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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年02月15日

分かりやすさの罠

ヒット商品応援団日記No341(毎週2回更新)  2009.2.15.

昨年のヒット商品であるキリンビールの「氷結ストロング」に対抗するように、サントリーが「ストロングゼロ」を発売し、更にキリンビールも「ZERO」タイプを発売。缶酎ハイにおけるアルコール度数8%のガツン系市場に糖質0という違いを両社共に市場化してきている。一昨年から従来の健康に良いとカロリー控えめ商品が大多数であったところへ、周知のようにガツン系が一斉に市場へと出てきた。私はこうした消費傾向を「振り子消費」と呼んできたが、更に片方の振り子の中で小さな違い、糖質0競争を始めたということだ。こうした小さな違い競争はカップヌードル市場や日本酒市場における月桂冠の糖質0へと広がっている。
こうした振り子消費は数年遡ってみると至る所に見出すことができる。ガツン系とヘルシー系、ストロングとライト、最近の若者では物を買わない草食系(男子)と逆の世界を生きる動物系(女子)、こうした対比は主にマスメディア、TVメディアが創り出してきたものだが、その背景は過剰な情報の中での「分かりやすさ」からであった。

しかし、一方では振り子の真ん中はないのか、中間は、白黒というがグレーはないのか、といった疑問も当然出てくる。実は、マスメディアは生活者に伝わるようにと多様さを排除し、効率よく物事を一元化する。つまり、分かりやすさと引き換えに受け手の想像力や創造力を閉ざしてしまうということだ。コミュニケーションでいうと、キャッチコピーだけで、ボディコピーなし、ということである。マスメディア広告の衰退もこうした背景からである。
以前からこうした疑念はあったが、今回の不況による生活見直しが行われ、キャッチコピーに踊らされた自己反省が始まった。それは収入が増えない家計経済もさることながら、自己体験型生活へと向かわせている。これが振り子消費から巣ごもり消費へと移動した消費の本質である。

今年のバレンタインチョコの動向を見ても振り子型消費、変化を求めたチョコへの消費は少ない。昨年注目された洋から和への変化、新しさの代表であった和菓子によるバレンタインデーへの人気は今ひとつとなっていた。今年は本格的なベルギーチョコや有名なチョコレート職人の作るチョコへと振り子はまた元に振れたという訳だ。また、一つの潮流としては自分で作るチョコに支持が集まっており、自己体験型となっている。素材と道具、それに作り方が売れる時代だ。

つまり、売る物も、売る方法も変わったということだ。マスプロダクトである缶酎ハイですら度数は高いだけでなく、カロリーを気にする顧客に対しても配慮した糖質0を発売する。このように顧客への選択肢を増やし、カスタムメイド化の方向へと進んでいくということである。単純なガツン系とヘルシー系といった「分かりやすさの罠」にはもうはまらないぞという顧客心理であろう。こうした顧客心理に応えるためには、顧客の自己体験型要望に応えることだ。例えば飲食であれば料理教室を併設運営していくことであろうし、今流行の工場見学などもそうした考えの延長線上にある。

前回生き方も過剰であった、と私は書いたが、更に過剰な情報もどんどん削ぎ落としていくと思っている。つまり、巣ごもりする巣の中では情報も削ぎ落としているということだ。以前、「TVが消えてなくなる日」というテーマを書いたことがあったが、最近の調査ではPCをやりながらTV視聴する人間が増えてきているという。眼はPCに注がれ、音だけをTVで聞くといった具合である。なんとも奇妙な光景であるが、それだけTVコンテンツが劣化しているということであろう。

過剰情報を削ぎ落とすとは、多弁・早口なコミュニケーションを嫌い、寡黙・ぼくとつさの方が信じられるということでもある。若い頃の記憶で定かではないが、写真家中平卓馬だったと思うが、「眼の怠惰」という見ているようで実は見ていないのではないかという発言があったことを思い出す。過去からのおびただしい情報の意味する世界を引きずったままで、その壁を超えないまま見ているということである。分かりやすさという罠、怠惰な眼への自戒が始まった。振り子消費から脱却し、自分自身のリアル体験に依拠することとは、確かな眼を持つということだ。やっと、情報に右往左往しない大人の消費時代が始まったということであろう。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:45Comments(0)新市場創造