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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

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2015年05月12日

未来塾(16)「テーマから学ぶ」聖地巡礼 2つの原宿(後半)

ヒット商品応援団日記No613(毎週更新) 2015.5.12.

未来塾「聖地巡礼2つの原宿」の前半では「伝説」がどのように生まれ、語り継がれていくか、そのメカニズムについて書いてきた。後半では、そのメカニズムに沿って創られていく「市場」、どんなビジネスとして成長し、またある部分は縮小していったかを読み解いていきます。そのキーワードは聖地へと昇華していく「観光地化」の世界についてです。



□聖地と市場

日本の資本主義の源流、貨幣経済の発展のスタートは中世の荘園経営であった。商業発展の場である市場(古くは市庭)の原初は荘園と荘園との境界、縁(ふち)で行われていた。平安時代、市の立つ場所・境界には「不善のやから」が往来して困るといった史実が残っている。簡単に言ってしまえば、市場は見知らぬ人間同士が取引する訳でルールを守らない人間が出てくるということである。つまり、場としても精神的にも無縁的空間であったということである。荘園と荘園との境界よりも、国と国との境界の方がより無縁的空間となり、そこに寺社を立て、聖なる力を持ってコントロールしてきた。歴史研究者である網野善彦氏は、こうした境界・市の立つ場所を辺界と呼び、市の思想には寺社といった聖なるものが必要であったという。日本人は神仏という聖なるものとの関係、縁にはこうした見えざる世界との関係性がある。今も続いている寺社での縁日は、こうした聖なる神仏が降りてくる有縁の日という意味である。
日本の商業の発展を見ていくとその多くは寺社を中心においた門前市であったが、次第に門前市が独占固定化した市場となりもっと楽に自由に商売ができるようにと行ったのが、織田信長による楽市楽座であった。当時は革命的な市場政策であり、多くの戦国大名の城下町において取り入れられた。そして、今日の商業集積地、商店街はこうした城下町の寺社の参道に作られ、その名残が多く見られる。
今回取り上げた聖地巡礼についても、高岩寺に向かう参道には巣鴨地蔵通り商店街があり、またラフォーレ原宿や竹下通りは明治神宮に向かう表参道に位置している。

□参道を埋める市(いち)/地蔵通り商店街

まずおばあちゃんの聖地巣鴨地蔵通り商店街であるが、「おばあちゃん」ならではの独自な市場商売として、約200軒近い会員の店が全長約780メートルに渡って軒を連ねている。そして、特徴的なことは谷中ぎんざ商店街と同様全国チェーンとして展開している飲食店がほとんどないという点である。勿論、巣鴨には観光客だけでなく、そこに住む住民もいる。そのためのコンビニが3店とスーパーが1店ほどあるがその程度である。
おばあちゃん相手の商売、観光地の商売ということもあるがその多くは老舗で、その代表格の飲食店が「ときわ食堂」であろう。いわゆるときわ会系の大衆食堂の一つであるが、昼時にはおばあちゃんを始めとしたシニア世代が写真のように行列をつくる。駅前食堂を始めファストフード店によって衰退していく食堂であるが、ここ地蔵通り商店街では健在である。

もう一つの特徴が全国的にも知られている巣鴨ファッッション、おばあちゃんの「赤パンツ」と赤肌着や赤グッズの専門店「マルジ」である。”お店の中にいるだけで元気と活力が出てくるフシギ空間。レッド・パワーをぜひ体感しに来てください”とある。「洗い観音」で痛みを取ってもらったら、後は赤のパワーを購入し、元気になって日常を過ごしてもらう、というパワースポットならではの商売である。
赤、朱色には生命の躍動を現すとともに、古来災厄や魔力を防ぐ色としても重視されてきた。このため古くは御殿や神社の社殿といった「聖なる場所」などに多く用いられており、稲荷神社の鳥居の朱色もこの影響によるものと考えられている。

また、赤パンツの他にも八つ目ウナギを名物にした創業90年のうなぎの「八ツ目や にしむら」もおばあちゃんパワーの応援店である。そして、シニア世代の女性にとって定番となった楽しみの一つであるカラオケまでもが用意されている。

