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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2018年05月06日

日本観光「進化」への視座 

ヒット商品応援団日記No712(毎週更新) 2018.5.6.

やっと日本のインバウンドビジネスの方向がビジネスは勿論のこと社会的にも認識されてきた。これはまさに訪日外国人客の消費という「需要実績」によって、それまでのパラダイム(価値観)が変わってきたということである。
昨年秋に書いたブログにそれまでのゴールデンルート(成田ー東京ー富士山ー京都)といった日本観光初心者定番の観光から、これもかなり前から書いてきたことだが「個人旅行」あるいは「リピート観光」が半数を超え、それまでの観光内容がガラッと変わってきたと。その象徴的キーワードが「西高東低」と表現されてきている。「東」とはゴールデンルートから、「西」は大阪を中心とした西日本への需要拡大という観光先が変わり広がってきたということである。私の言葉でいえば、それまでの浅草寺・富士山観光、寿司・すき焼き体験から、日本人の日常的な生活文化観光への進化である。その象徴が一昨年からの「桜観光」人気であった。ある意味東京ディズニーランド&京都といった「表通り」から、大阪を中心とした地方という「横丁路地裏」への進化でもある。

観光も回数を経てくるとより目的が深まっていく。あるいはその観光体験の中から新たな関心事も生まれる。スタート当初の団体・パック旅行から、その目的に合わせた個人単位、仲間単位、家族単位の「個人旅行」へと変化してくる。日本への滞在時間も長くなり、費用もかかることから宿泊費を抑える傾向も生まれる。面白いことに、日本旅館・露天風呂の体験が主目的の場合、相応の費用になるが、それ以外の宿泊は安価なゲストハウスで済ますといった具合である。交通についてもそれまでのタクシー利用から鉄道やバス利用へと変化してくる。食事についても宿泊ホテルや旅館の食事から、体験してみたい街場の飲食店を探し出して食べに行くこととなる。こうした観光行動を可能にしているのがスマホであり、トリップアドバイザーや各国の日本ガイドサイトを検索しながらということになる。3年ほど前の訪日外国人の要望の第一がWiFiの設置であり、スマホ片手の旅スタイルは世界標準になったということだ。こうして不思議の国日本巡りの旅に向かうということである。

さてこうしたインバウンド市場の経過を見て行くと、その目標は更なる「回数化」「リピーター化」ということになる。このことは日本人顧客のリピーター化とそれほど大きな違いはない。ただ顧客の興味関心事は常に変化して行く環境下にあることを忘れてはならない。それも世界規模においてである。こうしたインバウンドビジネスの一つの先行事例となっているのが北海道ニセコのスキー場である。今からかなり昔になるが南半球オーストラリアのスキーオタクが季節的には真反対の日本、しかも世界でも珍しい雪質、パウダースノーというスキー場を目指して通ってきたという経緯がある。当時はまだまだ一部の熱烈なフアン・オタクで、地元も含めインバウンドビジネスとしての可能性について言及されることはなかった。。ちょうど20数年前の秋葉原、アキバにアニメオタクの訪日外国人が来日していた構図と同じである。それがどう変化してきたか、2016年には標準地の地価公示値上がり率が19.7%で全国1位(国土交通省調べ)になり、その後も上昇が続いている。スキー客の増加を見込んでのホテルや別荘の開発が進んだ結果ということだ。ニセコ倶知安町役場の統計資料によると外国人が住み始めたのは2003年ごろからで、当時49世帯60人が住民登録をしている。リーマンショックで少し落ちたものの、その後回復。2017年2月時点では1400世帯が住民登録をしている。町全体の世帯数が8973世帯であることから約15%が外国人世帯という割合だ。ある意味スキーオタクがアキバと同じようにように世界中から集まったということだ。

