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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年04月08日

既成と革新

ヒット商品応援団日記No356(毎週2回更新)  2009.4.8.

ここ1年ほど、顧客創造の第1に価格を置き、生半可な従来の付加価値など顧客の選択肢には入らない事を書いてきた。その延長線上ではないが、その象徴的な市場として、前回「今、東京で起こっている事」を書いた。コンセプトチェンジ、業態チェンジ、メニューチェンジ、そうした変化の事例を書いてきたのだが、ちょうど、日経MJの編集委員も価格を根底に置いた革新の在り方について「小売の輪」理論をテーマにした記事を書いていた。「小売の輪」とは、小売業のビジネスモデルとして古くからある仮説理論であるが、「革新も時間経過と共に既成になり、次に現れる革新によって市場から撤退していく」という小売業が進展する輪の理論である。まあ、あてはまることもあれば、あてはまらないこともあるが、革新が既成に挑む場合、その多くは「価格」、低価格戦略であったことは事実である。

先日、イオンの岡田社長が記者会見し、新たに3400品目を2〜4割値下げすると発表した。その折、他社と較べて顧客の値下げ要請に応えられていなかったと反省し、店頭には「イオンの反省」というメッセージが掲げられた。つまり、イオンも巨大化し、革新を失い、既成になってしまったことへの自省であろう。また、一方のセブンイレブンも日用品の値下げを発表した。これも24時間いつでも来店していただけるという便利さ、いわば省時間型サービス業態も既に革新ではなく、既成になりかけているとの認識である。つまり、「小売りの輪」が一回転し、市場から退出させられてしまう前の自省としてある。

私に言わせれば、顧客が変わったことに気づき、こんなこと、あんなこと、小さな提案をし続ける事の中にしか「次」の革新への芽は見出せない。顧客にもっと近づくことだ。流通も巨大化してしまうと、組織の論理、規模の論理へと向かい、顧客から離れてしまう。これは私の持論であるが、流通は街や村の在り方と共にあれば良い。以前取り上げた鹿児島阿久根市のA・Zスーパーセンターのように、顧客の要望に沿って仏壇から車まで売る店があっても良いし、車社会の地方では単なる買い物だけでなく、映画を観たり食事ができるようなSCがあっても良い。車で出かけられないお年寄りの多い限界集落にあっては、昔ながらのご用聞き、ショッピング代行も必要だ。つまり、多様な生活と共に、流通もその多様さに応えるということである。

TV東京のカンブリア宮殿で紹介された増収増益の「餃子の王将」も、売り物の餃子の安さやボリュームもさることながら、店の立地に合わせた独自メニューづくりを店長にまかせる、つまり顧客に近づく現場経営によって得られた成果である。チェーンビジネスの根底には「標準化」という物差しを持って運営する。品質から始まり、店や売り場づくり、コミュニケーションに至まで、誰がやっても一定の結果、均質な成果が得られるとした標準化である。これは多様な人種が集まる米国ならではの手法で、日本においてもそれなりの成果を挙げてきた。しかし、こうしたやり方だけの業態には限界がきているということである。標準化の象徴である日本マクドナルドが増収増益という成果を得たのは、そのメニューの多様さ、価格帯の多様さを時間をかけて標準化=システム化しえたことにある。この時間のかけ方・数年間を見ると、その戦略性がよく分かる。最初は「100円バーガー」によって離れた顧客を呼び戻すことから始める。次に、いわゆるガツン系新メニュー、価格帯も上げたメニューを販売していくといった戦略である。しかも、飲食の場合特に難しい多様なオペレーションをシステム化できたことによる。

「小売の輪」の行き着く先は分からない。しかし、顧客視点に立てば、大きくは2つの方向へと進んでいく。1つはセルフスタイルによってコストをギリギリまで削減し、低価格商品を実現する方向である。既に誰の目にも明らかのように、従来のGSは廃業するか、もしくはセルフ式のスタンドになった。寿司店は廃業が進み、替わって回転寿司が増え、シャリはロボットに握らせる。ファッションはと言えば、ユニクロの発想が顧客自身がセルフで選ぶ業態であり、いわゆるSPA(製造小売業)によって低価格商品を大量に販売する経営である。従来、人手を要してきたサービス業態を人手を極力無くしていく経営である。極論ではあるが、あのエブリデーロープライスのOKストアが無人のスーパー業態をかってテストしたようなセルフ式業態が続々と現れてくる。セルフ式への業態チェンジ、これが1つの方向であろう。

もう1つの方向は、プロの手によるものである。昨年、「プロの逆襲」のところでも書いたが、プロとセミプロ素人との境目が無くなった時代にいる。「作り手」をセミプロ素人から、どう取り戻すかである。それは、とりもなおさず「作り手」とは何か、その根っこに何を置いて作るのかを問い直すことだ。「プロの逆襲」で次のように私は書いた。
「基本が持つ奥行きの深さ、見えないところにプロの技があり、それを支えるのが手間を惜しまないプロの精神である。見えないということは、小さな違いである。決して大きな分かりやすさはないが、どこか違う。そんなプロの技は細部の見えないところに宿るものだ。」
こうしたプロの基本には多くの見えない手間を必要とし、結果価格は高くなる。残念ながら、こうした「小さな違い」の分かる顧客も年々少なくなっていく。ちょうど文化型商品としてのブランドが衰退しつつあるのと同様である。

ここでもプロの革新が求められているということだ。「プロの革新」を考える時、ブランドの生成と衰退を考える。そんな格好な例は何かと聞かれたら、やはりシャネルと私は答える。ヨーロッパ文化の破壊者として登場したあのシャネルである。詳しくは私のブログ「時代の変化と共にあるシャネル」を読んでいただきたいが、その後継者カール・ラガーフェルドの顧問就任時のコメントがプロの革新の在り方を言い当てていると思う。
「シャネルを賞賛するあまり、シャネルの服の発展を拒否するのは危険である。」
「シャネルの最大の功績は、時代の要請に沿って服を創ったことにあり、シャネルスタイルを尊重しながらも、残すべきもの、変えていくべきものをも含め継承することだ」

そのようにラガーフェルドは明快に認識している。つまり、シャネルスタイルの継承と共に、その破壊者としてのシャネルの生き方をも継承するということである。ここにプロの革新があると思う。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:40│Comments(0)新市場創造
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