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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2008年03月05日

「KY語」社会の意味

ヒット商品応援団日記No245(毎週2回更新)  2008.3.5.

過剰な情報が行き交う時代にあって、少しでも注目・話題を集めるために一時期バイラルマーケティングやサウンドバイトといった手法が専門家の間で流行った。一種のサプライズ手法でどれだけ伝達刺激を強くしていくか、政治は言うに及ばず広告や小売店頭にまで使ってきた。私は既に1年半ほど前から、こうした手法は終焉したと書いてきたが、以降のコミュニケーションの「今」について再度考えてみたい。

昨年の流行語大賞の時にも少し触れたが、とうとうローマ字式略語約400語を収めたミニ辞典「KY式日本語」が発売された。昨年の流行語大賞の一つに選ばれたKY(空気が読めない)も数年前から高校生の仲間言葉として使われていたが、昨年出版元に寄せられた新語募集ではこのローマ字式略語が上位を占め、発売に踏み切ったとのこと。ちなみに1位はKY、上位にはJK(女子高生)やHK(話変わるけど)といった言葉遊びが中心となっている。面白い言葉では、ATM、銀行の自動支払機ではなく(アホな父ちゃんもういらへん)の略語やCB、コールバックや転換社債ではなく(超微妙)の略語で若者が多用する言葉らしさに溢れている。

KY語の発生はコミュニケーションスピードを上げるために圧縮・簡略化してきたと考えられている。既に死語となったドッグイヤーを更に上回るスピードであらゆるものが動く時代に即したコミュニケーションスタイルである。特に、ケータイのメールなどで使われており、絵文字などもこうした使われ方と同様であろう。こうしたコミュニケーションは理解を促し、理解を得ることにあるのではない。「返信」を相互に繰り返すだけであると指摘する専門家もいる。
もう一つの背景が家庭崩壊、学校崩壊、コミュニティ崩壊といった社会の単位の崩壊である。つまり、バラバラになって関係性を失った「個」同士が「聞き手」を欲求する。つながっているという「感覚」、「仲間幻想」を保持したいということからであろう。裏返せば、仲間幻想を成立させるためにも「外側」に異なる世界の人間を必要とし、その延長線上には「いじめ」がある。これは中高生ばかりか、大人のビジネス社会でも同様に起こっている。誰がをいじめることによって、「仲間幻想」を維持するということだ。

KY語は現代における記号であると認識した方が分かりやすい。記号はある社会集団が一つの制度として取り決めた「しるしと意味の組み合わせ」のことだ。この「しるし」と「意味」との間には自然的関係、内在的関係はない。例えば、CB(超微妙)というKY語を見れば歴然である。仲間内でそのように取り決めただけである。つまり、記号の本質は「あいまい」というより、一種の「でたらめさ」と言った方が分かりやすい。

私もそうであるが、言葉を使うとは常に「過剰」と「過少」との間で揺れ動くものだ。「外」へと向けた過剰情報、サプライズの時代を経て、KY語が広く流布している「今」という時代は、過少、「内」に籠った言語感覚の時代なのかもしれない。以前、「Always三丁目の夕日」のヒットを含め、若い世代においても同じで、学校給食の揚げパンを例に挙げ「思い出消費」について書いたことがあった。思い出を聞いてくれる「商品」、思い出を丁寧に聞いてくれる「聞き手」を欲求している時代ということであろう。「かっわいい〜ぃ現象」も「私ってかわいいでしょ」という「聞き手」を求め、認めて欲しい記号として読み解くべきだ。

以前、作家五木寛之の「鬱の時代」に触れたことがあった。不安という不確かなことばかりの社会にあって、心が病む鬱病が増加している。その精神科医の仕事は治すことではなく、「聞き手」になり、患者と共に物語りを共有することであると言われている。今日の精神科医の基礎を作ったジャック・ラカンは患者の「理解してもらい、認めてもらいたい」という希望を「丁寧に聞くこと」が仕事だと言っている。病という情況に至らなくても、多くの人にもあてはまることだ。KY語世代を日本語を理解していない、何も分かっていないと嘆くのではなく、ビジネス現場でも社会生活を送る上でも、まず「聞き手」に徹することだ。「KY式日本語」という文脈(言葉の土俵)に沿って対話していくことも、「大人」には必要な時代だと思う。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 11:22Comments(1)新市場創造