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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年08月16日

年間所得100万円減少時代

ヒット商品応援団日記No392(毎週2回更新)  2009.8.16.

お盆休みにも関わらず、「この10年間で年間100万円の所得が減少した」という事実に多くの方がアクセスしてくれた。リーマンショック以前から既に景気は後退局面に入っていると私はブログにも書いてきたが、今回の厚労省のデータ(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa08/2-2.html)によって、ここ数年社会に現れた多くの現象について数字からも説明可能となった。例えば、4〜5年前までの健康ブーム、サプリメント依存症が社会問題になるほどの加熱ぶりは今や影を潜め、得盛りや食べ放題といったガツン系へと関心事が大きく振れた。ヒトリッチというキーワードと共に都心の隠れ家ブームが地方都市へと広がったが、そのナビゲーション役を演じていた雑誌は、そのテーマを食堂や美味しい丼、立ち飲み活用法といったごく普通の日常性へと変化した。ヒルズ族という言葉は「成功者」というイメージから、バブリーで阿漕なイメージへと変化し、今回の押尾学による薬物事件によって最悪のイメージとなった。ちなみに、「富裕層」というキーワードは2005年度の流行語大賞のトップ10に入ったキーワードで、その時の大賞は「小泉劇場」と「想定内(外)」であった。2年ほど前、私は「サプライズの終焉」というテーマでブログに書いたが、まさにその通り小泉劇場、その延長線上にある東国原シアターは幕を閉じた。

そして、何よりも明確になったことは百貨店の旧来マーケットが崩壊していたということである。厚労省のデータ、所得五分位値の第3及び第4のグループが百貨店のマスマーケットとして存在していたが、この10年で物の見事に縮小という形で崩壊している。既に10数年前から、本店を中心にした数店舗は黒字であったが、それ以外の店舗は全て赤字であった。つまり、本店で儲け他の店舗の赤字を補填する経営であった。しかし、そうしたことは長続きしない、いやそうした経営テクニックなどでは解決し得ない問題、中心顧客層が居なくなってきたということだ。結果、地方都市からの撤退と統合再編が繰り返され今日に至るのである。
周知のように、百貨店の源流は江戸の呉服屋である。当時の呉服屋は「掛け売り」が主流で、年2回代金を回収していた。そうした商売に革命を起こしたのが越後屋(後の三越)であった。「現金掛け値なし、薄利多売、正札(定価)販売」という方法である。代金未回収というリスク分を無くし、その分安く提供する、しかも一反単位の呉服を切り売りもする、今の言葉で言うと、「わけありディスカウンター」という業態であった。つまり、富裕層だけを主要顧客としてきた呉服マーケットを広く庶民にまで広げた革新者が越後屋であった。顧客あっての小売業である。百貨店はまさに革新への岐路に立たされている。高島屋に続き、三越・伊勢丹グループも中国進出を加速させると発表したが、これから百貨店が進むべき岐路の一つであろう。あるいは、そごう・西武グループのようにグループ企業が開発したPB商品の売り場拡充も一つの方法であろう。いずれにせよ、旧来の百貨店業態という概念を壊し、新たな業態や新市場づくりに向かう。たびたびブログにも書いてきたが、スーパー業態ではセブン&アイが「ザ・プライス」、イオンが「ザ・ビッグ」、こうしたエブリデーロープライス業態へと転換してきているように、あらゆる既成流通の変革は全て「年間所得100万円減少時代」に起因している。

