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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年10月25日

知っているようで知らない時代 

ヒット商品応援団日記No413(毎週2回更新)  2009.10.25.

前回、「モノを売るのではなく方法を売る」、いわば発想の転換について書いた。それは何よりも、過剰な情報が飛び交う時代とは、常に断片・部分情報だけで、つなぎ直し、編集し、物語とするには素人の生活者には極めて困難である、という認識を背景にしている。そして、つなぎ直し、編集し、物語とすることこそプロの仕事であるとも。
以前、消費のプロである生活者はどんどんセミプロ化し、店頭に現れる顧客を生半可な知識で対応してはならないと書いたことがあった。何か矛盾するような表現となっているが、セミプロ化しているのは得意領域と知識情報についてであって、修行し得られた経験に基づく技、ある意味言葉では表現しえない世界は未知のものとしてある。実はそうした技や世界は応用力や転用力となって表れる。プロの料理人とセミプロの人間に、食材3種を渡し、どんな料理の広がりと奥行きが可能か実際に作ってもらえば分かる。セミプロの場合はせいぜい10種類に満たないのに対し、プロの料理人であれば数十種類のどれも見事な料理に仕上げられる筈である。若い修行中の料理人にまかない料理を作らせるのも、基本の習得と共に応用力や転用力を学ばさせる訓練としてある。あるいはプロのスタイリストとオシャレ大好き人間に、一枚のスカーフを渡し、どれだけ素敵なコーディネーションができるか、これも料理の世界と同じである。プロとセミプロを分けるもの、勿論技術もあるが、やはり想像力の有無、想像を働かせる訓練の有無、私の言葉で言うと編集力の有無であろう。

既に、知らないこと、複雑で理解するに難しく使いこなせないことを背景に、市場が分かれたのがPCや携帯電話である。周知の単機能PCや携帯と多機能PCや携帯の分化である。こうした傾向はデジタル家電の領域にも広がると思う。今、買い換え需要商品となっている薄型テレビも同じで、画面サイズに準じた価格帯となっているが、次第に単機能と多機能といった市場が現れてくることが予測される。
ところで、大変便利な調理器具の一つに圧力鍋がある。しかし、使いこなせない主婦が多く、圧力鍋を使いこなす教室が流行っていると聞いている。あるいは、電子レンジを巧く活用した煮物のように組み合わせ調理法に関心が集まっているとも。こうした道具類は常に技術進化し、新製品として導入されてゆくが、便利さとは裏腹に使いこなせない「道具難民」、特にシニア層において増加している。少し前にも巣ごもり生活について書いたが、便利さとは何か、必要とは何か、という問いかけが始まっている。

このような市場の動きを価格の2極化と呼んでいるが、それは結果であって、内実はセルフ・自己方式(低価格)とプロ診断・プロ指導式(プロに見合った価格)の2つの市場に分離し始めていると理解すべきである。今、市場を席巻しているのが、ユニクロに象徴される前者であるが、実は後者、プロの仕事の在り方の転換が促されていると理解した方が良い。このことは「低価格競争を超える方法」でもある。
プロは方法を売る。料理であるとレシピが方法化の一つではあるが、そこには応用力や転用力を引き出す想像を促すレシピとなっているものは極めて少ない。TVの料理番組の多くはレシピ本を出しているが、半歩進んだとは思うがプロの仕事に触れることにはならない。
ちょうど柿のシーズンになってきたが、昨年隠れたヒット商品の一つに通販の干し柿セットがあった。生柿と吊るす縄とその干し方ガイドをセットにした通販商品である。いわゆる手作りセットのニッチ商品であるが、これも一つのプロ指導による商品で前回書いたひととき農業と同じである。

断片・部分情報からは決して得られないプロの世界とは、ああこんな使い方もあるのだ、この発想にはまいったな、と、期待通り半分、期待を裏切ること半分、結果一つの想像世界を触発させてくれる世界のことである。
そして、プロは何よりも、自分が好きな世界、自分が食べたい、使ってみたい、着てみたい、他に見当たらないから自分でやってみる。ファッションであれば、アニエスbもそうであったし、古くはシャネルもそうであった。日本にも古くは北大路魯山人のように書家を目指すが、その食道楽から自ら包丁を握り、器を作り、顧客にふるまう料亭星岡茶寮まで作ってしまう人物もいる。そんな後世に名を残すような人物でなくとも、街の至る所にいるプロも原則同じである。

以前、スイッチ族というキーワードで便利さによって5感が失われてしまう時代のことを書いた。少し違う視点で言えば、生々しい現実を見なくても済んでしまう時代のことでもある。見ているようでまるで見ていない、知っているようでまるで知らない、これが情報の時代の一側面である。繰り返しになるが、スピードや効率故の断片・部分情報しか与えられていないからだ。しかも、それら情報は全て無料である。無料の断片情報を使って消費してきたのだが、生活者は情報とは何かについても気づき始めている。どんな情報でも瞬時に手に入る、そう勝手に思い込んできた。しかし、手に入らない情報も厳然としてあることに気づき始めたということだ。結果、生活者は数年前から急速に体験学習、リアルな現実に向かい合うことにシフトしてきた。
ある意味、新しいプロの時代に向かおうとしている。生活者の体験によるつなぎ直し、生活の再編集、新たな生活物語に手を貸すことがプロの仕事になる。もっと具体的に言えば、店頭・売り場に立つのは販売のプロではなく、顧客に実技指導を行うプロに変わるということだ。飲食店であれば、料理人自らが顧客をもてなすということであり、ファッションであれば顧客のスタイリングを指導するということである。つまり、極端な表現になるが店頭・売り場は学習の場、教室になるということである。勿論、プロは専門とする領域を常に学ばなければならない。プロの学習とは、顧客に先んじた未知の世界への冒険であり、挑戦である。そうしたサジェッションを受けて、顧客は生活の再編集へと向かう。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 14:02│Comments(0)新市場創造
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