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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年10月07日

ひとり応答歌

ヒット商品応援団日記No408(毎週2回更新)  2009.10.7.

前回、希望は自ら灯すもので、痩せてしまった歌が再び蘇るかもしれないと書いた。それというのも、作詞家阿久悠さんが亡くなる前に「日本人が失ったものを探し出すには2つの方法がある。1つが昭和の秋の最後を語ること、もうひとつが平成の春を語ること」という言葉を思い出したからである。
今、大変な氷河期の入り口にいる訳であるが、「平成の春」はポツンポツンとではあるが歌われ始めている。今年の春はそれほどではなかったが、周知のコブクロによる「蕾」や「桜」、あるいはブログにも書いたがアンジェラ・アキの「手紙」なんかは平成の春への応援歌であろう。

今、新政権による政治が動き始め、公共工事の是非を始め多くの論議がなされ始めた。それは阿久悠さんの言葉を借りれば「昭和の秋の最後を語リ始めた」ということだ。
政治とは、極まるところ、税金を何にどう分配するかである。結論から言えば、新政権の戦略は、公共工事より生活重視へ、経済成長重視から格差の是正重視へと、分配の転換を計ったものだ。
ところで、昭和戦後世代、その中心であった団塊世代は私もそうであるがこの「分配の歴史」を生きてきた。

映画「Always三丁目の夕日」に描かれているように、昭和30年代「集団就職」が行われ、地方から都市へと大きな人口移動が行われた。これは池田内閣による「所得倍増計画」によるもので、いわゆる成長重視政策であった。その成長の象徴が東京タワーや東京オリンピック、高速道路などの「公共」であった。高度成長期、いざなぎ景気と呼ばれた時代で、所得も右肩上がりとなり、三種の神器(白黒TV、洗濯機、冷蔵庫)から3C(カラーTV、クーラー、自動車)へと、消費が旺盛な時代であった。
しかし、都市に人やモノ、お金が集中することによって地方は疲弊していく。そうした時代とは、都市に生活し故郷に思いを馳せる応答歌、歌謡曲の時代であった。都市と地方、私と父母、男と女、離れてしまった間を埋めるかのように歌われた。演歌、艶歌、怨歌、縁歌、多くの歌謡曲が歌われた時代であった。この時代、応答する相手がまだいたということでもあった。

1972年、こうした都市と地方の格差是正へと分配の転換を行ったのが、田中角栄による「日本列島改造論」であった。一斉に各地方の道路を始めとした社会インフラが整備される。人(雇用)やお金(工事)が産み出され、結果モノ(消費)も促され、格差の是正がなされてきた。この分配の仕組みは小泉構造改革まで続くのであるが、日本全国経済的には平準化され、経済的豊かさを手に入れた。1960年代うさぎ小屋と言われた住居も子には個室があてがわれるようになり、反面いままであった家族団らん的世界は崩壊していく。個人化社会が生活の隅々へと浸透していく。1985年、お化け番組と言われたドリフターズの「8時だよ!全員集合」が終了し、1986年、阿久悠さんは「時代おくれ」という曲を書き、河島英五に歌わせる。そして、次第に歌謡曲に代わって、トレンドという言葉と同じように歌はJpopとなっていく。そして、バブル崩壊を迎えるのである。

バブル崩壊後、内向きであった列島改造計画はグローバル市場へと向かうために、日本改造計画として実行される。日米構造協議という外圧を受けて、内需から外需への転換が行われる。製造業の工場等は中国を始めアジアへの移転がはかられ、空洞化現象が起きたのもこの頃である。税の分配という視点に立てば、輸出産業へ、経済成長重視へと転換がはかられる。金融をはじめとした自由化、グローバル化の洗礼を受け、破綻する企業も出てくる。一方、IT技術を駆使し、従来の流通発想を変えたデフレの旗手といわれた新しい企業も誕生する。
度重なる赤字国債発行を抑えるために橋本内閣によって行財政改革が行われるが、実施に向かわないまま、最終的には小泉構造改革によって、財政再建を名目に地方交付金や医療など社会保障費の削減がはかられる。更に、一部の輸出産業を除き、景気は低迷したまま平均年間所得は10年で100万円減少し、いわゆる多くの経済格差が生まれる。歌は、応答する相手を失い、痩せ細り、拡散してしまう。

こうした成長重視から格差是正重視へと方針転換を行ったのが、2年前行われた参議院選挙前の小沢民主党であった。過去、新自由主義的発想を持っていた小沢一郎が、いつから方針転換を果たしたのか分からないが、恐らく小泉構造改革の総括をした結果ではないかと思う。その総括の根底にあったのが、格差がもたらす生活実感であったと思う。その象徴が「生活が第一」というスローガンに現れている。そして、今回の衆院選挙結果へとつながっていくのである。
税の分配という視点に立つと、格差是正の方向を、都市から地方へ、公共工事から生活へ、世代間的には高齢者から若い世代(子ども達)へ、外需から内需へ、もっと分かりやすく言えば建造物から人へ、ということになる。田中角栄による「日本列島改造論」は社会インフラの整備であったが、今回の新政権は生活インフラの整備・再建ということになる。ただ、こうした価値観転換にとまどい、更には旧来の延長線上でビジネスを考えている人達にとって混乱・衝突は不可避となる。今、論議されている群馬八ッ場ダムや沖縄泡瀬干潟の問題もそうした衝突としてある。ただ、心配なのは補正予算の執行停止によって、予測されている二番底という更なる不況の深化だ。

失われた世代、ロストジェネレーションという言葉があるが、バブル崩壊時の就職氷河期世代を指した言葉である。今また、第二の失われた世代が生まれようとしている。いや、既に生まれている。バブル崩壊当時、就職できないのは「自己責任」という一言ですまされた世代だ。恐らく、出口の見えない社会を創ってきたのは誰だ、という思いがあったと思う。そして、歌を口に出せないまま今日に至っている。
ところで、アンジェラ・アキの「手紙」は、未来の自分に宛てた手紙なら素直になれるだろう、だから「未来の自分に手紙を書いてみよう」と呼びかける。そして、生まれたのが「手紙」という曲だ。飛躍するかも分からないが、出口の見えない時代だから、せめても自分宛に手紙を書こう、歌おうということだ。そんな相手のいない、応答することのない社会、時代である。であればこそ、中学生達が「手紙」に共感したのだと思う。私の言葉でいうと、自ら明かりを灯す自明灯(じみょうとう)となる。自分に対し、言い聞かせるように歌うひとり応答歌。相手が見えない歌ではあるが、その歌は次の歌を必ず生むと思いたい。自明灯の例えでいうと、灯々無尽、一人の歌が一人の歌へと伝播し、大きな合唱になっていくということだ。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:54│Comments(0)新市場創造
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