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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年08月12日

買う余裕が無いのか、買いたい商品がないのか

ヒット商品応援団日記No391(毎週2回更新)  2009.8.12.

確か2年半ほど前に、「誰を顧客とするのか」というテーマでブログを書いたことがあった。昭和のいざなぎ景気を超える平成景気であると政府発表があり、現実の消費生活には全く反映していないことから疑問に思って調べたことがあった。当時のブログ(2006年10、29)に、次のように私は書いていた。

『今回の景気回復(2002年〜2005年)について、1960年代からの高度成長期のいざなぎ景気(1965年11月〜1970年7月/57ヶ月間)を超える順調な景気回復であるとニュースで報じられている。生活実感からはかけはなれた情報との指摘があるが、至極当たり前である。いざなぎ景気時代は平均成長率11.5%、一方今回は2.4%で、物価変動を踏まえない名目では18.4%と今回わずか1.0%である。生活実感ベースで見ていくと、いざなぎ景気時代の雇用者収入は2.1倍に、今回は逆に1.6%減となっている。嘘の情報とは言わないが、そもそも比較する事自体がおかしい話で、恣意的な情報と言われても仕方がないと思う。いざなぎ景気時代には3C(カラーTV、クーラー、車)と言われた消費ブームが起きたが、今回はせいぜい薄型TV位が売れているだけで、あのマクドナルドも「100円戦略」に戻ったようにデフレは今なお続いている。都心部の百貨店では高額時計やジュエリーあるいは一尾700〜800円もする釧路の青刃さんまが売れているが、一方CVS既存店の売り上げは横ばいもしくは減少傾向にある。その内容を見ても、小さな付加価値商品による利益重視型の戦略を取っているのが実態である。』

前回ブログに書いたように、世帯収入は10年間で約100万円減少した。データ比較の期間が違うとは言え、これほどまでに減少した結果が今日の「巣ごもり消費」を招いていると、不思議なことに誰も指摘していない。当たり前のことであるが、消費は、将来の収入に対し、楽観的であるか、悲観的であるかによって決まる。つまり、「なんとか楽観的でありえたい」というのが本音であろう。しかし、ここ1ヶ月ほどテーマとして書いてきた草食系世代にとって、現実は「悲観的」であるとの醒めた認識だ。

「買う余裕が無いのか、買いたい商品がないのか」といった論議が数年前まで行われてきた。私自身も1年半ほど前までは、「付加価値」というキーワードと共に、「買いたい商品」をどう開発していけば良いのかを多くの場で述べてきた。しかし、同時に「越えなければならない価格の壁」 についても指摘してきた。価格の壁を越える商品として「わけあり商品」や「アウトレット商品」について、1年以上前からその着眼と大きな潮流になるであろうと指摘してきた。しかし、そうした消費傾向と併行して生まれてきたのが「代替消費」である。「○○したつもり」、「××の替わり」にといった消費傾向であるが、その代表商品例が昨年若い女性にヒットした「柄タイツ」である。もっと卑近な例を言えば、以前であれば家族一緒に遊園地へ出かけていたが、今は近所の公園へお弁当持参で出かけるという行動である。つまり、「買う余裕が無い」といった市場が急速に大きくなってきた。その裏付けが、この10年間で100万円世帯収入が減少したということだ。

数年前までであれば、帰省ラッシュはこの時期一番のニュースであった。今年は衆院選挙と2つの薬物事件、更には異常気象による災害といった3つの「異常」でニュースが埋め尽くされている。帰省ラッシュがニュースになる時代とは、ある意味豊かさが残っている時代だ。数年前まで、1992年のバブル崩壊以降「失われた10年」と言われてきた。しかし、1997年までは世帯収入は増え続けていたのだ。そして、1998年から下がり始め今日に至るのだが。もし、そのような表現を使うならば、「衰退に向かう10年」、あるいは「緩慢な死へと向かう10年」と言ってもかまわない。

悲観的なことばかり言うようだが、実はこうした時代、こうした困難な課題に囲まれていればこそ生活者の共感を得るビジネスもある。以前、そんな時代における「プロの逆襲」を期待し、ブログにも書いたことがあった。私のブログの主要な読者は地方でネット通販やカフェや洋菓子店、家づくり、・・・ログや足跡を見る限り多様な業種ではあるが、自立自活するビジネスを行っている方々であると理解している。最近では家電メーカーの工場部門や百貨店、あるいは東京のTV局が情報探しで訪れるようになったが、私はこのブログを原則「学習の場」として位置づけている。
ところで、こうしたブログもそうであるが情報を活用し、プロ仕様と言われてきた素材や道具がいとも簡単に手に入るようになった。パン好きが高じてパン屋を始めたり、蕎麦好き、お菓子好き、家庭菜園好き・・・・好きはプロの入り口となり、起業する人が増えている。このこと自体は決して悪いことではないが、プロとセミプロ素人との境目が無くなりつつある時代だ。

さて、こうした2重に困難な時代であればこそ、プロとしてどう発想し行動したら良いかである。前回、10年で100万円の所得が減少した表を思い起こして欲しい。従来の顧客、想定してきた所得層は「今」どうなっているかである。新しい顧客を創っていくには多大な投資を必要とする時代である。まず、目の前に居る顧客がどう「変化」したかを観察することから始める。利用頻度や単価といった数字の裏側に潜む新たな価値観を探るということである。少し前に草食系世代にふれて所有から使用価値への転換について書いたように、物を持たない生活には「何が」必要かを見出す。それは「借りる」という方法もあるが、例えば代替商品、しかも所有価格の1/10で済む物を探す。つまり、新たな価値観を見出す作業である。価格が全面に出てくる時代であるが、その低価格を上回る「お得観」を見出すということである。例えば、今町のヒット商品である鯛焼きも、400円のケーキは食べることはできないが、鯛焼きであれば財布にも優しい、いわばケーキの代替商品という訳である。
買う余裕が無いのか、買いたい商品がないのか 、という二律背反に見える消費であるが、消費が無くなる訳ではない。私の持論であるが、必ず消費の移動が起きており、その裏側には必ず新しい価値観が存在する。

もう一つ現場的なことを言うと、やはり「人」である。「あの人がいるから」ということであるが、10年ほど前に流行ったカリスマという「他に変え難い人物」というより、安心できる信頼できる「人」ということになる。パフォーマンスばかりの時代である。しかも、そのパフォーマンスに踊らされ、良い結果が得られないまま今に至っている、そんな学習体験をしてきているからだ。旅行需要が低迷するこの夏であるが、H.I.S.はお客さまの担当者を明確にしたキャンペーンと共に、「激励&お叱りアンケート」を実施している。巣ごもり消費とは、自己防衛的側面を多く持っている消費である。外側からは見えない顧客の本音、どんな商品へと移動しているのか、そんな情報を聞くことができるのは、やはり信頼できる「人」によってである。価値観が錯綜する時代にあって、急がば回れではないが、現場の人材こそが経営を左右する。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:46Comments(0)新市場創造