そして、聖地巡礼という観光行動に不可欠なのが「お土産」である。浅草には浅草寺に向かう参道の両側・仲見世には世界の観光客向けの多様な土産物店が軒を連ねている。地蔵通り商店街の場合はそれほどの数の土産物店はないが、それでもおばあちゃんの好物である甘いものが土産物の中心となっている。行列が絶えない元祖塩大福の「みずの」を始め、栄太郎、岡埜榮泉、金太郎飴、おいもやさん興伸、手焼きせんべいの雷神堂など十数軒もあり、聖地巡礼の楽しみを提供している。

前述の縁日であるが、4のつく日には地蔵通り商店街に200もの露店が出る。これだけの規模による昔懐かしい縁日は都内でも珍しい。特に24日の例大祭には15万人以上の人が縁日を楽しむ。また、とんがら市という破格値の市も春秋2回行われる。
他にも日常的にイベントが組まれ、いつ行ってもチョット違う巣鴨地蔵通り商店街を楽しむことができる。久しぶりに訪れた当日には「素人川柳大会」が開催されていた。


□参道を埋める市(いち)/竹下通り

JR原宿駅竹下口から明治通りまで全長約350メートルを竹下通りと呼んでいるが、その通りにひしめくように個性的なファッション関連のショップが並ぶ。表参道とは併行した通りであるが、表参道という名称の如く、表参道は「表」であり、竹下通りは裏通り、横丁の意味で「裏」として発展してきた。この竹下通りはティーンの聖地と呼ばれているようにユニークな店もある。その第一がコインロッカーである。修学旅行や春休みの旅行先の一つとして原宿の「竹下通り」があり、コインロッカーに荷物を置いてショップ巡りを楽しむということである。最近では訪日外国人も多く、そうした旅行者、観光客のためのもので、まさに竹下通りは「観光地」になっているということである。
そして、新しいファッションの発信地として多様なオリジナリティを販売する専門店群にあって、そうしたティーンの「トレンド」を受信するためのショップも竹下通りに出店している。その代表的なショップがポテトチップスで知られている「カルビー」である。いわゆるティーンへのアンテナショップとしてどんな傾向の商品が売れるか、竹下通り限定商品が売られ、一種のテストマーケティングショップの役割も果たしている。

他にも100円ショップの「ダイソー」も出店しており、ティーンの売れ筋やその傾向を受信している。また、ティーンの消費行動のリアルさを把握するためと思うが、少し前までは動画サイトニコニコ動画の「ニコ本社」があったり、明治通にはスマホのLINEがそのキャラクターグッズを販売するショップまでもが出店している。ティーンがどんな消費行動をとっているか、リアルにタイムリーに把握する「場」にもなっている。竹下通りがメディアストリート、ティーン情報の受発信ストリートになっているということだ。

ところでおばあちゃんの原宿では甘味処が多く見られたが、本家原宿竹下通りではクレープである。元々フランス生まれのクレープであるが、1977年原宿カフェクレープが1号店を原宿の竹下通りに開店させたのが始まりである。ただ、当初はあまり売れなかったが、クレープの生地にフルーツやクリームをはさんで出すという原宿スタイルのスイーツに転換してからブームが起こり、竹下通り=クレープ店の多い通りとして注目される。写真は春休みの竹下通りのクレープ店の行列である。そして、行列と言えば、ここ2年ほど前からブームが起きているのが「ギャレット」を始めとしたポップコーンである。同じようにブームとなっているパンケーキは価格もそうであるが、20歳代の女性のスイーツとなっており、ティーンの原宿ではクレープと同様食べ歩きにはやはりポップコーンとなる。

また、今や「自撮りブーム」であるが、10数年前にブームとなった「プリクラ」が進化し、ティーンの遊び道具となっている。そのプリクラであるが、最近のプリクラは単に写真を撮るだけではない。自分の顔を理想の顔に映してくれる一種の魔法のような道具で、目を大きくから始まり小顔にしたり、肌の色を調整したり、といった進化したプリクラである。そして、観光地竹下通りの記念写真という意味も含め、必須道具となっている。
巣鴨のおばあちゃんでは「カラオケ」が遊び道具となっていたが、竹下通りでは「プリクラ」である。

