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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2011年05月11日

内なる安全基準

ヒット商品応援団日記No503(毎週更新)   2011.5.11.

3.11以降、消費マインドのことばかりブログに書いてきた。私のブログにアクセスする人の中には、震災によって何がヒットするのか検索してアクセスする人も多い。既に、20兆円以上と言われている震災特需、復興特需に関する情報が雑誌やネット上で出始めている。ゼネコンを筆頭に復旧・復興関連の需要を始め、0からの町づくりに必要な需要については、阪神淡路大震災を参考にし、そのうえで漁業や農業といった第一次産業関連と福島原発における仮説としての復興プランを想像すればそれほど間違った結論には至らないと思う。
そして、特需バブルとでも言えるような売上倍増、3倍増の企業が半年後には出てくる。阪神淡路大震災がそうであったように、建設・建築関連企業においては、既にそうした兆候は現れてきている。生活という視点に立てば、家の次に必要となるのが足となる自動車で、まず求められるのが安い中古車である。そして、次にはと順次推測していけば良い。しかし、このブログのテーマの中心は生活者の消費であり、この困難な時代であればこそ誕生する新しい価値を持った商品である。中部電力の浜岡原発が正式に停止となり、電力需給のドミノ現象などと言われているが、節電、省エネ、省マネーといったライフスタイルは首都圏だけでなく全国のテーマとなった。つまり、全国等しく「省」というライフスタイルが日常化するということである。

こうした「省」の潮流と共に、消費の全面に出てくるのが、「自己防衛」である。福島原発事故であきらかになったことの一つが、安全基準を持たない国であり、いかにいいかげんであったかという事実であった。郡山市を始め多くの学校で汚染された校庭の表土の除去を行ったが、その際放射線量の安全基準、被曝の基準について児童も大人と同じように年間20ミリシーベルトとして良いのかという論議が報じられた。専門家の間でも意見が異なるという言い訳で、「暫定措置」というあいまいさが発表された。私は繰り返し指摘してきたが、「風評」はこうしたあいまいさにこそにあると。特に、海外における風評によってジャパンブランドは毀損すると指摘をしてきたが、マスメディアもやっと中国や東南アジアのジャパニーズレストランの苦境を報じ始めた。

また、福島原発事故と同じレベルの論議にしてはいけないと思うが、同様なのが北陸で4名もの方が亡くなった食中毒事件である。原因となる0111の付着が焼肉酒家えびすにあったのか、精肉卸会社の方であったのか、捜査中で不明であるが、国の基準に沿った生食の流通は0となっている。しかし、ほとんどの人はそんな基準があることも、有名無実となっていることも知らずに店を信頼して食べているのが実態である。蓮舫消費者担当相は生食は食べないように行政指導してきたと言うが、消費者にはそのような情報は届いてはいない。結果、生直用の表示基準を厳しくすると明らかにしたが、ユッケの本場韓国では抜き打ち立ち入り検査を含め、極めて厳しい安全基準をもつ法律が用意されている。

全てを法の規制下に置けば、事故・事件は起きないということではない。福島原発事故も集団食中毒事件も、共通する背景がある。それはデフレ時代のコストカット、経済合理性を第一義とした経営にある。
この2ヶ月、想定外という言葉が盛んにキーワード化され報道されてきた。その想定とは東京電力や政府にとっての安全基準で、顧客である利用者や住民にとっての安全基準ではない。東電も中部電力も、他の化石燃料や自然エネルギーによる発電の組み合わせにあって、原子力発電によって利益を生む経営となっている。中部電力が浜岡原発を停止することによって、発電コストが上昇し年間2000億円を超える負担増となる。結果、赤字決算になることは避けられないと報じられている。東電もしかりである。極論を言えば、安全基準をどの程度とするのかによって安全への投資が決まり、利益率も決まる。つまり、安全に対し一つの割り切りようとして経営しているということだ。

焼肉酒家えびすの場合は、コストカットの一般的手法として、店内ではほとんど調理しないで済むように仕入れ先に依頼もし、あるいは仕入れ先を選ぶ。仕入れ原価を安くすることも必要ではあるが、コストが一番大きいのが人件費であり、次のコストは地代・家賃である。つまり、調理が簡単に(アルバイト程度で)済めば、人件費はもとより調理スペースも少なくて済み、その分客席数を増やすことができる。結果、ローコスト経営の第一歩となる。こうした手法は地方企業が首都圏などに進出する時によく使う手法である。例えば、刺身などを売り物にした居酒屋の場合、地方の漁港で水揚げされた魚を安い人件費の漁港近くで刺身用にさばき冷蔵で送り、店内では刺身状態に切るだけ。こうして低価格競争に勝ち抜いていくのである。普通のプロの料理人であれば、自ら魚を吟味して選び、刺身としておろす。魚をさばく時の衛生管理もプロとして当然行うこととなる。今回の食中毒事件は焼肉酒家えびすも仕入れ先の精肉卸会社も、互いにコストカットするなかで安全が無視された結果であるように見える。

こうした相次ぐ事故・事件は生活者の自己防衛意識をより強めていく。その先はと言うと、「内なる安全基準」を持つ方向へと向かう。ひょっとしたら、放射線量を測定するガイガーカウンターなどが隠れたヒット商品になっているかもしれない。そして、節電を超えて、家庭用蓄電池が注目され、更には蓄電池代わりになるとして電気自動車に注目が集まっている。3.11以前であれば笑って済む話であるが、首都圏における消費マインドはここまできているということである。実態数字は分からないが、福島ばかりでなく首都圏ですら西への疎開者はかなり存在していると思う。
今日で東日本大震災から2ヶ月が経過した。しかし、各紙に目を通したが、復興どころか復旧すらできていない。がれきの町のままであり、仮設住宅もほとんど出来ていない。福島原発事故も収束のメドは立ってはいない。やっと昨日から避難地区の人達が一時帰宅ができるようになった。しかし、国は汚染地域への一時帰宅を自己責任とし、その同意書をとったと言う。当たり前であるが、こうした責任転嫁の如き扱いに住民は一様に怒ったと報じている。こうした情況下での消費マインドである。少し前のブログに首都圏の消費模様を自粛でも萎縮でもない、自覚の結果であると書いた。その自覚の一つが「内なる安全基準」をを持ち、安全を自ら確保する方向へと向かっているということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:41Comments(0)新市場創造