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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

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2016年02月14日

混迷から危機へ 

ヒット商品応援団日記No637(毎週更新) 2016.2.14.

年頭のブログに「混迷の年が始まる 」と書いた。明るい希望のあるといった予測は当たらないが、悪くなるであろう、忍び寄る危機についての予測は残念ながらよく当たる。少し前のブログにも書いたが、案の定日銀によるマイナス金利の効果についても、円安・株高は数日間しか保つことはなかった。そして、金融の専門家もやっと「もう日銀ができることはない」と言い始めた。
政治においては甘利元大臣の収賄疑惑から始まり、スポーツにおいては清原和博の覚せい剤汚染、その汚染の深さは個人にとどまらずプロ野球界全体の問題として浮かび上がってきた。芸能界に於いてもベッキーによる「ゲス不倫」をキーワードに顔をしかめるような問題が起き、政治家にまで波及、いや隠れていた醜悪な素顔が表へと出てきた。
昨年末の株価から約4000円ほど下落し、1万5000円を割り込んだ。これは少し前のブログにも書いたが「原油安」と「中国経済の落ち込み」にある。日本の実体経済とは異なると報道されているが、そうではない。日本の経済だけが独立して世界をリーディングしているわけではないことは分かりきったことである。そうした意味を踏まえ、年頭のブログに「混迷の年が始まる」と書いたのだ。

ところでその日銀によるマイナス金利の導入であるが、住宅ローンを組む生活者にとっては良きチャンスになると報道されている。この時期に住宅を取得する場合、あるいは借り換えといった需要には応えることができ消費が活性されると。
周知のように2014年4月の新消費税8%導入決定前の駆込み需要は、人生の中でも一番大きな買い物である住宅においてはきわめて大きかった。具体的には2013年度となるが、東京でいうと湾岸エリアの新築タワーマンションが人気となった。そして、2014年に入るとその反動から首都圏ではマイナス幅としては、リーマン・ショック直後以来の大きさとなった。そして、昨年の不動産需要はどうであるか、不動産経済研究所によると、首都圏における 2015 年年間(1~12 月)の新規供給戸数は 4 万 449 戸であった。対前年(4 万 4,913 戸)比 9.9%(4,464 戸)の減少である。この背景には主に円安による建築コストの上昇から平均価格は 9.1%UP の 5,518 万円、1991 年(5,900 万円)以来の高値になったことによる。
こうした中での住宅ローン金利が下がったという話である。顕在化している、購入予定者にとっては良き話ではあるが、先行き不透明な時代にあって、建築コストの高い新築物件の需要がどれだけあるか疑問である。

問題なのは「需要」がないところでいくら金融緩和しても、企業も、個人も借り入れ消費することはない。ビジネスマンであれば誰でもが知っているホンダの創業者である本田宗一郎は明確な需要論を持っていた。周知のホンダを世界一のオートバイメーカーに押し上げたのが「スーパーカブ」である。1958年夏に発売されたこのスーパーカブは、従来のオートバイでもスクーターでもない革新的な新しい商品であった。その発想がユニークで今でも覚えているが、スーパーカブはそば屋に向いているとし、「ソバも元気だおっかさん」などの広告コピーで売り出した。つまり、全く新しい市場という需要を作ったということである。死ぬまで開拓者精神を貫いた本田宗一郎らしい発想であるが、こうした市場創造へのイノベーションが今求められているということである。そして、今そんなホンダDNAはその継承の先に、小型ジェット機として表舞台へと出てきた。航空機産業という国家規模の巨大な企業によって生まれる商品であるが、そうではなく、つまり大仰ではなく誰でもが使える商品、そんな商品化を目指したということだ。
もし、住宅需要ということであれば、新規物件だけではなく、中古物件や課題となっている空き家をこそ、新しい発想、新しい建築技術・イノベーションを持って開拓すべきである。既に、国産材の活用を踏まえてだが、横浜市には商業施設「サウスウッド」という大型商業施設としては初の木造4階建てのビルがオープンしている。こうした新工法による建築がさらに安いコストで中古物件や空き家・空きビルにおいても適応できるようになればということである。

この半年ほどのブログを読んでいただいている方には理解していただけると思うが、消費という視点においては「街場」の小さな需要にヒット商品がたくさん生まれている。実は今までなかった新しい市場という需要ではなく、慣れ親しんだ安心できる商品やサービスである。これは決して安い価格のものだけではない。毎日食べている「食パン専門店」であるセントルザ・ベーカーのように今でも長い行列が作られている。ちなみに角食パンは800円+税で少々高めの価格である。
日常、安心、しかしまだまだ知らないことが多い時代にいる。過剰な情報が邪魔をしてわからなくさせているだけである。

今年の催事イベントである「恵方巻き」も売れ残りが出た店が多く、バレンタインデーについても「自分チョコ」もしくは「ファミリーチョコ」といった消費が中心となり大きな需要にはなってはいない。単なるトレンドとか、そうした催事時期だと言った程度の「商品化や売り方」については低迷する消費世界を突破することはできない。「恵方巻き」もサプライズを目的とした安直な変わり恵方巻きは売れず、チョコレートもゴディバのような専門店によるチョコだけが売れる、しかもこの時だけ販売の「自分で食べたいチョコ」だけが売れる、こうした消費は、ある意味内向きな「厳選消費」そのものとなっている。
別にバブル景気を再来させようと考えているわけではない。実は今から5年ほど前のブログに日経MJによるヒット商品番付を踏まえて次のように「市場の性格」、その認識について書いたことがあった。

