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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年10月21日

モノを売るのではなく方法を売る

ヒット商品応援団日記No412(毎週2回更新)  2009.10.21.

ここ数ヶ月、巣ごもり消費生活のなかで、どんな新たな価値観が熟成しているか、そればかりを考えている。消費傾向、消費実感の実態指標の一つとして東京ディズニーリゾートの集客傾向があるとブログにも書いてきた。それは極めて優秀なマーケティング&マーチャンダイジングが行われていてそれでも集客を落としているか否かが一つ。もう一つが物語消費というテーマパークビジネスの良きビジネスモデルになっていて、今後の物語マーケティング、特にブランドの再生につながるからである。

周知のように、東京ディズニーランドは1983年3月に浦安にオープンするのだが、そのディズニーワールドとは歴史を持たない移民国家米国が物語として創造した故郷としてつくられている。簡単に言えば、民俗文化を持たない米国人が人工的に創った疑似フォークロアである。過去、多くの民俗学者が指摘しているように、「ピノキオの冒険」や「不思議の国アリス」を始め、その多くが移民の故郷ヨーロッパの昔話しに素材を得ている。テーマパークビジネスの多くはこうしたディズニーの考え方や手法を学び、日本の至る所にテーマパークを創ったが、しかしそのほとんどがバブル崩壊と共に失敗・破綻に終わっている。

何故、東京ディズニーランドだけが成功し続け、他のテーマパークの多くが失敗に終わったか、その理由を明らかにしなければならない。ところで、先日NHKの「クローズアップ現代」で最新の「絶叫マシン事情」を取り上げていた。いわゆるジェットコースターを始めとした絶叫マシンであるが、利用回数を重ねるにしたがい刺激が薄れていく、結果スピードや回転などををどれだけ上げていくかが集客のポイントとなっていた。しかし、最新の絶叫マシンはスピードや回転は遅いが、予測できない動きへと変わる絶叫マシンであるという。乗る人の位置や重量によって、マシンの動きがまるで変わってしまう、予測不可能な恐怖感が創出できると、これが恐怖快感の今であると。まるで、一時期流行った激辛ラーメンやカレーがその辛さ=刺激をエスカレートさせ、単なる話題に終わり以前のラーメンやカレーに戻ったことを想起させる番組内容であった。テーマ集積は必要ではあるが、例えば激辛ラーメンブームの後にどんなラーメンを用意したら良いのか、ということである。

ところで、ディズニーランドにも「スペース・マウンテン」のようなジェットコースター的乗り物はある。しかし、アトラクションのほとんどが歩いたり、ゆっくりとした乗り物による移動である。小部屋のような区切られた世界を巡るのだが、そこに展開されるエピソード、小さな物語をじっくり見る間もなく、次へと移動する。ここに、ディズニーならではの高いマーケティング&マーチャンダイジングが行われている。つまり、一種の断片的情報(エピソード)を次から次へと与える。つまり観客=顧客に物語を想像=創造させる仕組みが構造化されているということだ。観客=顧客は断片と断片をつなぎ合わせ一つの物語を創っていく、そうした再編集することを構造化させているということである。この構造、観客に想像させ創造に向かわせるには、情報遮断、日常を忘れさせる空間、異空間が不可欠となる。だから、お弁当の持ち込みを禁止したり、パーク内清掃すらもアトラクション的なディズニースタイルを創ったのである。つまり、新規アトラクションや季節イベントの導入という変化=鮮度を常に提供するマーケティングと共に、そのアトラクションというメニュー構造それ自体に、リピーター経営、商品を顧客自身が育てる仕組みが内在化されている。つまり、観客が主人公、ディズニーランドという劇場の主役はミッキーでもミニーでもなく、観客=顧客であることを徹底して実現している。これが、他のテーマパークビジネス、テーマを決めその集積をすれば良いとしたビジネスと根本異なる点である。

もう一つディズニーランドと同じ構造をもつ商業施設がある。それは若い女性達にとって憧れのファッションの聖地渋谷109である。渋谷の再開発ビルという制約条件から、細長い円筒形のビルとなっている。中央にエスカレーターがあり、それを取り囲むように小さなショップが圧縮して配置されている。各ショップは思うがままの店づくり行い、光と音が交差し、日常からは遮断された、まるでジャングルの中にいるような異空間となっている。あのエゴイストもわずか16.9坪、こうした小さなショップばかりである。ショップの天井にシャンデリアを最初につり下げたのはエゴイストであったと代表の鬼頭さんは話してくれたが、まさにショップは劇場化している。こうした小さな劇場を巡る異空間体験こそ、ディズニーランドにおける物語を想像=創造させる仕組みと極めて酷似していると言える。更に、ディズニーランドにおけるキャラクターグッズのお土産も、渋谷109でのショッピングも、同じ物語体験から生まれたと言えなくはない。