多様なティーンファッションの集積力

恐らくティーンを対象としたテイストやセンスの異なる多様なファッション、そのほとんどが原宿に集中集積されているといっても過言ではない。特に、竹下通りの集積密度は類を見ない。その状況を表しているティーンとおぼしき「10代女子の原宿たっぷり6時間コース」というブログがネット上に公開されている。「時間と体力はあるけどお金はない」10代女子の 原宿たっぷり6時間コースという遊び方の紹介ブログである。このブログにガイドされているショップの多くはお小遣いで楽しめるもので、ティーンの興味関心事のコアとなる消費行動をよく表れている。オシャレ好きのティーンにとって、オシャレを楽しむ入場料のいらないディズニーランドというテーマパークのようなものである。

ちょうど春休み時期ということもあって、まるで上野アメ横のような雑踏であると表現したが、それと同様の「セール」が組まれていた。アメ横のような「ねぎり」と「おまけ」は無いが、「タイムセール」のかけ声をかけ、「OFFセール」の値札が店頭を飾っていた。
また、興味深いことにおばあちゃんの原宿の「マルジ」の赤パンツではないが、ここ原宿竹下通りの店頭も「赤」「赤」「赤」であった。ちなみに、100円ショップの「ダイソー」のファサード看板も「赤」となっている。


□もう一つの伝説

実は1990年代後半から2000年代前半にかけてティーンの多くが原宿から渋谷109へと移動した。山姥、ガングロという婆娑羅ファッションが社会現象として全国的に話題を集めた時期である。そして、伝説が生まれる。1999年9月渋谷109の中心となる専門店「エゴイスト」がわずか16.9坪で月商2億8万円という前代未聞の売り上げを残す。そして、カリスマ店長という言葉と共にティーンの間に「カリスマ伝説」が広がる。
ちょうど高度情報化の時代を迎えた時期で、一言でいうならばあらゆるものがメディアとなって情報発信できる時代がスタートする。従来の発信メディアであるマスメディアだけでなく、商品も、人も、店舗も、そして街も、メディアとなって情報を発信する。特に、渋谷の街に極めて個性的なファッションのティーン達が集まることになり、そうした情報は次々と人を通じ、更にTVメディアを通じ拡散していく。そして、渋谷の街、ストリートは舞台となってその個性ファッションを競う一大観光地となる。1970年代原宿の歩行者天国に竹の子族が集まりパフォーマンスを繰り広げ、誕生間もない雑誌メディアがそうしたオシャレな若者達のファッションを取り上げ「アンノン族」が生まれたように、今度は渋谷に舞台を移すこととなる。そして、原宿におけるMILKの創世記物語とは異なるのが、ティーンと向かい合ったカリスマ店長の存在であった。「エゴイスト」の初代カリスマ店長は渡辺加奈さん。今やアパレルファッションのSPAは当たり前のことであるが、渡辺加奈さんを中心に1週間単位でデザインや素材を決め、製造し、店頭にて販売する。その結果を踏まえ、また翌週1週間単位でまわしていく。そして、一番重要なことは顧客であるティーンに向かい合い対話することであったと聞いている。対話したティーンはその時購入した衣装を着て、後日また見てもらいたくて店頭に来ると言う。そこでの会話がうれしくてまた来店するというのだ。そうした積み重ねが「カリスマ店長」という伝説を生み、結果として16.9坪で月商2億8万円という前代未聞の売り上げを残すこととなる。商品とは別に、こころ惹かれる「大いなる存在」、それをカリスマと呼んだのである。
以降、多くのカリスマ店長を育て輩出していくのだが、「エゴイスト」代表である鬼頭さんにインタビューしてから9年が経つ。顧客の変化と共に、また「カリスマ店長」も変わると思うので、またインタビューしたいと思っている。


テーマから学ぶ



今回はおばあちゃんとティーンという世代の異なる2大観光地におけるテーマ集積のパワーを学んでみた。その具体的テーマであるが、巣鴨とげぬき地蔵尊・地蔵通り商店街の場合は、「老い」という現実に対する不安を除去し癒してくれる巡礼であるが、コンセプト的にいうならば「エナジーゲット」、もっと平易にいえば”元気いただき”巡礼となる。
また、ティーンにおける原宿竹下通りの場合は、「キレイでいたい」「オシャレ」という願望を満たす巡礼であるが、それが単なるモノとしてのそれではなくて、コンセプト的にいうならば「オシャレのアミューズメントパーク」、同じように平易にいうならば”kawaii宝島探検”巡礼となる。

