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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年04月05日

今、東京で起こっている事 

ヒット商品応援団日記No355(毎週2回更新)  2009.4.5.

2年以上前に、私はこのブログで次のように書いた事があった。

「情報格差の時代が始まっている。仮説はこうである。情報を発信するメディアの集積度合いの高い都市(中心)と低い地方(周辺)とでは情報量及び質が異なり、結果情報によって消費行動は異なったものになる。ところで、情報とは極まるところ『刺激』である。ある意味で刺激のない情報は情報ではない。」

私は、よく過剰情報というキーワードを使うが、過剰情報とは過剰刺激ということである。そして、刺激を間断なく受け続けるとどうなるかである。過剰刺激の内容の本質は、変化と鮮度(新しい、おもしろい、珍しい)である。この変化と鮮度を生活の中に取り入れてきたわけであるが、この過剰情報を表すキーワードが、既に死語となったあのサプライズである。

今、東京で起こっている多くの事象は、俯瞰して見るならばこの過剰刺激から少し離れたところに「自分」を置く生活者が増加していることが第一番目に挙げられる。この2年ほど偽装情報やランキング情報に振り回された経験と、収入は減り少しぐらいはといった経済的余裕がなくなったことによる。更に言うと、ここ1年ほど消費トレンドとなっている「わけあり消費」というキーワードも、極論ではあるが過剰刺激から距離を置き、自己納得へと向かった都市固有、東京固有の現象である。

先日あるデベロッパーからの相談があり、東京近郊の商業地を観察したことがあった。周辺は住宅地と工場が混在している駅前商業地であるが、食について言うと、数年前の価格帯と比較し、価格ゾーンが100円ほど下げられていた。例えば、電鉄系スーパーの弁当は、298円、398円、498円、つまり300円、400円、500円の3種類のみ。街には、圧倒的にファーストフード、ラーメン店、居酒屋、焼き肉、ファミレス、といった低価格のガツン系飲食が多い。周知の日高屋もあり、ラーメンは390円である。更に、低価格を売り物にしたドラッグストアや中古本のブックオフ。また、ディスカウント業態のスーパー「ザ・プライス」も近くに出店している。つまり、あらゆる業種において価格が最優先の課題となっており、東京の生活者も至極普通のことと受け止めている。

更に象徴的に言うと、今東京で売れているのが子供用ではなく、OLやサラリーマン向けの弁当箱である。外食から中食、更に進んだ内食は弁当持参へと広がった。勿論、暖かいものを食べられるような工夫がなされた弁当箱が人気となっている。生半可な変化と鮮度といった情報刺激には最早反応しない生活者が増加傾向にあるということだ。
そして、情報刺激から離れた生活者が向かっているのが体験に基づく実感消費である。このブログでも何回か取り上げてきた自給自足的家庭菜園、あるいは農家直売所や農家レストランへの注目は、安心安全ということもあるが、そこに生活のリアリティさを感じているからであろう。この層が、前回書いた雑食系のたくましい生活者に該当し、新しい清貧の思想構築へと向かうと私は考えている。
先日、大手コンビニ各社が日用品等の値下げを発表したが、旧来の便利さ=時間を買ってもらうという価値だけでは最早競争できないということだ。コンビニがこうした新しい清貧の思想に、どうコミットしていけるか興味深いところである。

一方、3〜4年ほど前に「ヒトリッチ」というキーワードと共に新たな市場として現れた「新富裕層」はどう変化してきているかである。その代表が有職独身女性達で、年齢は30歳以上、住居は都心の3Aエリアという赤坂、青山、麻布に住み、会計士や弁護士といった専門職、あるいは総合職の女性、外資系企業に勤める、いわゆるキャリア女性市場である。象徴的にいうと、日常では都心にある隠れ家の主要顧客であり、休日には北海道洞爺湖にあるウインザーホテルでエステを楽しみ、あるいはオーベルジュが一人旅の定宿、そんなライフスタイルを持った女性達である。ある意味、都市が産み出した消費市場であり、NYでもロンドンでも同じ構造をもっている。結論から言うと、リーマンショック以降、収入は減り、保有資産も目減りし、従来のような旺盛な消費は見られない。

一昨日までロンドンで金融サミットG20が開かれていたが、ニュースでも報じられている通り、NYのウオール街だけでなく、シティにおいても金融危機を起こした責任追及のデモがあった。このデモに見られるように金融関係者への風当たりは強い。日本においても、リーマンショック以降外資系金融関連企業、投資顧問会社や証券会社、不動産関連企業のリストラあるいは撤退が行われている。新富裕層市場を担ってきたOLやビジネスマンの生活環境も激変した。更に、贅沢、華美、こうしたことを是としない空気感が社会に漂い、今までのような消費には一種の躊躇が見られる。この層やヒトリッチと呼ばれる有職独身女性を主要なマーケットとしてきた高級ブランドは軒並み売上を20〜30%落としている。こうした事象も新富裕層市場の縮小を象徴している。

こうした市場の変化を背景に、あらゆるビジネスに再編・再構築が突きつけられている。コンセプトチェンジ、業態、メニュー、勿論コミュニケーションを含め、新たなビジネス再編と構築が進んでいる。その再編途中ならではの新しいビジネスも生まれている。例えば、昨年秋頃には不動産不況にあって、新築マンションの売れ残りを安く買い、安く再販するビジネス。ファミレスの苦境がいわれているが、撤退するにもスクラップ費用がかなりかかることから、居抜きで安く譲り受けメニュー業態を変えて経営する業態転換ビジネス。いわば既成ビジネスのアウトレット化とでも呼べるようなニュービジネスが次々と生まれてきている。
こうしたビジネス再編が次々と進んでいるが、勿論生活現場においても再編が起きている。いわゆるリサイクル、リペア、リデザイン、あるいは下取り・再利用といったReの潮流で、「次」に向かうための第一ステップとしてある。今までのやり方を変えてください、既成を壊してください、と言われていると理解しなければならない。

以前、私は東京こそ経済ばかりでなく情報においても格差が大きいと指摘してきたが、地方のビジネスマンと話をしても通じないことが多かった。価格を軸に一見不可解に見える現象の意味合いが理解しえないからである。それはとりもなおさず、東京はTOKYOという都市性と日本における東京という2面性を併せ持っていることによる。3月2日にシャングリラホテル東京が東京駅前にオープンし、1泊7万円という宿泊料金が話題となったが、顧客はと言えば世界を舞台にした経営者や富豪と呼ばれている富裕層である。この東京駅から30分ほど電車に乗るとセブン&アイグループのディスカウントスーパー業態「ザ・プライス」の1号店である西新井駅がある。東京はこうした経済・情報がまだら模様のように偏在する都市である。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 14:35Comments(0)新市場創造