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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年05月17日

意味ある消費時代

ヒット商品応援団日記No367(毎週2回更新)  2009.5.17.

5月15日から「エコポイント制度」がスタートした。後期高齢者医療制度の時はその内容もさることながらネーミングに本音が見え隠れしてしまいブーイングの嵐であった。今回はそんな失敗から、馴染みのあるエコ製品とポイント制度とを結びつけたネーミングによる追加経済対策の中の内需拡大策である。しかし、そのポイントの使い道や第三者委員会による運営が決まっていない見切り発車となっている。エコポイントをキーワード検索すると分かるが、自治体や企業、NPO、街の商店街に至までエコロジーを進めていくための小さいが丁寧な助成制度や仕組みが組まれている。定額給付金支給もそうであったが、高速道路割引制度においても生活者の消費価値観の変化を熟考することなく見切り発車するとどれだけの混乱を起こすか理解されていない。しかも、今回の国による「エコポイント制度」は、一言でいうと、質の悪い販促事業である。

消費の価値観を考えていく場合、生きていく上での必需消費と旅行や娯楽のような選択消費とに分ける事が出来る。正確なデータではないが、バブル絶頂期であった1989年に食費や住居費といった必需消費が家計支出全体の50%を切り、娯楽や教育費といった選択消費への支出が上回っていく。以降、豊かな時代を迎えたと言われてきた。しかし、1998年以降収入は減り、ITバブルがはじけるが、円安誘導もあって輸出企業が復活し、金融分野においても規制緩和によって投資ファンドの活動が活発化し、新富裕層と呼ばれる新たな市場を産み出した。また、同時に格差といった問題もであるが。そして、昨年9月のリーマンショックを含め、今日の「巣ごもり状態」へと至るのである。巣ごもり状態とは、選択消費ばかりでなく、必需消費すら切り詰め、家計を成立させる自己防衛の別名である。

今、生活者の中に2つの大きな消費価値観の潮流が見られる。1つは家計収入の大きな伸びを期待しない、あるがままを受け入れる、とする成熟派。もう1つは、いや収入は伸ばせるし、少々の無理は承知で頑張る、とする成長派。更に単純化すれば前者をアリ、後者をキリギリスに例えてもかまわない。国家レベルでいうと、現政権でいうと、前者を財政均衡主義者(与謝野金融大臣)、後者を成長への財政積極論者(中川秀直氏)としてもかまわない。今回の15兆円に近い追加経済対策について、赤字国債というつけを子や孫の世代に回す事はならないとする意見と、景気への緊急避難措置でやむを得ないとする意見。こうした対立軸は生活経営においても同じように行われてきた。

この1年間、私は価格について多くの注目すべき事例を書いてきた。エブリデーロープライスのOKストアから始まり、ユニクロ、H&M、更には雑誌の宝島社に至るまでだが、それは前者の成熟派が圧倒的に多くなったということでもあった。繰り返し書かないが、百貨店の衰退を見ても明らかであるように、日本市場の象徴であった中流層は1990年代後半から崩壊が始まり、この市場に準じていた新富裕層は金融破綻によってこの1年で崩壊した。結果、成熟派はマス市場化し、その市場を更に分解してみると、
・買いたいけれど買えない、我慢派(収入ダウン等による)
・買えるけど買わない、新合理主義派(前々回書いた平成世代)
それと既に半分死語と化してしまった「パラサイトシングル世代」である。1990年代後半、都市部サラリーマン世帯に現れた固有の世代で、当時はフリーターという新たな職種として呼称された時代であった。この世代は今30代後半を迎え、その予備軍である20代後半世代をハッピーパラサイトと呼ぶそうであるが、いずれにせよ両親の家に寄生する非正規労働者群で「買いたいけれど買えない我慢派」に属している。日本の労働人口の34%を非正規雇用が占めており、こうした成熟派が中心となって、「巣ごもり消費」現象がいたるところで見られるようになった。

国は内需拡大・消費活性というが、未来に対し醒めた目でしか見る事ができない成熟派がマス市場化している現状にあって、「エコポイント制度」を活用する市場は一部に終わるであろう。求めているのは「未来」であり、若い世代にとっては何を置いてもまず仕事・雇用の確保で、無ければ新たな産業起こしをしなければならない。子育て世代にとっては安心できる育児や医療の体制であり、シニア世代にとっては年金や介護医療の問題解決であろう。根本課題の道筋を明らかにした上でのエコロジーである。しかも、生活レベルではかなりのところまでエコロジーは徹底されている。今、必要とされているのは国家レベルでの新しいエネルギー政策であり、新しい産業起こしであり、お金の使い道が間違えているとしか言いようがない。政治はこうした「未来」を提示することが使命であり、仕事の筈である。

ところで、日本は昔も今も、小資源、省エネ国である。少ない資源を最大化させ、その使われるエネルギーを最小にする知恵と技術を持った国である。日本こそエコ先進国であり、エコ大国であったことを指摘する人は少ない。私はこのブログを通じ何回か書いてきたが、現在のライフスタイルの原型は江戸にあり、その変化の先に今日がある。江戸が循環型社会、リサイクル社会であったことを指摘する研究者はいるが、江戸がエコロジー社会であったその裏側にある思想を指摘する人はほとんどいない。
江戸は幕府ができた当初は人口40万人ほどであったが、「人返し令」が出るぐらい人口は集中し、当時の世界都市であるロンドンやパリをはるかにしのぐ130万人都市となる。しかも、流れる上水道をもっていたのは江戸だけで、識字率も高く文明の高さからも群を抜いた都市であった。つまり、世界でもまれに見る都市化がどこよりも早く進んだのが江戸であった。いわば都市化先進国であったということだ。別の視点に立てば、人口増加による環境問題も発生し、どのように解決していったかという良き社会モデルとしてある。
こうした良きDNAを受けていると思うが、東京都内では家電リサイクルショップが相次いでオープンし、服や靴のリペアショップも同様である。衣料品や靴などの下取り企画は圧倒的な支持を得てヒット商品となった。ところが、今回のエコポイント制度では薄型TVのサイズの大小によってポイント還元される。家電量販店は当然同じ費用であれば大きめのサイズを勧めるであろうし、顧客も大きめのサイズを選ぶと思う。結果、大型のものとなり、消費電力においては省エネというエコロジーには反することにつながる。まだ、法案が審議中であり、内容それ自体が変わると思うが、提示されたエコポイント制度の内容を見る限り質の悪い販促事業である。生活者は意味ある支援、助成を求めており、その「意味ある」とは未来につながる政策に対してであり、その道筋さえ示されれば、徐々に巣ごもりから脱するであろう。

ところで、このブログを書いている最中に兵庫だけでなく大阪にも新型インフルエンザの患者が発見され21名になったと報じられた。予定されていた神戸まつりは中止となり、パンデミックである。残念ながら、私が予測した通り、心理的には巣ごもり消費から冬眠消費へと向かいつつある。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:57│Comments(0)新市場創造
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