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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2013年03月18日

消費税還元セールの禁止? 

ヒット商品応援団日記No549(毎週更新)   2013.3.18.

政府与党は12日、来年4月以降に予定されている消費税率引き上げに際し企業が増税分を円滑に価格転嫁できるようにする特別措置法案を了承したと報じられた。具体的には「増税分を消費者に還元」といった値引きセールを禁止するもので、下請け業者などにしわ寄せがないかを調査するほか、公正取引委員会の勧告措置なども盛り込む法案であると。
周知のように1998年4月5%の消費税導入に際しては、イトーヨーカドー、イオンといった大手小売業が「消費税還元セール」を実施し、圧倒的な顧客支持を得て成功させた背景がある。しかし、スムーズに価格転嫁を行なわせることと還元という名称は別にしてセールを禁止することとは別問題である。

過度な安売り競争は各業界も望まないとは思うが、この10数年間のデフレは収入が落ちた分だけ物価も下がり、ちょうど暮らし向きとしては見合うものであった。大手企業の春闘の回答は総じて年収の3〜5%アップする良きものであったが、問題は大多数を占める中小零細企業であり、非正規労働者の収入である。前回のブログで賃金全体としては下げ止まり、1月の百貨店売上もプラスに転じたと書いた。ただスーパーマーケットの売上は前年比マイナスである。あと1〜2ヶ月の消費動向を見極めなければならないが、高額品が売れ始めてはいるが、スーパー商品のような日常型商品は今なおデフレ状態である。そうした情況を見ていくと政府与党が考えている消費税の「価格転嫁」が文字通りスムーズにいくとは思えない。

ここ数年善かれ悪しかれ安定した消費結果を見せてきたのも、例えば安さばかりが注目される「わけあり商品」も一種の新商品開発であると見るべきである。カタチが悪い、規格外、賞味期限が後わずか、・・・・・・従来であれば廃棄処分されたり加工されてきた商品を格安の「わけ」を明確にして販売し、顧客の圧倒的な支持を得た。あるいは、売上を落とし続ける音楽業界にあって一人勝ち状態のAKB48もアキバのオタク達のものであると蔑んでみられてきた。しかし、その後顧客の広がりはどうであったか。マンガ、アニメといったオタクカルチャーコンテンツビジネスは3兆円にもなろうとしている。
また、前回のブログにおいても取り上げた多くの「隙き間ビジネス」などは消費を活性・促進させてきた。安売りと言われて片隅に置かれてきたLCCは今どうであるか。顧客を魅了するユニークメニュー、例えばピーチの関空ーソウル日帰りツアーが7000円台という航空運賃。ところが、ソウルで買物に使う費用は10万円近いという。そうした新たな市場、若い女性達を開発している。ピーチの経営リーダーは電車に乗って買物に行く感覚でピーチを使ってもらいたいという。これこそが新しい市場の創造である。

ところで中世から始まった日本の貨幣経済は江戸時代の庶民の消費を活性化させたことは良く知られている。その消費では「価格」を根底に置いた商売が多数あった。例えば、庶民の人気を博した小料理屋江戸橋際の「なん八屋」では、何を頼んでも一皿八文で皿数で勘定する仕組みだ。回転しない回転寿司のような業態である。また、浮世絵にも描かれている「ニ八蕎麦」だが、その店名由来には二説ある。一つは小麦粉と蕎麦粉の割合を2:8とする説。もう一つは蕎麦の値段が二×八が十六文という説である。前者の方を正解とする人が多いようであるが、「ニ八蕎麦」以外にも「一八蕎麦」や「二六蕎麦」あるいは「三八蕎麦」があったようで、価格をネーミングとした後者の方が正解のようである。現代の「100円ショップ」業態と全く同じである。

こうした事例の他にも現在にもあてはまるような業態やイベントはいくらでも存在していた。江戸時代の消費文化が熟成した中期から後期にかけては、「夜鳴きそば」という言葉がまだ残っているように屋台や小料理屋は24時間化し、更には食のエンターテイメント化が進み、大食いコンテストなんかも行われていた。つまり、必要に迫られた生きる為の食から、楽しむ食への転換である。その良き事例が「初鰹」で”初物を食べると75日寿命がのびる”という言い伝えから、「旬」が身体に良いとの生活風習は江戸時代から始まった。上物の初鰹には現在の金額でいうと20〜30万もの大金を投じたと言われている。こうした初物人気を懸念して幕府は「初物禁止令」を出すほどであった。しかし、そんな禁止令は有名無実となる。今回の政府与党による「消費税還元セールの禁止」も同じである。こうした規制は役にはたたないことは火を見るより明らかである。

消費増税への対応として、値上げをテストしているマクドナルドと価格競争では勝負出来ないとした「ピーコック」はPB商品の開発力のあるイオンの傘下となったことをブログに書いたが、企業家は「価格を超える」商品や業態を開発すべく常に検討している。単純に増税分がスムーズに価格転嫁できるなどとは誰も考えもしない。工業製品のメーカーにあっても、下請け、孫請け、・・・・・・という構造から脱却すべく自らメーカーとしてのポジションを手に入れるべく必至の努力をしている企業も多い。農水産物の一次産業も地方において徐々にではあるが六次産業を目指すところも出てきている。あるいは既存の流通販路ではなく、自らリスクを負ってネット通販などにも進出する生産者も出てきている。勿論、販売先も国内から海外へと広げてだ。

円安で輸出において業績が改善する企業もあれば、輸入に頼る消費現場では値上げに苦慮する企業もある。そうしたなかでの消費増税の受け止め方である。下請け業者にしわ寄せがいかないようなスムーズは価格転嫁を行なわせるとした法の整備がもしもし成立したとしても、今までもそうであったように法に抵触しない隙き間市場の開発を目指すビジネスが今以上に盛んになる。中小企業を守るなどと表面をとりつくるような姑息な方法はとるべきではない。もし、成長戦略をと言うのであれば、こうしたチャレンジャーにこそ金融を始め支援すべきであろう。この中から、第二のソニーもホンダも、勿論次のワールドビジネスである日本の飲食業、マクドナルドに替わるようなジャパニーズレストランも生まれてくるであろう。
ところで数日前に政府はTPP交渉への参加を表明した。時代は異なるが江戸時代天保の時代においても市場経済が大きく転換した時があった。次回はその転換はその後どんな意味を持つに至るか、TPPの課題と共に考えてみたい。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:40Comments(0)新市場創造