1、おばあちゃんの元気

高齢者にとって失ってしまったものの一番は「健康」である。二番目は夫婦を含めた「仲間」との関係であり、三番目はこれからの「生きがい」となる。つまり、年齢的にも物的欲望から卒業し、「健康」や「こころ」という精神的欲望へと向かう。聖地である巣鴨高岩寺洗い観音はこうした高齢者の欲望を見事につかまえている。

□元気はつらつ

まず誰にでも訪れる「老い」による精神的痛みや不安をなくし、元気になって戻りたいたいとする巡礼である。例えば、リポビタンDの”元気はつらつ”ではないが、「マルジ」で買う赤パンツはモノとしてのそれではなく、「元気」を買っているのである。
こうした巡礼へと向かわせる「心の扉」を開かせてくれるのは人間に最も身近なお地蔵様という庶民信仰、いわば日常的な祈りの行動である。
高齢化社会にあって、日本スポーツマスターズの各種大会に出場するようなスポーツウーマンも長寿と共に増える傾向にある。しかし、圧倒的多数は「老い」を自覚しながらも一人暮らしをしている、いわゆる独居老人が急増している。65歳以上の一人暮らしのシニアは既に600万人を超え、これから団塊世代が高齢者の仲間入りをすることになり、更に増え、大きな課題へと向かうことになる。

□社会とつながる聖地巡礼

そして、葬儀やお墓をどうするかといった「終活」というテーマが数年前からメディアにも登場し議論されているが、その前に社会との関係性、つながりの少ない「一人暮らしシニア」をどうするか社会問題化している。巣鴨高岩寺の境内には写真のような休憩ベンチが置かれている場所がある。シニアの間では「ナンパベンチ」としてよく知られた場所であるが、コミュニティが崩壊した現状にあって、こうした関係を取り戻すことも実は「元気」の中に入っている。「ナンパベンチ」というより、「コミュニティベンチ」「コミュニティ広場」といった方がふさわしい。おばあちゃんの原宿は元気を取り戻す「おばあちゃんコミュニティ」という時代を映し出す「場」となっている。つまり、いつまでも「社会とつながる」ことによる健康も、こことげぬき地蔵地尊にはあるということだ。


2、アミューズメントパーク

10代、それはあらゆるものに対し興味・関心を持つ時である。いわば「大人」というモノに溢れた社会への入学が始まり、異性を含めた人と人との関係社会という未知への興味・体験人生が本格的にスタートするということである。そこには夢・好み・私があり、そうした体験の扉の一つが「オシャレ」である。久しぶりに竹下通りの雑踏を歩いたが、その多くは目をキラキラさせた好奇心そのもののティーン達であった。

□原宿はディズニーランド

竹下通りを「アミューズメントパーク」と表現したが、東京への旅行先の一つである浦安の東京ディズニーランドを想い浮かべてもらうとより鮮明に分かる。東京ディズニーランドのゲートをくぐるとその先にランドマークであるシンデレラ城がある。原宿に置き換えるならば、原宿ラフォーレがシンデレラ城で、その周りに多くのアトラクションやレストランが配置されている。竹下通りに置き換えればプリクラやクレープにカフェとなる。そして帰りにはディズニーキャラクターのお土産を買うのだが、竹下通りでは宝島探検で得たお気に入りブランドのファッションを買う。聖地を巡り、消費する世界の構造としては同じである。そして、ティーンのお小遣いでも購入できる価格帯のものが多い。カフェでのランチもドリンクを付けても1000円でおつりがくる。そして今回は春休み時期ということもあり、付き添いとおぼしき母親や父親が極めて多かった。恐らく事前に購入するブランド商品をスマホで調べ、母親や父親に支払ってもらう、そうした「大人」へのネオ体験の扉である。そして、そうした体験を重ね、一人であるいは友人と一緒に「お気に入り」を創るのである。

□デジタルネイティブの世界

アミューズメントというと、ゲームセンターのように思ってしまうが、ゲームは仮想現実の世界である。原宿竹下通りというゾーンはティーンにとってはまさにこころ躍らせる仮想現実のファンタジー世界なのだが、日常のリアル世界に戻る時、お土産であるファッションがまた聖地へと誘う。
このように団塊世代の私は整理してしまうが、デジタルネイティブの彼女達にとって、実はファンタジーである竹下通りの世界も自宅に戻った日常世界も、仮想とリアルを行ったり来たりというより、同じ一つの世界、一体の世界となっている。このコトの中にこそ「次」なるティーンビジネスビジネスがある。ちなみに内閣府による最新のスマホ所有率は以下となsdている。
・小学生;36.6%
・中学生;51.9%
・高校生;97.2%

