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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2009年02月04日

不況であればこそ、熟成する生活文化

ヒット商品応援団日記No3378(毎週2回更新)  2009.2.4.

2年ほど前に、裏が表になり、表が裏になる、と書いたことがあった。表側の世界やメニュー等が一巡し、生活者の興味や好奇心は裏側に向かうという内容であった。観光や散策でいうと、表通りの名所旧跡観光から横丁・路地裏観光への変化であったり、食でいうとメニュー表に載ったものから賄いメニューや裏メニューがメインメニューになるといったことであった。5〜6年前一つのキーワードとなっていた「隠れ家」は死語になり、最早表も裏も無くなった。これも情報の時代ならではの変化である。勿論、単に裏にあるというだけの商品、単に知らなかっただけの商品、単にメディアに取り上げられただけの隠れ家、極論を言えば持続できるだけの商品力を持たないそれらは既に市場にはない。

ちょうど同じ時期に、「今、地方がおもしろい」というテーマで埋もれた銘品や名物、あるいは観光客が知らない名所が注目されるであろうという内容を書いたことがあった。このことも未知への興味・好奇心が情報によって触発され、「裏が表になり、表が裏になる」という理屈と同じである。
ところで、過去10数年の消費行動を見ていくと大きな潮流として、テーマ軸では「洋」に振れたライフスタイルからの「和」回帰であろう、場所・エリア軸では興味があればどんな遠くでも出かけたことからご近所・ホームグランド回帰(慣れ親しんだ場所への回帰/故郷を含む)、時間軸では昭和回帰(特に「Always三丁目の夕日」ではないが30年代)、人・人間関係軸では「私」に凝り固まった関係から家族の絆の取り戻しに見られるような家族回帰(場所でいうと家庭となる)、俯瞰的に見ればこのように整理することができる。

こうした回帰型消費は振り子のように戻る様をいうのだが、最終的には振り子は一点において停まる。例えば、テーマ軸でいうと数年前までの圧倒的な健康ブームに対し、2年ほど前から高カロリーのガツン系・特盛りブームが起きたように。あるいはアルコール飲料がソフト化していった傾向に対しアルコール度数の高い氷結ストロングに支持が集まったように、常に振り子のように変化するのが今日の「消費」であろう。誰もがこうした振り子の中心点を明らかにしたいと思っている。いわばロングセラー商品という企業にとってお金のなる木を作り出すことになるのだが、生活者が削ぎ落とし更に削ぎ落とすことによって生まれる次のライフスタイルが明らかになることでもある。

では、不況=節約志向、キーワードである「巣ごもり消費」という内に向かう興味や好奇心はどんな「内」となるであろうか。実は、裏側への興味・関心も、振り子のように振れる回帰行動も、全て情報によるものであった。「TVが消えてなくなる日」にも書いたが、既成メディアはその情報価値を相対的に失い、ブログのようなネットメディアへと情報移動が進んでいる。玉石混淆ではあるが、情報発信も受信も個人の側に移ってしまったということだ。生活という巣の内側では、こうした既成情報の削ぎ落としも行われていることを忘れてはならない。既成の情報を削ぎ落とすことから、何が生まれてくるか。それは自ら五感で感じ取った情報、体験情報であろう。巣の中では、自らの振り子体験や回帰体験を熟成させているということだ。

この1年半ほど土鍋などの調理道具を始めとした生活道具が売れていると書いてきた。繰り返し書かないが、その裏側にはこうした体験の熟成が行われてきたということだ。最近では若い世代でぬか漬けが静かなブームであるという。団塊世代以上のシア世代にとってはおふくろの味であるが、若い世代にとっては身体に良い根菜が取れる和風サラダとしである。まさにOLD NEW、古が新しいという良き事例であろう。先日、経済団体の幹事と話をする機会があったが、ネット通販で売れ始めた商品があるという。実は、「干し柿セット」で、生の柿と吊るす藁、それに作り方の説明書付きであるという。手作り干し柿ということであるが、椎茸もあてはまるし、日本古来からの醸造文化、熟成文化、あるいは塩乾物のような保存文化にOLD NEWがある。

ライフスタイルという言い方をすると、従来は情報刺激によって未知の新しさを追いかけていくといったフロー型であったのに対し、巣の中ではOLD NEWのようなストック掘り起こし型へと変化してきた。つまり、既成の情報に翻弄された10年でもあり、多くの学習もしてきた。結果、体験こそが納得・共感できる唯一の方法であると、多くの生活者が気づき始めたということだ。ユーザーからの投稿レシピ10万点を公開し、夕食の支度時間である午後4時にはアクセスがピークに達するクックパッドに多くの支持が集まるのもこうした背景からである。不況という無駄を削ぎ落とし節約するといった巣ごもり現象。こうした外側からは見えない巣の中で熟成が始まり、一つの生活文化へと発酵し始めたということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:43Comments(0)新市場創造