このようにオタクが先行した「需要」が地方創生にもつながった事例である。勿論、オタクが全てこのような結果に繋がるとは限らない。そもそもオタクが誕生するのは、アキバにアニメやコミック関連の専門店が集積し、「好き」を母体に誕生したように、他に変えがたい極めて強い「特殊世界人」として振舞うことからであった。単なる「好き」を超えて、単なるマニアを超えて、そのこだわり度に違いを見つけようとした特殊性に身を置いた人のことをオタクと呼んだのである。つまり、”自分は単なるマニアじゃないよ”と差別化する必要が生まれる土壌があってオタクは誕生する。誇らしげに”ニセコの雪質と出会ったら他では滑れない”という仲間が次第に増え、結果地方創生にも繋がったということである。アキバの雑居ビルから生まれたAKB48の場合はこのオタク心理、例えば「自分は指原フアン」といった特殊性をシステム化したのがいわゆる「総選挙」である。つまり、オタク同士を競争させて「違い」「こだわり度」を創る仕組みを内在化させたということである。こうしたオタクの言説がSNSをはじめとしたメディアに載ることによって「いいね」が拡散し、更にオタク予備軍も生まれる。しかし、後に同じようなアイドルグループが生まれ、AKBは乃木坂46にその人気度が超えられたとも言われている。いつかその背景について書くこととするが、こうした「オタクマーケティング」は時代と共にまた変化して行くということだ。
20数年前までは「キラーコンテンツ」というキーワードがマーケティングの中心を占めていたことがあった。他に変えがたい固有性、オリジナリティこそが市場を創って行くという主旨であるが、今日のマーケティングはこの「キラーコンテンツ」という魅力がどこにあるかを探すこと、その隠れた小さな「芽」こそがオタクというわけである。

この2年ほどで「桜観光」はキラーコンテンツ足り得ることがわかった。その花見は美しさを愛でることと同時に、桜の下での家族や仲間との宴も楽しみの一つであることもわかってきた。そして、それまでの日本の名所との組み合わせ、例えば富士山と桜、さらにプラスαといったインスタ映えを狙った観光客も出てきた。問題なのは、桜の開花時期は限られていることから、ある時期だけ観光客が殺到することとなる。花見ならぬ、人見で終わる事態が出てきており、京都ではそのことを嫌って日本人観光客が減る傾向にあると。京都では分散化を考えているようだが、それほど簡単なことではない。
観光の回数化を前提としたその広域化、分散化という課題であるが、少し前のブログにも書いたが、青森などの試みは面白い。それまでの発想であると県内だけで観光を終えてしまいがちであるが、新幹線を利用して函館をも旅先にした試みである。県をまたぐもの、それは移動の楽しみをも組み込んだ「テーマ」ということになる。雪に触れることの少ない台湾観光客には冬の青森の雪は新しい体験であり、事前の理解と共に旅のプログラムさえきちんとすれば、これも日本ならではのキラーコンテンツ「体験旅行」になるということだ。この旅には居酒屋での民謡を楽しむことも含まれているようだが、津軽三味線も郷土芸能として他にはないものとなる。テーマは「冬の津軽の旅」ということになる。冬の津軽を満喫した観光客には、「5月には春の桜、弘前へどうぞお越しください」となる。これが回数化である。

つまり、このように間違いなくテーマ観光へと向かうことになる。先日のTV報道によれば、一昨年から大阪西成のドヤ街の再開発が盛んになり、多くのゲストハウスが出来てきた。一泊5000円未満(素泊まり)の施設が多く、支出の多くは交通費と飲食代に当てるという。そして、できる限り長期に滞在するつもりで、その日は京都に花見に行くという。スタイルとしてはバックパッカー風であるが、取材されたその訪日外国人は日本オタク予備軍とでも表現できる人物であった。そして、この西成にはトリップアドバイザーにおける人気No1レストランとしてお好み焼きちとせがあることも象徴的である。
これからこうした日本観光の進化の経過をレポートして行くが、観光資源という言い方をすれば以下の3つに整理することができる。
・日本固有の自然 例えば 冬の白川郷から庭園や盆栽まで
・日本固有の歴史・文化 例えば城から酒蔵巡りまで
・日本固有の人物 例えば武道・芸道から伝統工芸の職人まで
・更にはアニメ映画やファッションなどの聖地巡礼観光へ
勿論、恐らく世界の日本食ブームも更に進化し、寿司やすき焼きといった「食」ではなく、日本人が日常食べている「食」へと分化し、テーマ化して行くであろう。例えば、「あの博多の〇〇ラーメンを食べに」、更に進化して行くとすれば、日本人にもその傾向が見えてきている「博多の屋台食べ歩き」といったテーマなんかは面白い。言わば博多夜市ということである。また、桜観光はキラーコンテンツ足り得ることが明らかになったが、温泉、銭湯といった温浴観光もその可能性は高い。但し、SNSの問題点でもあるのだが、インスタ映え観光地、インスタ映え飲食店、インスタ映え体験といった「ひととき観光」で終わるのか、更なる進化を遂げ回数化が測れるものなのか見極めることが重要となる。そして、その時重要になるのが、やはりテーマの進化物語づくりということになる。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:36Comments(0)新市場創造