始まり、直感力、眼力、現場力、応用・転用力、大人力、脳力、最後は希望力といった具合である。
タイトルの「愚の力」は、「愚」をキーワードに西本願寺24代門主大谷光真氏が書かれた本のタイトルである。(「愚の力」文春新書刊)戦乱の世、何でもありの末法の時代に現れた親鸞の教えを今の時代に生かすための本として書かれものだ。大谷光真氏は「愚者になれ」と呼びかけているが、同時に愚者であることの自覚の難しさもである。いかに生きるかという人生の指針もさることながら、どうビジネスをすべきか多くの示唆を受け止めることのできる一冊で、是非一読をお勧めしたい。

私はマーケティングを専門領域としているので、ビジネス現場で愚者になるとはどういうことであるか、今回は私見を書いてみたい。
大谷門主は愚者の自覚には「裸の自分にかえること」であると言う。あるがままのビジネス、現場のビジネス実態、顧客から見たビジネス、あるいは経営数字から見えることもある。多様な視点による「自覚」が必要ではあるが、ビジネスの原点に立ち帰ると、「裸のビジネス」とは何か、ということである。言葉を変えて言うと、「何のためにビジネスをしているのか」ということでもある。大谷門主は、更に「愚者になる」とは人間は本来有限であり、その自覚を自分一人のこととして行うことであると言う。他者との比較ではなく、自分(自社・自店)で何が出来、何が出来ないかの自覚ということであろう。少し無理があるかもしれないが、私の言葉で言うと、競合との比較で自社・自店を自覚するのではなく、顧客に対する自覚ということになる。

10年ほど前、自覚の一つの着眼方法としてあったのが「顧客満足」であった。いつしか忘れ去られ、死語となってしまったが、今一度思い起こすことが必要な時代である。当時は市場競争下で「何」をもって差別化したら良いのか、常に他者を見て、特にサービス領域に違いを求めていた。つまり、顧客が満足する「違い」をいち早く探り提供することがマーケティングの主要課題であった。先日、ユニクロの柳井会長が記者会見であったと思うが、「同じ商品であれば、競争の最後には、無料となる」と。つまり、無料が唯一の競争力になるという意味であったが、価格に満足を求める顧客がマスマーケットを構成し始めていることは事実である。小売業はそうした顧客要請に従って、低価格商品のPB化を計ったり、訳あり商品をメニューに入れるようになった。今、円高であればイトーヨーカドーのようにタイムリーに「円高還元セール」を行うのは至極当然である。一方、生産者、メーカーは何を拠り所に顧客満足を得なければならないのであろうか。言わずもがなであるが、追随を許さない商品力そのものである。

こうした小売りとメーカーとの間で価格を間にした衝突がある。それは常にあることで、しかし顧客に対しては常に同じである。顧客にどれだけの満足を提供できるかという一点に於いてである。もっと分かりやすく言えば、どれだけ喜んでもらうかで、また次回も買ってみたい、食べてみたい、と思ってもらうことだ。リピーター顧客、俗に言うところのリピーターの囲い込みと理解してはならない。顧客は誰も囲い込まれたいなどと思ってはいない。
2年半ほど前に、「儲ける」と「役に立つ」  、この2つのテーマについて書いたことがあった。2つともビジネスには不可欠で表裏、鶏と卵のようなものであるが、この2つをもう少し分かりやすく整理すると、「儲ける」にウエイトを置くのが欧米の商慣習、「役に立つ」にウエイトを置くのが今までの日本の商慣習である。1990年代半ばから、日本も欧米型の儲けるビジネスへと大きくシフトしてきた。しかし、行き過ぎた儲け主義の先に待っていたのが周知のリーマンショックであった。私の考えであるが、今一度「役に立つ」 ことを続け、結果「儲ける」ことという理想に戻るべきと考える。

そのためには、顧客を、量で、数値で見てはならないという原則に戻ることだ。今日来てくれた顧客に感謝し、またのおこしをと願ってお辞儀することだ。お辞儀と言えば、やはり和菓子の「叶匠壽庵」の創業者芝田清次さんから聞いた話を思い出す。
芝田さんは太平洋戦争に従軍し満州で片目を失い日本に戻り、その戦争体験を踏まえ「美しく生きる」ことをビジネスとし和菓子の専門店をスタートさせる。話の中心はパリの菓子博覧会で優秀な賞をいただいた菓子職人の話であった。彼は身体が不自由でうまく接客できないでいたという。当時は、1号店を大阪梅田の阪急百貨に出店し、間もない時期である。職人も売り場に立って接客もこなす状況とのことであった。芝田さんは、うまく接客できないその職人にこう言ったと話されていた。”自分たちが創った商品をお買い上げいただいた思いを伝えたいのならば、ただ一つお客様が見えなくなるまでお辞儀をしていなさい”と。ハンディキャップのある職人さんにとって、出来ることはお辞儀であり、その自覚を促したということである。後日、阪急百貨店の方に聞いた話だと、小さな坪数であったが年間20数億の売り上げを上げたとのこと。

そんな効率の悪いことなどできないと思うかもしれない。しかし、叶匠壽庵の職人さんの思いはいつしか顧客に伝わるものだ。それが低価格市場の特効薬にはならないが、「小さな何か」が実を結ぶ。愚直なまでに、ひたすら何事かを追い求める、そんなことが問われている時代である。その愚直さの中から、次へと向かうヒット商品が生まれてくる。巣ごもり生活の中で心の扉は閉じられ、洪水のように押し寄せる断片情報に翻弄されることにも生活者は疲れてしまっている。そうした時代にこそ、「生き方」共感がキーワードとなる。大仰な理念をいうのではなく、愚者であることを自覚し、目の前のお客様に「たった一言」「たった1つのアクション」を真摯に本気になって示せばよいのだ。もし、その一言、1アクションが普遍性をもっているとすれば、それは大きなヒット商品となる。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:40│Comments(0)新市場創造
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