ところで、同じ厚労省からもう一つ興味あるデータが公表されている。所得分布の基本となっている「年次別の所得の情況」(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa08/2-1.html#)であるが、特に「児童のいる世帯の平均所得金額」である。この世帯では10年で所得が56万円減少している。今回の衆院選挙においては与野党共に、一番お金を必要とする「子育て支援」に力点が置かれている。実はこの「子育て世代」の多くが所得五分位値の第2及び第3のグループで、過去消費をリードしてきたいわゆる「中流層」である。この崩壊しつつある中流層に与野党共に着眼している。特に、民主党においては少子化対策(=内需拡大)として、この厚労省のデータを踏まえたものと考えられる。また、自民党が2020年には所得を100万増やすと方針を掲げているが、(その具体的政策は全く明らかになってはいないが)この10年で100万円所得が減少し、1998年の所得水準に戻すという意味であろう。生活実感もさることながら、政治家は「何故、この10年間で100万円も所得が減少したのか」、特に政権与党は経済政策の間違いを答える責任を負っている。その代わり物価も下がっていると良く言われるが、生活の中にある「過剰」「余剰」を削ぎ落とし、結果低価格に向かわせたのは市場、つまり生活者であって、政府の政策によってではない。既に2年ほど前からデフレ状態に入っていると私は指摘してきたが、デフレ状態によってなんとか生活が維持できている、というのが現実だ。当たり前のことであるが、価格を決めるのは市場、生活者である。

話を元に戻すが、過去「価格」を入り口とすることによって、革新、革命が起きてきた。右肩上がりの時代、所得も増え続けてきた時代は付加価値という言葉に表現されているように「付加」を楽しむことにお金を使ってきた。1980年代にはその代表的メガヒット商品が生まれている。周知の「ビックリマンチョコ」である。チョコレートを食べずにおまけシールを集めることに熱中し、チョコをゴミ箱に捨てないようにと社会現象にまでなったメガヒット商品である。特に10代目の「悪魔VS天使シール」は凄まじく月間販売数1300万個売れたと記憶している。ビックリマンチョコのストーリー性&ゲーム性を「物語消費」と呼んだ。物語=情報という虚構世界を現実世界=チョコに置き換えた開発である。チョコというモノ価値から、物語を読み解く面白さ=情報価値への転換であった。

以降、こうした物語消費、物語という付加価値をコアに置いたブランド創造が行われてきた。国産ブランド、メーカーブランドから地域ブランド、最近では大学ブランドまで多種多様なブランドが創られてきたが、そのほとんどが単なるネーミングに終わってしまいブランドの持つ「神話性」を喪失している。また、2年ほど前まではハイブランドもなんとか売上を維持できていたようだが、さすがにリーマンショック以降は軒並み20〜30%落としている。新規出店を控えるどころか、百貨店から退店するブランドも出てきている。つまり、売上を落とした20〜30%という顧客は「ひととき富裕層」、バブル顧客であり、ハイブランドにとって本来の熱烈なフアン顧客を中心にした経営に戻ったということだ。この10年右肩下がりの時代の真性顧客とは、本来の物の本質に根ざした物語価値に理解共感した顧客であり、ひととき富裕層というゴージャスさ(高額品)を求め、他とは違うとした単なる差別化を求めた顧客とは根底から異なる。ましてや、一朝一夕で創られた物語価値など瞬間的なブームは創れても継続することはありえない。

消費バブルという衣、生半可な付加価値を一枚一枚はがし、作り手も顧客も真性へと戻った。サプリメントも売れていない訳ではない。東京霞町の隠れ家が全て潰れた訳でもない。富裕層は株や投資信託などの損失はあるものの資産を減らしただけで、今なお富裕層である。既成に対する激しい破壊者、その生きざまを今なお神話として保ち続けているシャネルなどは、これからもハイブランドとして存在し続けるであろう。「アラフォー」などと雑誌が創り上げた上滑りなイメージだけの商品などは瞬時に終わるということだ。
ところで、イオンがPB商品として880円ジーンズを発売した。今春のユニクロguの990円ジーンズ、更にはセブン&アイ「ザ・プライス」の980円ジーンズに続いた低価格帯商品である。男性向けには126サイズ用意されており、シニアにとってもお直しを必要としない、まさにファストジーンズと言えよう。この3社はユニクロによるフリース発売の時もそうであったが、今回のジーンズ戦争は価格破壊の第二段階に入ったということであろう。既成に対する破壊の波は間違いなく他の分野へも次々と押し寄せるということだ。1990年代後半のデフレを第一次価格破壊期とするならば、「年間所得100万円減少時代 」とは、第二次価格破壊期を迎えたということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:46Comments(0)新市場創造