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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年09月30日

理想という旗印

ヒット商品応援団日記No406(毎週2回更新)  2009.9.30.

前回、希望をなくしたその代替欲求、代償行為として過剰消費があったのではないか、と私は書いた。更に、巣ごもり消費生活を体験し、「必要とは何か」を考え、その必要の意味が変わってきたのではないかとも仮説した。古い諺に「立って半畳、寝て一畳」という言葉があるが、必要消費の意味が「立って一畳、寝て四畳半」であったという「過剰」への自覚である。
過剰消費の先には何が待ち受けているか、その一つは依存症の世界であろう。私自身も過去そうであったが、マーケティングの主要な仕事の一つに、「いかに頻度多く購入してもらうか」があった。5〜6年前、サプリメント依存症という言葉がマスメディアに取り上げられたことがあった。痩せたい、キレイになりたいという女性であれば誰でもがもっている心理であるが、ほとんど食事を採らずにサプリメントだけ、そうした生活を続けていくと次第に胃が小さくなり、・・・・・・そうした健康被害者を産み出しているという事実であった。

2年ほど前に、バラバラとなった個人化社会にあって、失ってしまった個族の居場所を提供する消費についてブログに書いたことがあった。
『ヒトリッチというキーワードは最早当たり前で、お一人様用の小さな隠れ旅館や隠れオーベルジュが人気だ。ヨン様から始まった韓流ブームやセカチュウ(世界の中心で愛を叫ぶ)、ハンカチ王子といった白馬の王子ブームも個族の精神的飢餓感から生まれたものだ。』
敢えて言うと、ヒトリッチ市場とは「何かに依存しないと生きていけない」個人化社会が産み出す必然的な市場のことであると。

あまり良い事例ではないが、酒井法子に代表されるような薬物汚染は依存症時代の典型であるが、覚醒剤や大麻は今やコンビニのようにいとも簡単に手に入る時代だ。つまり、簡単に依存症になってしまう時代ということである。しかし、時代の空気感は「依存」から「自立」へと向かいつつある。消費という面では、既に2年ほど前から過剰なものへの削ぎ落としが始まり、その影響を直接受けてきたのが周知の流通である。巣ごもり生活とは身の丈消費ということだ。更に言うと、リーマンショックの1年前に、既に東京の地価は下がり始めマンションは売れずに在庫となり、戸建住宅も建築費は坪20万円台前半という価格競争となっていた。リーマンショックによって、輸出企業、大手企業にも遅れて直接影響が出たということだ。

この2年間、様々な崩壊を目の当たりにし、生活という可能な場から生活者は再生へと踏み出した。今、やっと新政権になって多くの「過剰」を削ぎ落とすことに国も踏み出した。JALの再生問題の背景として、政官業一体となって産み出した過剰な空港問題があらわになったが、これも「必要」とは何かが問われている問題である。国も、家計も、「身の丈」という至極当たり前の考えに立ち戻ったということであろう。

ところで、私は鳥取県の委員を務めてきたが、前知事片山善博氏の話を聞いてのことであった。片山さんは破綻寸前であった鳥取県の行財政改革のために県民の多くから懇願されて知事になった人である。私の友人もその一人であったが、県庁へ行けば破綻寸前という実態がすぐに分かる。キレイに掃除はされてはいるが古くて暗い庁舎のままである。鳥取市と米子市を結ぶ県道は所々補修工事がなされ、でこぼこの道路である。計画中であったダム工事を見直しさせ、ダムの代わりに河川工事を行い予算の節減につとめたり、他にもさまざまなところで実態を目にするが、「身の丈」とはこうしたことである。しかし、多くの鳥取県民の方達と会ったが、一様に感謝の念を話していた。国家戦略室の「予算編成の在り方検討委員会」に片山さんが参加されると報じられたが、鳥取県はその良き先行モデルとなっている。

話を消費に戻すが、生活者にとって物という過剰からの脱出はなんとかなったが、「希望」への精神的飢餓感は依然として残っている。世代や環境によって希望は全て異なるが、やはり「自分の居場所」があってのことだ。それが家庭であったり、職場であったり、何らかのコミュニティであるが、もっと単純化してしまえば、「話し相手がいる」ということだ。
以前、「人力経営」という本を書くために、渋谷109、渋谷という街を研究したことがあった。1990年代後半渋谷に集まってきたティーンは、この話し相手を求めた個族の芽であった。大人にとって一種異様にも感じられる渋谷という街は、彼女達にとっては居心地の良い自由な舞台空間、学校にも家庭にもない「居場所」であった。そして、何よりも「大人」になるための学習体験の場であった。私はそうした社会体験の場の象徴として渋谷109を「大人の学校」と呼んだ。それは、時に援助交際や薬物中毒といった、大人の罠にはまってしまうという社会問題も引き起こすのであるが。そうした清濁、善悪混在した大人という希望への一種の通過儀礼空間としてあった。

個人化社会という現実はこれからも続くであろう。その個人は「話し相手」を求め、つなぎ合う行動へと向かう。それが家族であったり、職場やクラブ、組織、団体、さまざまな社会の単位で再編されていく。その時、問われるのが理想という旗印だ。どんな家庭を目指すのか、どんな街であったら良いのか、どんな会社を目指すのか。政治であれば、どんな国を、どんな地方を目指すのか、理想をどうデザインするかへと向かう。
今起きつつある変化は、多様な価値観の衝突によって混乱・混迷の世界を産む。政治課題は別にして、消費という視点に立つと、ある意味顧客に対する「理想力競争」という市場の変化となって現れてくる。その理想には勿論価格もあるが、作り手の思い描く理想もあるであろう。過剰を削ぎ落とした後、作り手と生活者が「理想」を間に話し合うことによって「依存症時代」を超えることが出来る。理想と現実とは違う、そんな時代から現実を理想に引き寄せる時代へと向かう。つまり、理想が新たな消費を創るということだ。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:42│Comments(0)新市場創造
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