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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年07月19日

バランス消費という視座

ヒット商品応援団日記No384(毎週2回更新)  2009.7.19.

バランス、真ん中、中庸、あれもこれも、多様な好み、こうしたことは話題にならないため報道されたり、テーマとして取り上げられることは極めて少ない。最近の消費キーワードで言うならば、「身の丈消費」なんかがあてはまる世界である。しかし、何が身の丈なのか、各人各家庭の財布と相談しながらの消費であり、その実像を的確に言い当てているとは言い難い。実は、一番重要なことは、バランスを取る「軸」は生活者にとって何なのか、を見出すことがマーケティングの最重要課題となっている。例えば、時にハレの日として小さな贅沢をし、ケの日常はやりくり算段をして過ごすというライフスタイルにおいて、それは「どんなハレの日」なのか、そして「どんな小さな贅沢なのか」を言い当てることと言えよう。

少し前に、「アリとキリギリス」というテーマで米国と日本の消費の違いを書いてみた。日本の場合、米国と同様格差は生まれたが、今回の大不況によって米国のように激しく消費が落ち込むことには至ってはいない。先日、四半期単位で行っている消費関連企業への調査の一つである日経消費DIの7月の業況判断指数は1年3カ月ぶりに反転したと報道された。しかし、「3カ月後の見通し」や「客数」などの指標も改善したが、業況判断指数の水準自体は低く、いまだ1990年代後半の金融危機並み。また、「売上高」回復の足取りも重いとも。つまり、底は脱したが、消費は低水準のままであるということだ。日経にとっては「消費に夏の熱気を」といった記事の書き方にならざるを得ないと思うが、私ならば、これが「普通」であり、このような消費の潮流がここ数年は続くと考えている。

ここ数年間の消費傾向、そのメガ潮流の変化についてこのブログに書いてきた。古くは「洋」のライフスタイルから「和」へと、ファーストライフからスローライフへ、個人化から家族化へ(シングルライフからファミリーライフへ)、ヘルシー系からガツン系へ、サプライズ効果から素の魅力へ、最近では都市から地方へ、グローバリズムからローカリズムへ、外食から中食を通じ内食へ・・・・・直近では付加価値から価格価値へ、情報による心理価値から実体のあるリアル価値へ、と言ってもかまわない。このように振り子のように物差しとしての価値がふれる様を書いてきた。一見混乱しているかのように見える消費であるが、振り子は必ず右に振れたらいつしか左へと振れる。私はこうした傾向を振り子消費と呼んできた。

私の仮説であるが、昨年からの「巣ごもり」生活によって、過去に遡り、更に体験と言う学習によって、こうしたバランスへの視座を生活者は持つようになったと考えている。昭和回帰がそうであったように、今は明治維新の受け止め方へと過去への遡及が始まっている。歴史本が売れたり、NHKの大河ドラマ「篤姫」が高視聴率であったり、おそらく明治維新に登場した人物に焦点に当てたドラマや映像は静かなブームとなるであろう。勿論、書籍で言えば、村上春樹の「1Q84」のように、トレンドの必須アイテムとしての読まれ方も一方ではある。成熟した時代、大人の時代、どのように表現してもかまわないが、各人、各生活者固有のライフスタイルを持つようになり始めている。つまり、バランスへの軸が定まりつつあるということだ。

もう少し俯瞰的に価値観変化を見ていくと分かるが、バブル崩壊によって旧来価値観を捨て、新たな価値観によって政治・経済・社会が動かされてきた。ここでは消費論としてだけ見ていくが、この十数年間根底にあった価値観は「私生活主義」、消費場面でいうと「マイブーム」がその代表であろう。1円でも安く買いたい、1円でも多くの投資に対するリターンを得たいとするごく普通の欲望が、結果として資本の暴走を生み、その暴走へと至るメカニズムが今回の大不況を引き起こしたことを通じ、やっと分かり始めたということである。私生活主義、マイブームの概念の中に「市民」はいない。少し無理な喩えになるが、近江商人の商いの心得に「三方よし」があるが、売り手よしと買い手よしだけで、「世間よし」という価値観がなかったということだ。

この「世間よし」という価値観が、実は「バランス消費」の大きな鍵になりつつあると考えている。「暴走する資本主義」を書いたロバート・B・ライシュに言わせると「市民」ということになる。「世間よし」とか「市民」という概念というとエコロジーといったキーワードが出てくるが、生活者にとって他にも沢山ある。例えば安心・安全というキーワードもそうである。食、あるいは農業問題についてだけでなく、観光においても安心・安全は大きなテーマである。今週、北海道大雪山系でシニア登山で遭難者を出したが、そうした極端なケースだけでなく、安近短という追い風もあるが変わらず観光客数を伸ばし続けている京都の魅力の一つが安心・安全である。治安といったこともあるが、特にシニアにとって何よりも歩きやすく、しかも分かりやすい「優しい街」が京都である。

京都という事例は分かりやすいのでもう少し言うと、「和」の象徴である寺社仏閣や街並が残る街であるが、最近では古い町家にインポートブランドが出店していたり、賀茂川沿いの床(ゆか)には京都の食材を使ったフランス料理を食べさせる店もある。一部のお茶屋さんは一見さんお断りで高額ではあるが、総じて安い料金でもてなしてくれる。つまり、京都には「変わらない素敵さ」と共に「小さな変化」を常に提供してくれる街である。この「変わらない何か」と「変えていく何か」とがバランスよくなされているということだ。

1990年代半ば以降、マスメディアの言うところの分かりやすが一番とばかりに、Yes or No、勝ち組と負け組、人口増=善と人口減少=悪、最近では地方分権は是か非か、といった二元単純化の世界から脱してきたように思う。消費論的に言うと、情報による一極集中化現象、依存症的志向、こうした偏った世界から脱し始めたということである。あるいはライフスタイル的には洋と和、ヘルシー系とガツン系、あるいは定番とトレンド、こうした対極にあるものをバランスよく取り入れていくことに他ならない。つまり、生活者のバランスに応えるように、街も、店も、勿論商品やメニューにバランスという視座が必要な時代を迎える。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:46│Comments(0)新市場創造
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