さて、こうしたマーケティング&マーチャンダイジングのケーススタディから何を学ぶかである。絶叫マシンのように最新の技術によって消費欲望を刺激する方法も無くはない。今、「低価格」というテーマ刺激が大きな波となって押し寄せているが、こうした差別化競争の先に何があるのか、生活者・消費者は見極めようとしている。ディズニーランドも渋谷109も、想像し、創造する主体は顧客の側にあるということを徹底した。インターネットの世界もそうであるが、作り手は顧客の側に既に移っており、消費物語の再構成、再創造に向かっている、これが巣ごもり生活の実体であると私は仮説している。
しかし、生活者は消費のプロではあっても、作り手としてのプロではない。一つの事例であるが、ブームという一過性を超えて日常化しつつあるのが家庭菜園である。都市周辺の農地を農業指導付きレンタルビジネスが流行、荒れ果てた休耕地をレンタル農園にする試みすら始まっている。そして、ヒット商品になったのが小型耕運機である。劇場は自然溢れる農地、日常を忘れさせてくれる農作業。いくら学習してもプロではないので断片・部分情報しか持たないのが顧客である。農業のプロ、指導員がそれをサポートしてくれる。また、例えばプロ農家になれる道、農家レストランへの道筋も用意されていたらなお良い。勿論、育てた農作物はこれもお土産となる。これが都市生活者にとっての「ひととき農村劇場」。テーマの進化という視点に立てば、自然志向、ナチュラルライフスタイルにおけるレジャー農業の進化系である。話題先行型で若干危惧しているが、秋田大潟村に渋谷ギャルが出かけ米づくりをしているが、リーダーの女性は新しい農作業ファッションをつくってみたいとコメントしていた。これも農村劇場における舞台衣装の一つであろう。

自然志向、ナチュラルライフスタイルをテーマとする学習の旅にエコツーリズム、あるいはグリーンツーリズムがある。そうした学習の旅にいつもモノ足らなさを感じるのだが、実はビジネスになっていないという点である。自然は保護されるべきものであるが、その保護をするためにも継続・回数化できるビジネスにしなければならない。
一つ良きヒント、発想を変えるためのケーススタディとなるのが閉鎖寸前であった旭山動物園の再生である。従来の動物園は珍しい動物をどれだけ導入できるかが集客方法の全てであった。例えば旭山動物園では、シロクマの行動展示では、最大の好物であるアザラシ(=観客)がさもいるかのような仕組み、見せ方が構造上作られている。アザラシ(=観客)をめがけてシロクマが飛びかかる、観客はその野生にびっくりするといった、野生のもつ行動を興味深く展示する考え方で全ての動物が展示されている。従来は観客が動物を見る発想であるが、旭山動物園の場合は動物も観客(人間)を見ており、その野生を引き出したことにある。そして、私たちが知らなかった野生の一面、不思議さがどれだけあるかを教えてくれた。子ども達は驚き、そして野生の物語へと想像し、創造へと向かうであろう。絶叫マシンではないが、その正反対にある自然こそ予測し得ない出来事という刺激を与えてくれるものだ。少し飛躍するかも分からないが、ある意味旭山動物園の行動展示は東京ディズニーランドの構造と良く似ている。

何故、単なるテーマ集積では駄目なのか、簡単に言ってしまえば、例えば、10年後のご当地グルメMー1グランプリはどうなるであろうか、と問うてみれば分かる。もし、劇場化というキーワードを使うとすれば、どんどん日常劇場になり、体験劇場へと向かっている。東京ディズニーランドや渋谷109は非日常体験劇場として希有な成功事例である。発表された「ミシュランガイド京都・大阪2010」があまり話題にならないのも、大不況下と言うことと共に非日常的であることによる。テーマの進化は日常テーマ、体験テーマへと向かっている。ただ、日常物語、体験物語の想像・創造主体は生活者であるが、実はプロの手助けを必要としている。何故なら、過剰な情報が飛び交う時代とは、常に断片・部分情報だけで、つなぎ直し、編集し、物語とするには素人の生活者には極めて困難であるからだ。仮に、消費刺激という言い方をするならば、プロはプロの商品やサービスを提供するだけでなく、つなぎ直す方法、編集する方法、それをプロ固有の裏技といっても、プロの基本といってもかまわない。つまり、東京ディズニーランドや渋谷109のようにハードもソフトも構造化させることが無理であるならば、プロは顧客が思い描くテーマの進化に合わせ、「方法」を売っていくということだ。例えば、今年もボージョレヌーボーを迎えるが、今年のワインの味はどうであったかではなく、家庭での楽しみ方、お金を使わずに済むホームパーティ法、プロが自宅で楽しむワイン料理、といった時代に合った日常物語づくりを手助けすることだ。あるいはファッションの売り場であれば、販売員ではなく顧客のスタイリングを売り、美容であれば美容法を売っていくということである。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:52Comments(0)新市場創造