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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2010年04月07日

無料経済と興味の深化 

ヒット商品応援団日記No456(毎週2回更新)  2010.4.7.

ここ10数年、インターネットが普及し、そのデジタル化の進行と共に無料経済の世界が広がってきた。勿論、全てが無料になるという訳ではないが、商品やメニューがデジタル化できれば、「無料」が価格設定の一つとなった。そうした無料化のなかで注目されてきたのが、「フリーミアム」というビジネスモデルである。一部の有料顧客が他の顧客の無料分を負担するモデルで、フリーとプレミアムを合わせた造語とのこと。良く知られているのが、GREEが行っている携帯魚釣りゲーム「釣りスタ」で、そのほとんどの人が無料でゲームを楽しむが、ゲームへの興味が深くなるにつれて、特殊な竿や餌(有料)が欲しくなり、その有料分で全体コストが賄われているというビジネスである。

こうしたマーケティング手法はデジタル世界だけではなく、アナログの世界においても既に行われている。その良き事例であるが、東京虎ノ門の「播磨屋」ではお茶やおかき、煎餅が無料となっており、人気の店となっている。普通であれば、お茶もしくは煎餅のどちらかを有料にしそうなものだが、この播磨屋は全て無料である。勿論、製造工程で割れてしまったような「わけあり商品」ではない。TVにおいても紹介されており、広告費を必要としないと同時に、カフェ利用顧客には好きな商品を購入する顧客、有料顧客も多いと聞いている。一種のお試しマーケティングであるが、無料が与える心理的インパクトは○○offといったものとは全く異なる強さを持っている。
つまり、デジタル世界、アナログ世界の如何を問わず、無料を入り口にした価格戦略・マーケティング戦略が本格化してきたということだ。

以前、「仮想と現実、行ったり来たり」というテーマでブログを書いたことがあったが、仮想世界も現実世界も同様に、顧客の興味・関心がどれだけ深くなるかがマーケティングのポイントとなる。蕎麦好きが高じて、自ら道具を揃え家族や親しい人にふるまっていた人が、最終的には蕎麦屋を開店させてしまう現代版道楽に似ている。こうした「興味」から「好き」へと促す従来型のマーケティングと共に、「無料」を入り口としたマーケティングの場合もアップグレードした世界を目指す有料プログラムが用意されている。つまり、アップグレードに価値を見出し、有料でかまわないと思ってもらうことである。「FREE」(NHK出版刊)を書いたクリス・アンダーソンによれば、無料顧客95%、有料顧客5%が「フリーミアム」というビジネスモデルの定説であると言う。一方、播磨屋の場合はどうであろうか。おかきや煎餅のメーカーであることから、店舗単位での収支ではなく、多分にPR経費として計上していると思う。但し、播磨屋本店のHPを見ても分かるが、「無料お試しセット」を始め「じっくり味わい楽しむコース」など4コースが用意されている。これも興味を入り口とした体験による深化、アップグレードを期待したメニュープログラムになっている。

また、従来からある需給バランスに基づいた価格設定も更にきめ細かく進化してきている。例えば、この4月から全日空の料金の仕組みが変わった。従来は早く席を埋めるために早割や特割といった価格戦略を採っていたが、この4月からは需要の多い時間帯の便は高く、需要の低い時間帯の便は安く設定されており、現在は幹線だけではあるが、最小単位である席の稼働率を上げる工夫がなされてきた。同じように「生もの」と言われてきたホテルや旅館も同様である。利用者にとっては多様な選択肢が用意されることで価格への満足度は高まるが、インターネット上を中心とした無料経済と共にデフレを促進していることは間違いない。

古いマーケティングの話で恐縮であるが、20−80の法則という経営モデルがある。20%のリピーター顧客が80%の売上を占めるという一つの経営指標のことである。初めてビジネスを行う時、顧客は全て新規開拓顧客である。その新規顧客をいかにフアンになってもらい、リピーターという安定した継続顧客を創造していくか、このことはデジタル世界でも同じである。ただロングテールのように、デジタル世界の市場規模は途方もなく大きく、ほんのわずかな%の有料顧客を生み出せれば経営が成り立つ。そのわずかな顧客も無料を入り口に興味を深化させ、有料へと向かわせられるかがこの時代の経営である。デジタル世界も、アナログ世界も同様に、無料というキーワードが広く市場へと侵蝕し始めた。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:38Comments(0)新市場創造