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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2015年01月03日

文化経済立国の時代へ

ヒット商品応援団日記No601(毎週更新) 2015.1.3.

明けましておめでとうございます。今年もまた元旦の主要新聞各紙を見ながらマスメディアはどんな年度として期待し予測するのか、そんな記事を踏まえながらブログを書こうと思っていた。しかし、年々そのジャーナリズムとしての分析力を踏まえた提言にみるべきものがなくなり、戦後70年という年にあたることから、外交・安全保障などいくつかの提言はあったものの朝日、読売、毎日、日経、東京各紙は同じように消費増税をはじめとした日本経済に関する記事は皆無であった。消費税引き上げは先送りされただけであるにも関わらず、あたかも経済・消費増税という課題が無いかの如くである。そして、勿論のこと2015年度予算への提言もふれていないことは言うまでもない。

昨年の日経元旦号では「常識を超え新しい世界へ」とし、あのアップル社の創業メンバーの一人であるスティーブ・ジョブズの言葉”ハングリーであれ、愚か者であれ”を入り口にして、創造と破壊の「イノベーションの歴史」を見開きで特集していた。さて今年はどうかと言うと、女性をはじめ外国人やシニアといった多様な労働、更には就業時間や就業場所を含めた多様な働き方の時代へと「変えるのはあなた」と呼びかける内容となっている。昨年に引き続き「働き方のイノベーション」提言と言えば言えなくはないが、どこかピントがずれている感がしてならない。

昨年秋、あるセミナーでの講演に際し、戦後の産業構造の変化と、それを受けとめる個人の自己投影の一つである「歌」の変化について確認のために再度調べたことがあった。
そもそも歌のスタートは労働歌であった。いわゆるブルースであるが、日本の場合は第一次産業の労働歌で、漁業であればソーラン節、林業であれば木挽き歌のような民謡であった。しかし、昭和30年代工業化の進展による第二次産業である製造業と共に生まれたのが歌謡曲であった。その歌は労働歌ではなく、工業化・近代化によって失った故郷とか家族あるいは自然といったものを取り戻す歌が歌謡曲となった。その代表が作詞家阿久悠さんで、シニア世代にとっては懐かしい石川さゆりが歌う「津軽海峡冬景色」などがその代表作であった。
ところでその「時代変化」であるが、

□第一次産業(農林漁業)の従事者の割合は、1955 年の 21.0% から 2008 年の 1.6%まで継続して低下。
□第二次産業(鉱業、建設業、製造業)の割合は、1955 年の 36.8%から 1970 年には 46.4%まで上昇し、2008 年には 28.8%まで低下。
□第三次産業(サービス 業、卸売・小売業など)の割合は、1955 年の 42.2%から 2008 年には 69.6%まで上昇。

1955年という年度はいわゆる高度経済成長期のスタートの時期であり、そのピークである1970年における製造業従事者の割合は46.4%で2008 年には 28.8%まで減少している。実はその差は大きく17.6%も減少し、製造業の国内空洞化と言われている数字である。製造業による輸出立国と言われてきた日本とはまるで異なる産業構造に既に転換してしまっている事実である。円安による輸出が増えるどころか輸出入は赤字化し、海外投資などによる所得収入によってなんとか貿易を成立させているのが実態である。最早、従来の物づくり貿易立国ではなくなっているということだ。

このブログを書き始めて10年目を迎えるが、その当時から海外における日本食の浸透を取り上げてきた。例えば2005年度のデータであるが全米のジャパニーズレストランは9000軒を超えており、世界中が日本の食文化に注目しブームとなっていると指摘をしてきた。勿論、和食とは言いがたい”なんちゃってジャパニーズレストラン”がほとんどであるが、世界の興味関心事は禅やサムライ、コミック・アニメ等のサブカルチャーといった日本文化にある。ある人に言わせると、現在の日本はまるで江戸時代に酷似していると。約270年間大きな戦乱もなく、つまり外に向かう成長ではなく、内に成熟した江戸文化を指しての話である。しかし、江戸時代というと鎖国を思い浮かべるが、長崎出島を窓口に貿易は結構盛んであった。当時の輸出品は陶磁器やお茶であったが、その包装資材に浮世絵が使われていた。その浮世絵がヨーロッパの人たちの目に留まり、周知のように多くの画家へと影響を及ぼすに至るのである。クールジャパンは江戸時代から始まっていた。少し短絡的ではあるが、日本文化の輸出によって立国していたということである。