□入学と卒業

そして、一定の年齢になると「大人」への世界にも変化が出てくる。それまでのお気に入り世界の卒業である。2000年代前半、渋谷109にベビーカーを押して買い物に向かう「ギャル」が多く見られるようになった。欲しい商品が他では手に入らないということから、各専門店は卒業させじとばかりに一緒に成長しようとファッションの大人化につとめた。そして、客単価を上げることができたが、新しい入学候補者を迎い入れる方策に迷いが出てくる。結果、新しい入学者の多くは再び原宿竹下通りへと向かった。
また、同時期「裏原」という独自なファッションも卒業時期を迎えることとなる。前述のようにストリート系やヒッポホップ系ファッションはバンドブームやクラブの衰退と共に、「次」を見いだせないまま縮小していく。
こうした「入学」と「卒業」はファッションにはつきものであると言えばそれで話は終わってしまうが、その壁を超えるのも新たな「伝説」の創造ということであろう。


3、テーマの設定と集中化

マーケティングに携わる人間であれば、古くは「ライリーの法則」や「小売り引力の法則」といった商圏・顧客設定などの考え方を踏まえるのだが、ここではそうしたモデルの私見を披瀝するつもりはない。例えば、「ライリーの法則」に準ずれば、商圏設定において「一定規模の大型商業施設」をつくれば、周辺の商業施設間の競争においてより高い成果を得ることが出来るとする計算式がある。しかし、そんな机上での計算式による成果を覆すような吸引力をもった町の商店街や専門店、エリアがいくつでも存在しており、それは「何故」なのか、どんなテーマをもって顧客を吸引しているのかを明らかにすることがこの未来塾の役割であると考えている。
テーマは過去の歴史という継続の中から生まれるのであって、机上のプランで創られるものではない。過去を引き受け、そのなかに次なる可能性を見いだすのだ。「既にあるもの」を生かしきるというのが、日本文化の本質である。ところで、未来塾のなかでも「テーマの集中」についてその成功への要因について書いてきたが、整理要約すると以下となる。
・横浜洪福寺松原商店街:ハマのアメ横と呼ばれる商店街は、戦後のゼロスタート時点から競争軸を「価格」においた元祖「わけあり商品」をメインとした激安商店街。
・江東区砂町銀座商店街;周りを大型商業施設に囲まれながらも、お惣菜横丁と呼ばれるように真似のできない手作り総菜店を集積。そして、町の個人商店ならではの名物オヤジと看板娘のいる商店街。
・住みたい街NO1の街吉祥寺;パルコを始めとした時代の先端をいくファッショントレンドを発信する表通りとハモニカ横丁に代表される闇市の猥雑さや懐かしさを感じる路地裏。2つの異質さが交差するNew&Oldな街。
・ヤネセン(谷中ぎんざ商店街);地下鉄千代田線の開通により来街者が流出し苦境に陥ったが、ヤネセン(谷中、根津、千駄木)という広域エリアの観光地化を進めることによって、ウイークデー(ご近所顧客)は減少したが、休日(観光客)は倍となり良い成果へとつながった。
・上野アメ横;地球の「食」を集めた雑食の楽しさを「ねぎり」と「おまけ」で激安提供する市場。そして、観光地化した市場も「次」なる成長への着眼が必要。
テーマを設定すると参加店はアイディアや技術を持って競争することとなる。間違ってはならないが、その競争は顧客のための競争であり、競争相手に勝つことが目的ではない。どれだけ顧客をテーマ世界をもって喜ばせることができるかであって、結果それが競争に見えるだけである。そして、一つのテーマに絞り集中することは、競争によって更に集中を生み、顧客もその深化したテーマを享受し、そうした話題は更に顧客を呼ぶことになる。
例えば、北陸新幹線の開通などによって都市が発展したり衰退したりすることを「ストロー現象」と呼んでいるが、テーマを持たない都市はいくら新幹線が停まろうとストローのような恩恵を得ることは無い。例えば、金沢も富山も魅力あるテーマを持てば、東京から多くの顧客を集めることが出来る。しかし、その期待が外れれば東京に既にある「金沢」や「富山」の物産や飲食などでこと足りることになり、わざわざ北陸新幹線に乗って現地に行く気持ちにはならない。更には顧客はお取り寄せ通販という使い易い道具を既に持ち使っている。まだ開業して1ヶ月半ほどであり、この秋以降どれだけリピーターを創ることができるか、北陸オタクをどれだけ創れるかが課題となる。こうした着眼こそが地方創生の鍵となる。

