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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2008年05月21日

非競争という視座

ヒット商品応援団日記No267(毎週2回更新)  2008.5.21.

書店に並ぶ書籍や雑誌の特集テーマの多くは、「脳力」とか、「知力」といった「力」に関する言葉が並んでいる。あらゆるものが停滞している情況に対し、力をもって突破したいという一種の悲鳴のような感がする。十数年前に「自分探し」というキーワードが流行ったことがあったが、そんな自分など実はないことが分かり、今や「自分づくり」の時代になった。これも個人化が進展する社会なのだと思う。

マーケティングやビジネス書には必ず出てくるのが市場競争下におけるその戦略着眼の理屈である。私もその多くを学習し、経験もしてきた。決して間違った方法ではないが、最近そうした発想や認識とは異なる世界もあると感じている。それは鳥取や沖縄といった地方の人達との話の中で、うまく表現できないがチョット違うなということが多々あったせいかもしれない。東京という市場は極論ではあるが、何でもありの殴り合いをやっているような市場である。勿論、顧客のためになることを追求するのではあるが、競争相手の急所をいかにお金をかけずに殴って倒すかといったことばかり考えていることからだと思う。

「何か違うな」と思ったきっかけは1年ほど前に読んだ「千年、働いてきました」(野村進著/角川書店)の取材先である世界最古の会社金剛組に対する著者の驚きに通じるものであった。この本は「なぜ、日本だけ老舗企業が生き残るのか?」という疑問を解き明かした本である。その中で世界最古1400年続く金剛組を取材する中で、「千三百年前に法隆寺を建てた飛鳥の工人の技術に今なお追いつかない」。また、法隆寺の修復に参加する宮大工は「俺たちの仕事は二百年後、三百年後に、いずれわかる仕事だ」との答えを著者は聞き書きしている。外側からは見えない、解体してみないと分からない仕事とは何か、ということである。

情報の時代の競争は、誰よりも早くが基本だとビジネス教科書に書かれ、実際のビジネス現場もそのように動いている。ヘッジファンドのジョージソロスではないが、「いずれ誰かがやるであろうから、そうであれば私が先にやる」という世界である。それを先行者利益として享受する。それ自体決して間違ってはいないと思うが、どこか違う世界もあると考えてきた。飛鳥の工人は何のために法隆寺を作ったのであろうかという単純な疑問である。そして、千三百年後の私たちが追いつくことが出来ない技術とは何か、ということでもある。

先日、鳥取での会議を終え、古くからの知人に会いに大阪へと向かった。鳥取の応援団のメンバーから、未だ食べていないと思うのでとお菓子のお土産をいただいた。鳥取を代表する和菓子ですと手渡されたのが、明治元年創業の「ふろしきまんじゅう」という商品であった。賞味期限は3日という生菓子なので大阪の知人と共に食べたのだが、田舎まんじゅうとあるが品のある極めて美味しいお菓子であった。鳥取県人、和菓子業界の人にとってはよく知られた商品と思うが、東京の人間にとってはほとんど知られてはいない商品だ。企業理念には「変わらぬこと。変えないこと。」とある。変化の時代にあって、まさに逆行したような在り方である。いや、逆行というより、そうした競争至上主義的世界から超然としたビジネスとしてあるといった方が正解であろう。

冒頭の話ではないが、個人も企業も市場競争に勝ち抜くために新たな「力」を必要としている。従来のビジネス手法を否定する訳ではないが、「非競争」という「力」、外側からは見えない、何百年後かには分かってもらえる、そんな視座が必要ではないかと思う。非競争というと、オリジナリティやオンリーワンといったキーワードを思い浮かべると思うが、何のためにビジネスするのかといった原初的なことだ。変化を追い求め、わずか1年半ほどで数百店舗にまで急成長した和菓子屋は、既にその臨界点を超え、急速に売上を落としている。これは変化市場で生き抜くために通らなければならない壁である。しかし、非競争市場にあっては、こうした壁はない。あるのは「変わらぬ何かであり、変えない何か」である。それを真剣さ、誠実さ、品質、・・・・日本に少し前までごく当たり前であった商人、職人の心構えといってもかまわないと思う。少し前に取り上げたエブリデーロープライスのOKストアにおける「オネスト(正直)」にもつながる世界だ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:47Comments(0)新市場創造