今、周知のように「和食」が世界のブームとなっており、食材や調味料、料理人という人材までもが輸出へと向かっている。昨年度の訪日外国人は1300万人を超えていると思うが、この訪日外国人を更にリピーターとすることが、次のステージに上がることにつながる。そして、8%の消費増税導入にも関わらず昨年4月の百貨店売り上げを唯一プラスとした銀座三越の右にならえと多くの小売業が免税カウンターを設け取り込みに努力をしている。その延長線上のセールとして、元旦から営業の西武そごうグループでは訪日外国人向けの「福袋」を用意している。円安をマイナス面だけでなく、新しいマーケットが表に出てきたと、やっと認識し理解され始めている。

ところで話は戻るが、産業の転換と共に「歌」もまた変化してきている。民謡の次に歌謡曲が衰退し、今日に至っている。その象徴的人物は阿久悠さんであるが、何回かブログにも書いてきたので繰り返さないが、晩年、阿久悠さんは「昭和とともに終わったのは歌謡曲ではなく、実は、人間の心ではないかと気がついた」と語り、「心が無いと
わかってしまうと、とても恐くて、新しいモラルや生き方を歌い上げることはできない」と歌づくりを断念する。つまり歌が痩せていくとは、心が痩せていくと感じたのであろう。

しかし、ここ数年前から若い世代、特に中高生にとっての「歌」はAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」となるが、特に代表的な歌となるといきものがかりの「YELL」になる。歌は労働歌から失ったものを取り戻す歌謡曲を経て、互いに応援し合う「共有歌」へと変化してきたということである。少し理屈っぽく言うと、第三次産業従事者が70%を超えた時代の応援歌は、素人同士、ごく普通の人間同士が共に励まし応援し合う歌、「共有歌」が求められている時代であるということだ。歌という自己投影を別の言葉に置き換えるとするなら、共有場所、一種のコミュニティが求められているということである。既にWeb上ではSNSという仮想コミュニティが無数創られているが、これを現実の場とする試みが課題となっている。特に若い世代にとってはこうした集い合える「場」が不可欠な時代となっている。そして、この「場」は性差や年齢差、あるいは地域差や人種差を超えることが前提となる。その象徴がシェアーハウスであろう。従来のスポーツや趣味などの会員制やクラブといった閉じられた「場」ではなく、一定のルールの基での自由な個人参加となる。

今、特に東京においては、街も交通機関も飲食店においても至る所で訪日外国人と出会うことが多い。もっと分かりやすく言うならば、百貨店だけでなくドンキ・ホーテにも、100円ショップにも、ドラッグストアにおいても、勿論私たちが日常利用している安い天丼店やお好み焼き店、新宿西口の飲屋街である思い出横丁にも・・・・・なかでも訪日外国人の一番人気はやはりラーメン店である。新横浜ラーメン博物館の活動をみていても分かるが、クールジャパンにおける「和食」の次はラーメンであるとグローバル市場を視野にいれている。その先頭を走っているのが一風堂であろう。実は訪日外国人にとって私たちが考えている以上に、日本は身近な存在であるということである。FacebookやYoutubeといったネットメディアを通じ場合によっては私たち以上に日本の情報に精通している。そして、何よりも求められ、そして信頼されているのは「お・も・て・な・し」といった構えたサービス日本ではなく、もっと日常的にふれあう「ファミリーな関係」ということである。

ここ数年訪日外国人が泊まるゲストハウスとして注目されている東京根津の旅館「澤の屋」はまさに家族でもてなすサービス、いやもっと端的にいうならば「下町人情」サービスという「お・も・て・な・し」である。これも澤さん一家が提供する固有なサービス、日本の下町文化に絶大な評価を得ているということである。そして、重要なことは澤の屋だけでなく地域の街全体が訪日外国人をもてなすという点にある。グローバル経済、日本ならではの固有な文化ビジネスが既に国内において始まっているということである。但し、勿論円安を全て肯定している訳ではない。そのしわ寄せは輸入価格の高騰=物価高となり、消費を縮小させている。そして、何よりも過度の円安は日本の「国力」、海外の日本への評価が極めて低くなったということを忘れてはならない。グローバル経済において、何を輸出するのか、それは日本文化でしょということだ。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:10Comments(0)新市場創造