□見える化のためのテーマ

何故なのか、過剰情報が行き交う時代であって、それは見えているようで、実は見えていなかったとの気づきが始まった、あるいは見ないようにしてきたことへの反省が始まったということである。例えば、ブームとなりつつある伝統野菜もそうであるが、職人の世界のように誰も知らないところで細々と愚直にやってきたことが、表へと出てくるということだ。サプライズという一瞬の驚き・パフォーマンスからの学習体験を経て、外側では見えなかったことを見えるように見えるようにと想像力を働かせるように気づき始めたということである。こうした動きは「昭和回帰」「ふるさと回帰」といった回帰現象、あるいは街歩き、路地裏散策ブームにもつながっている。見るために過去を遡り、内側を探り、今を考えようとしているのだ。あるいはIターンに若い世代が増えているが、地方という未知への興味も根っこのところでは一緒である。いかに知らないことが多かったかという自覚であり、自省でもある。「クールジャパン」も外側にいた訪日外国人やオタクによって見えない世界が「表」に出てきたものである。今回のテーマである伝説も見えない世界での語り継ぎであり、「宝島エイジズ(AGES)」の再創刊もこうした「見える化」潮流の一つである。

□どんなテーマとするのか

当たり前のことであるが、テーマ設定がその成功への第一歩となる。大型商業施設の場合は想定する商圏内の顧客要望を踏まえて、コンセプトづくりやフロア毎のテーマを設定し、最もそのテーマを生かしきれる専門店を選び編集していく。これが基本であるが、その基本以前のこととして「既にあるもの」をどう生かしきるのかが前提となる。そのために生かすにふさわしいテーマは何か、それは顧客要望にかなうものか、検証してみる。このことは一般論、一般的潮流にあるからという理由で設定してはならないということである。
昭和や下町というレトロテーマが今やトレンドとなっているが、例えばヤネセンのように戦災に遭わずに残った建物、アパートや民家などを生かしきる方法としてのリノベーションによって、カフェや飲食店へと変身させているが、問題なのはその変身へのセンスである。センスとは何を残し、何を新しくするか、その創造というセンスのことである。そして、その根底にあるのが、「残されているモノへの感謝」であり、そのことによって生まれる「新たな何か」である。これが日本固有の精神文化であり、世界に誇れる「クールジャパン」の本質である。
そして、面白いことにおばあちゃんの原宿にもティーンの原宿にも、次のような「共通項」がある。

・おばあちゃんの原宿→洗い観音という庶民信仰→寺社仏閣を日本精神文化のカルチャーとするならば巣鴨とげぬき地蔵尊は「サブカルチャー」となる。
・ティーンの原宿→オシャレという興味関心を満たすディズニーランド→既成の大手アパレルブランドをカルチャーとするならばティーンの原宿はMILKや裏原に代表されるような「サブカルチャー」となる。

未来塾で公開した秋葉原・アキバのところでも指摘したが、アニメやコミック、フィギュアー、あるいはAKB48もそうであるが、多くの「大人」はオタクだけの世界であるとか、あくまでもサブカルチャーにすぎないと蔑み見向きもしなかった。しかし、そうした「大人世界」を一変させたのが、外国のフアンであり、何よりも予測を超えたサブカルチャーの信者であった。そして、アキバも竹下通りも世界中から人を集める聖地の秘密はこの「テーマ密度」の高さにある。この密度こそ、未知への探検を促し、宝物探しにかき立てる。つまり、未知との遭遇観光地ということである。
つまり、変化の時代にあって「次」なる世界は「既成」とは異なるところから生まれるということである。何をテーマとして設定するのか、こうした裏側、サブ、アンチ、あるいは構えないポップなテーマとなる。
そして、「裏」はいづれ「表」となる情報の時代である。そんな時代にあって、原宿ファッションの創生ブランドであるMILKが示してくれたように、新しい何かを創るとは「こぼした牛乳」を一つづつ創っていくということだ。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:19Comments(0)新市場創造