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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2011年02月01日

デフレ心理の消費像

ヒット商品応援団日記No482(毎週更新)   2011.2.1.

昨年12月、子ども手当の使い道について厚生労働省から初めての調査結果が報告された。 調査は、昨年9月にインターネットで中学生までの子どもがいる1万183世帯に実施。手当の使い道を複数回答で尋ねると、
「子どもの将来のための貯蓄・保険料」(42%)、
「子どもの衣類や服飾雑貨費」(16%)、
「学習塾や通信教育などの学校外教育費」(16%)が上位を占めている。
しかし、子ども以外の目的では日常生活費(14%)や家族の遊興費(6%)など。子ども以外の目的にも使う家庭の3分の2近くが「家計に余裕がない」ことを理由に挙げている。
これが小さな子どもを持つ家庭の消費実態である。政治は政局論議ばかりで、「何故貯蓄に回るのか、子ども以外の目的に使うという家計補填も多い」という生活実態について、未来を指し示す考えには及んではいない。

全てが不安定さばかりで確定・確信できることなどほとんどない時代。勿論未来はわからない、だから巣ごもりする生活から首だけを出して、360度見回して見る・・・・これが私が名付けた「キョロキョロ消費」の実態である。子どもの未来に備える、今の家計を補填する・・・・これは極々普通の生活者の基本となる消費行動である。
今、東京では新名物スカイツリー観光が盛んであるが、江戸川区や墨田区といった周辺住宅地も同時に人気となり、地価が下がっているなかにあって、住宅価格が上昇している。従来の人気住宅地と言えば、吉祥寺や自由が丘といったブランド住宅地であったが、新婚世帯や子育て世帯にとって都心から近く、しかもブランド住宅地と較べてかなり安い。しかも下町人情が商店街のあちらこちらに残っている。コストパフォーマンスの高い住宅物件がまだまだ残っているということである。このことも、キョロキョロ見回した結果としての現象である。

失われた十数年といわれているが、得られた知恵の第一は「費用対効果」であった。限られた費用(収入≒支出)のなかで、最大の効果(満足度)を得るという生活価値観である。そのためには過去に立ち返って探したり、一人で無理なら数名でシェアーする。あるいは従来のサービスに対し、自らが行うセルフスタイルによってコストを半減させる。断捨離といったシンプル主義も始まった。ここ数年のヒット商品の多くはこうした着眼によってであった。ただ、それら全てを「節約」の二文字で説明しても全く意味をなさない。そこにはコストパフォーマンス以外に、「遊び心」や「楽しさ感」といった生活文化があるということだ。そうしたコストパフォーマンスが高いお気に入り商品は、購入時点で少々高くても結果として長く使えてお得(満足)となる。

子育てという視点で言えば、待機児童問題(=保育所不足問題)の解決では空家となっている都心部の部屋を保育園に活用するNPOも出始めている。マンションばかりでなく、東京にもシャッター通り化した商店街が多数ある。行政の支援を受けるための認可保育園の基準の緩和、あるいは近隣住民との騒音等の問題解決といった課題はあるが、既にある「空家」をどう活用するかが少子化対策の一つになりえるのだ。今、政府は幼保一体化とした政策を考えているようであるが、既にあるものの効果を最大にすることこそが問われているいるということだ。財政が逼迫していることは政府も生活者も同じで、生活者はキョロキョロ見回し知恵ある工夫・消費を行っている。そして、生かし切ること、それは日本が昔から生活の知恵としてきたことである。生かされて生きる、とはこうした知恵ある生活のことである。

未来は不安ばかりであると一般的に言われるが、不安は日常のなかの小さな具体的なことの中にある。今、国会で来年度の予算審議が始まろうとしている。子ども手当もそのなかにあり、ねじれ国会ということから果たして実施できるのかどうか。手当が恒久的な財源ではないことが明確になり、更には消費税増税までもが論議されとうとしている。未来は不安ではなく、極めて暗い、そうした心理に入ろうとしている。いや、既に入っているであろう。例えば、子ども手当が実施されても、今以上に貯蓄へ回り、家計への補填がなされるだけで、「消費」を梃子にした経済の活性や明るい空気感といった雰囲気醸成には遠く及ばないであろう。
更に悪いことに、エジプトでの騒乱は原油高につながると見られ、他の食料資源も高騰が予定されており、数年前に起こった川上ではインフレ、川下ではデフレといったねじれ現象が企業ばかりか生活者をも直撃する恐れがある。そして、この3月にはリーマンショック以降の官製支援策が打ち切られる。鳥インフルエンザは北海道から九州まで広域に広がっている。未来は更に暗くなる、これが生活者心理の「今」である。

面白いことに、週刊東洋経済が「デフレ完全解明」という特集行っていたが、金融政策によるデフレ脱却を述べていたのはわずかなエコノミストで、他の多くのエコノミストは「産業構造の転換」や「規制緩和」、あるいは「潜在成長率を高める」といったものばかりであった。私はマクロ経済の専門家ではないが、日本の産業全てがグローバル経済に組み込まれ、特に中国との輸出入等も多く「価格」に対する影響が大きいことから賃金デフレ(下落)、物価下落が起きる。マクロ経済の専門家によれば「生産需要価格収斂の法則」と呼ぶそうであるが、こうしたデフレ解決には金融政策以外の施策が必要との指摘であった。
中国との生産需要価格差がどのレベルどの時点で収斂するのか、そこまでの産業構造の転換と簡単に言ってしまうが、生半可なテーマではない。いわゆる需給ギャップを埋めることであり、例えば過剰となった建設会社の整理、人員の整理、といったリストラであり、あるいは余剰人員を農業法人や介護事業へと転換したり・・・・・いずれにせよ、グローバル化したここ十数年痛みを伴う転換が進行している。こうした痛みがどこまで続くかわからない、これが不安心理の根源にある。

消費の話に戻すが、ほぼ1年ほど前、ライフスタイル変化の推移についてブログに書いたことがあった。1980年代の「おいしい生活」から1990年代の「上質な生活」を経て、今「お得生活」が広がっている。つまり、「お得」であること、費用対効果への知恵や工夫、アイディアが求められているということだ。消費の変数それぞれに「お得」であるかを加えて検討してみるということである。ブランド住宅地の吉祥寺から、お得な江戸川区や墨田区へと移動が始まっている。その「お得」は経済ばかりでなく、時間や便利さといったお得でもある。そして、「生産需要価格収斂の法則」ではないが、ブランド住宅地の価格と江戸川区や墨田区の価格との差が、一定のところに収斂するまで「消費移動」は起きる。
こうしたお得心理はこの10年ほど続いているデフレ経済によるものである。子育て世代を始め、若い世代にとってみれば、消費年齢になった頃は既にデフレ環境のもとで育ってきた。このことを考えれば、草食世代と揶揄され、消費が萎縮しているかのように見えるのも至極当然のことである。そして、残念ながらデフレ脱却にはまだまだ時間を必要とする。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:45Comments(0)新市場創造