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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年11月04日

ブランドも原点に帰る

ヒット商品応援団日記No416(毎週2回更新)  2009.11.4.

ブランド価値、無形の資産ブランドという考えがビジネスに導入されてきた背景には、同じ機能を持つ商品がA社では100なのに、何故B社では120なのかという、誰もが持つ心理的価値に着眼してきたことによる。その心理的価値とは何かであるが、結論から言えば「人は皆、記憶の生産者である」ということにつきる。多忙な日常の中で記憶はある時何かに触発され、「思い出すこと」によって記憶は深く刻まれる。
名著「胎児の世界」(三木成夫著 中公新書刊)に書かれているような人類の生命記憶と共に、人の心に刻み込む何事かによって創られる(生産される)記憶もある。後者に多くのマーケッターは着眼し、人間心理に刷り込むようなマーケティング、残像効果を発揮させる手法、そんな記憶に残る思い出づくりをテーマとしてきた。その中心にブランドマーケティングを置いてきた。

この10数年間、和回帰や昭和回帰を始め、多くの回帰現象が至る所で見られた。回帰とは記憶をたどることであるが、その中心は団塊世代であったが、若い中学生にも回帰はある。例えば、一時期コンビニのヒット商品となった「揚げパン」は小学校時代の給食に出された揚げパンの記憶によるものである。それを私は「思い出消費」と呼んで、どの世代にも等しくある消費であると書いたことがあった。
あるいは、思い出時間は遠い過去の記憶ばかりでなく、少し前の近過去の記憶もある。古い話で恐縮であるが、コンビニの創成期には、夕方になったら電球や電池をカウンター近く目につくところに置け、と言われてきた。夕方暗くなり、そう言えば電球が切れていたと店頭を見て思い起こさせる方法である。市場が心理化したと言われるのは、こうした記憶を呼び起こさせるマーケティングのたまものでもある。

こうしたマーケティングの成果を踏まえ、あらゆる領域でブランドが生まれた。国、街、エリア、あるいは横丁に至る場所から、商品においてはそのほとんどがメーカーによってあるいは流通によってブランド化された。更には、カリスマという言葉に象徴されるように、人ブランド、あの人が作った商品といったように、継続した情報発信力によって全てがブランドとしてマーケティングされてきた。前回取り上げた地域ブランドもそうしたブランドの一つである。いわゆるメディア化社会の特徴でもあるが、ブランド競争は情報競争、実体としての固有のモノ価値からどんどん離れてしまった。過剰な情報競争に勝ち抜くには話題になることだと、それにはTVメディアに取り上げられることだと、ブランドの本質に根ざさない世界へと向かってしまった。
しかし、10年間で100万円所得が減ったことを見ても分かるように、消費は所得の関数という事実は1年半ほど前からブランド消費においても顕著となった。特に、話題づくりこそブランド化への第一歩とするようなブランドは急速に市場から消えていった。そして、ハイブランド、スーパーブランドというブランドはアウトレットで買われ、20〜30%程度売上を落とし、いくつかのブランドは中国市場へと方向転換を計っていることは周知の通りである。

ところで、先日象徴的な出来事がまた一つ起きた。戦後の高度成長期という豊かさを追い求めた時代の象徴であったファミレスの元祖的存在であった「すかいら〜く」の最後の一店がクローズしたというニュースである。その時代的な意味合いについてはここでは触れないが、すかいら〜くを始めとした飲食業界では「価格帯業態」について明確な考え方をとっている。すかいら〜く業態は顧客単価1000円、ガスト業態は顧客単価750円、ちなみに500円業態はテイクアウト業態で(お弁当+お茶)、ファストフーズ、コンビニ、スーパー、町の総菜店など大激戦市場となっている。すかいら〜くの閉店は1000円から750円へと顧客要望が変わったということである。
ブランドもこうした価格帯市場と無縁ではなく、兄妹ブランドとしてg.u.を発売したユニクロにはこうした価格帯市場を見据えたもので、その戦略性は高く評価したいと思う。

さて、課題は価格帯市場が進展するなかで、ブランドを育て創る顧客心理の今である。その前に考えなければならないことは、ブランドを育て創るということはどういうことであるかだ。「記憶」というキーワードをスタディしてみたが、ブランド経験、単に商品を買ったということではない記憶に刻まれた何か、そのことにブランド担当者は思い至らなければならない。育てるとは「ブランドの記憶を思い出すこと」であり、そうした記憶を伝承することだ。単純化してしまうが、ブランドを育てるとはその「記憶の継承者」をいかにつくっていくかである。
記憶は個人的なものとしてある。そんな個人の思い等付き合ってはいられない、これが誰しもが思うことである。しかし、たしか中国のことわざに「聞いたことは忘れ、見たことは覚え、したことは理解する」とある。体験、体感したこと、言葉では表しきれない個人的なこと、そのような感動、感激、感謝が記憶をつくってくれている。少し前まで、感動マーケティングとか、感動経営といった書籍が出されていたが、こうした背景からである。しかし、その多くはテクニックが中心となっていたため、価格帯市場を打ち崩すまでには至らなかった。

記憶に残る、深くこころに刻み込まれる何か、それがブランド再生への道となる。過去、多くのブランドについてスタディをしてきた。シャネル、ティファニー、ロレックス、SONY、・・・・その創業者の精神がどのように受け継がれてきたかをである。結論から言うと、明確なポリシー、理念、ミッションをもった人、生きざまをビジネスとしてきた人、そう表現できる。そして、全てのブランドに共通していることは、創業当時周りの人からは奇人変人扱いされてきた。例えば、とびっきりの奇人変人であったシャネルであるが、そのシャネルフアンは時代に向き合い既成に対し激しく戦う生きざま、その生きざまに共感する。シャネルの服を着るとはそうした生きざまを纏うことに等しいということである。シャネルの生きざま記憶と自身のブランド体験記憶とが重なることによって、深くこころに刻み込まれるということだ。
ブランドが再生する道はただ一つ。創業の精神に立ち戻ること、その生きざまを「今」に重ねてみることだ。それは前回取り上げた地域ブランドも同じである。単なる産地識別表示としてのブランドではなく、その地域はどんな生きざまを「何か」を通して見せることができるか否かである。日経リサーチによる地域ブランドの第1位は「讃岐うどん」であった。つまり、無数にある町の讃岐うどん屋さんが一店一店独自なうどんを提供するという地域の生きざまが見えるということだ。押し寄せる価格帯市場に対し、奇人変人と呼ばれようとも自身のポリシーに生きる、一人の顧客に対し愚直にがんばる、そんな生きざまをもって向かっていくということだ。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:41│Comments(0)新市場創造
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