『1980年代に入り、豊かさを感じた当時の若い世代(ポスト団塊世代)は消費の質的転換とも言うべき多くの消費ブームを創って来た。ファッションにおいてはDCブームを始め、モノ商品から情報型商品へと転換させる。情報がそうであるように、国との境、人種、男女、年齢、こうした境目を超えた行動的な商品が生まれた。その象徴例ではないが、こうした消費を牽引した女性達を漫画家中尊寺ゆっこは描き「オヤジギャル」と呼んだ。
さて、今や欲望むき出しのアニマル世代(under30)は草食世代と呼ばれ、肉食女子、女子会という消費牽引役の女性達も、境目を軽々と超えてしまう「オヤジギャル」の迫力には遠く及ばない。私が以前ネーミングしたのが「20歳の老人」であったが、達観、諦観、という言葉が似合う世代である。消費の現象面では「離れ世代」と呼べるであろう。TV離れ、車離れ、オシャレ離れ、海外旅行離れ、恋愛離れ、結婚離れ、・・・・・・執着する「何か」を持たない、欲望を喪失しているかのように見える世代である。唯一離さないのが携帯をはじめとした「コミュニケーションツールや場」である。「新語・流行語大賞」のTOP10に入った「~なう」というツイッター用語に見られる常時接続世界もこの世代の特徴であるが、これも深い関係を結ぶための接続ではなく、私が「だよね世代」と名付けたように軽い相づちを打つようなそんな関係である。例えば、居酒屋にも行くが、酔うためではなく、人との関係を結ぶ軽いつきあいとしてである。だから、今や居酒屋のドリンクメニューの中心はノンアルコールドリンクになろうとしている。
断定はできないが、これからも前頭程度の消費は見せるものの、世代固有の世代文化を象徴するようなヒット商品は生まれてはこないであろう。』

タイトルには「欲望喪失世代というマーケット」と書いたのだが、もし消費旺盛な世代というのであれば、それはシニア世代となる。特に団塊世代は65歳定年後もアルバイトのような非正規雇用に従事したり、旅行はもちろんであるが、あまりお金をかけずに気ままな小旅行をするための車中泊ができるキャンピングカーが大人気となっている。当たり前のことだが、後生きられても20年前後であり、体が元気なうちに好きなことをしたいとしたシニア世代と、安定とは程遠い実質賃金が下がり続ける30代とは消費世界は根本から異なる。
こうした”離れ世代”と言われる現在の30代市場に対し、需要を喚起するための車メーカーを始め多くの施策が実施されているが、これといったヒット策は生まれてはいない。活力ある消費が見られるのは、年齢や性差を超えたある意味オタク的世界に生きる層であろう。鉄ちゃんから始まり、ウオーキングオタク、仏像オタク、城オタク、祭りオタク、パワースポット巡りや御朱印帳オタク、あるいはアニメやコミック作者の生誕地という聖地巡礼オタクまで。勿論、そうしたオタク旅の必携ツールであるカメラなどもよく売れている。

前回の「マツコ・デラックスと林修」にも書いたが、街場の達人、オタクたち、少し広げれば職人・匠がいかに多く存在しているか、大ヒット商品ではないが、そうした小さな消費が「今」を支えている。5〜6年前、訪日外国人による消費、インバウンドビジネスなどは旅行業界といった特定業種だけのテーマであったが、今や3兆円産業などともてはやされる時代となった。
企業は300兆円を超える内部留保を持ち、個人においても1600兆円もの金融資産を持っている。しかし、欲望がないところには需要は生まれない。今回の日銀によるマイナス金利政策についても何事かをしたいとする欲望喚起にはならない。唯一あるとすれば30代の結婚・子育て世代にとってのマイホーム需要ぐらいであろう。しかし、男女ともに結婚することなく、単身族が相変わらず増えている現状である。あるコンサルタントはそんな日本の現状を低欲望社会と呼び、金融政策ではこの扉を開けることはできないと断言している。需要創造という課題から見る危機の本質は、こうした低欲望社会にあることが次第に分かり始めてきた。つまり、こうした間違った市場認識こそが危機を深めている。

そして、従来の市場概念からは外れたオタクや達人のように「好き」の世界へと視線を変えることによって、新しい「消費者」が浮かび上がってくる。少し前のブログにも書いたが、中国人観光客の爆買いは一巡し、客単価も下がり、次なる興味関心事へと移っていると。その「好き」につながる関心事は日本が持つ固有の精神文化観光となることは間違いない。クールジャパンと言うと、禅や侍が舞台へと上がるが、それは入り口にしか過ぎないことは私たち自身がよく知っている筈である。実はオタク文化こそがクールジャパンであってアニメやコミックだけでなく、それこそ訪日外国人に人気のラーメン専門店だけでなく、街場の人気中華そば屋も入る。さらには和文化の象徴である旅館だけでなく、やはり温泉や銭湯なんかも注目されることは間違いない。クールジャパンを生み出し、生活しているそれ自体に興味関心があるということである。インバウンドマーケティングとして言ってしまえば、江戸時代のライフスタイルに出てくる日常世界である。例えば、これから桜の季節になるが、まず「梅見」、次に「桜見」、最後は「桃見」で、これが江戸の人達の「春」の楽しみ方であった。それぞれ異なる楽しみ方があって、日本人自身が忘れ去られたものとなっている。花見以外にも夏になれば花火があるが、その奥には地方ごとの夏祭りがある。こうしたことも、逆に訪日外国人によって教えられることとなる。少し前にオタクは新しい需要のアンテナであると指摘したのも、こうした背景からである。
繰り返して言うが、危機の本質は間違った市場認識、需要の創り方にある。(続く  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:42Comments(0)新市場創造