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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2010年12月05日

「有縁」市場に着眼

ヒット商品応援団日記No474(毎週2回更新)   2010.12.5.

「新語・流行語大賞2010」が発表された。ここ数年、はやり言葉というより、注目・話題となった社会事象のキーワードやテーマのような言葉が多くなったが、社会変化の一断面を切り取ってくれている。2010年度のベストセラーNO1は「もしドラ」であるが、そのP.ドラッカーは常々「起こっている変化」を問い、本質的な変化であることが明らかであれば、その変化をチャンスとすべきであることを指摘してくれていた。「新語・流行語大賞」もそんな変化の一つである。
その今年度の大賞は「ゲゲゲの〜」であるが、言葉というより、水木しげる夫妻の半生記を描いたNHKの連続TV小説「ゲゲゲの女房」への社会的注目と言った方が分かりやすい。周知のように戦後の極貧のなかをひたむきに生きてきた夫婦の絆がテーマである。そんな夫妻の生家のある鳥取県境港や妖怪達が出迎えてくれる水木ロードには250万人もの人が訪れたと聞いている。

今回の「新語・流行語大賞2010」の特筆すべきは、避けることのできない社会の断面があらわとなっていることであろう。大賞とはならなかったが、TOP10の流行語には次のような言葉が選ばれている。それらを整理・対比させてみるとその「社会」が見えてくる。

・「ゲゲゲの女房」と「無縁社会」
・「イクメン」と「女子会」

「ゲゲゲの女房」における生きることへのひたむきさ・夫婦の絆を少し広げていけば、特別賞に選ばれたハンカチ王子齋藤裕樹の「何か持っていると言われ続けてきました。・・・・・・それは仲間です。」という人と人とのつながりの大切さにつながる。あるいはツイッターで多用されている「〜なう」は、「今○○してる」という個と個が常につながっていたいという「無縁社会」の象徴のような言葉だ。無縁であるが故に、多くの人が「有縁」に着目しているということである。
こうしたバラバラとなった個人化社会にあって、男女の違いとなって出て来たのが「イクメン」と「女子会」である。更に広げていけば、一時期流行った「草食男子と肉食女子」の変形バージョンとして見ていくこともできる。
このブログにも書くつもりであるが、世代間の段差、生活価値観の違いが明らかになってきている。いずれにせよ、個人化社会における個と社会・コミュニティ、個と組織、その在り方が主題となっている。

既にSMBCによる2010年度のヒット商品番付が発表されているが、「新語・流行語」の世界を重ねていくと、更に時代の生活価値観・潮流が見えてくる。
「ゲゲゲの〜」について言えば、6月に奇跡の帰還を果たした小惑星探索機「はやぶさ」への共感と共通したものがある。困難さを超えて帰って来た「はやぶさ」の展示に、宇宙や科学に興味ある少年ばかりか、自らの戦後人生を重ね合わせた、そんな中高年世代の来場者が数多く見られた。奇しくも、少し前に作詞家星野哲郎さんが亡くなられた。水前寺清子が歌う「365歩のマーチ」(作詞星野哲郎)の「一歩一歩、幸せは歩いてこない、だから歩いてゆくんだよ」という人生応援歌の歌詞を思い起こした人も多かったであろう。「ゲゲゲの〜」にも、「はやぶさ」にも、ひたむきな人生への共感を見て取ったということだ。ビジネスマーケッターとしての着眼点として言うならば、人生コンセプト、生きざま、思い、一途といった人が持つ固有性が明確に分かる商品やサービスに支持が高まるということだ。速い、安い、うまい、といった標準化された工業化製品全盛の時代にあって、例えば職人の手技のような時間によって磨かれた奥行き・深みといった固有の文化価値に徐々にではあるが注目が集まる。

2010年度のヒット商品については日経MJの発表を待って読み解くこととするが、SMBCは横綱の番付けには該当するヒット商品はなく、全て小粒な商品であったと指摘している。こんなことはデフレの時代にあっては当たり前のことで、もし横綱級の大ヒット商品というのであればエコポイントを始めとした「官製販促」であろう。あるいは自然災害のような100年に一度の猛暑による飲料やエアコンへの爆発的な需要であろう。いづれにせよ、ライフスタイル変化を促すようなヒット商品は生まれてはいない。しかし、小さなヒット商品が有縁市場、その周辺から生まれて来ている。

もう一つ指摘しておきたいのが、アイドルへ着目である。単に「AKB48」がブレークし、「新語・流行語大賞2010」に選ばれたからということではない。アイドルもまた、無縁社会であるが故に虚構の世界で思いの縁を結ぶ、そんな欲望から生まれた有縁市場の一つという訳だ。ハンカチ王子(齋藤祐樹)を始め、石川遼もそうであるし、氷川きよしも同じである。「ゲゲゲの〜」が人生コンセプトであるように、「AKB48」に見出すとするならばピュアー(純粋)コンセプトとなる。ハンカチ王子が甲子園で活躍した時このブログにも書いたので結論だけを言うと、「素」の魅力、削ぎ落としてもなお輝く魅力ということだ。全てが過剰な時代にあって、それらを削ぎ落とし消費もまた「素」を目指すということである。面白いことに、アイドルは年齢と共に純粋さを失うか、山口百恵のように引退する道しかない。「AKB48」の場合はオタク達の選挙によってアイドルが決まる、つまり常にアイドルとしての純粋さ、その鮮度が失われないような仕組みになっていることに着目すべきであろう。

個人化社会は構造的な変化である。今年の春、植村花菜さんが歌う「トイレの神様」をこのブログでも取り上げた。亡きおばあちゃんと自身の思い出を歌った曲であるが、有縁も思い出のなかでしか取り戻せない時代なのかもしれない。ここ10数年、和回帰を始め多くの回帰現象が見られたが、歴史や文化への回帰だけでなく、おばあちゃんや家族といった人へと回帰の広がり・進化が始まった。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:46Comments(0)新市場創造