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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2007年01月24日

情報商品の罠

ヒット商品応援団日記No134(毎週2回更新)  2007.1.24.

またしても情報商品の一つであるマスメディアの偽造、ねつ造が発覚した。周知の関西テレビ「発掘!あるある大辞典II」における”納豆ダイエット”のコンテンツねつ造である。マスメディアにとって、番組は商品そのものである。平均視聴率15%弱という良い商品も実は単なるやらせを超えたねつ造そのものであったということだ。バラエティ番組における過剰表現、過剰演出とは次元の異なる「情報番組」におけるねつ造である。テーマとなった納豆に罪は無いが、多くの人が近くのスーパーに買いに行き、店頭には納豆が無くなるというマスメディアの威力、怖さをまたしても学習した。一昨年の耐震偽装を生む背景と視聴率という売上競争を生んだ構造は極めて酷似していることは誰もが感じることだ。競争という理由によって、「何でもあり」がマスメディアにおいても日常化しているのだと思う。昨年8月、私は「サプライズの終焉」というテーマで次のようにブログに書いた。

「短期的成果を求めた強いインパクト、効率の良いレスポンス、コミュニケーション投資に見合うサプライズ価値、こうしたコミュニケーション世界も、長い眼で見る持続型継続型の日常的対話コミュニケーション、奥行き深みのある実感・体感といった納得価値へと変わっていく。「猫だまし」のような、あっと驚かせて瞬間的に大きな売上げをあげていくビジネスから、小さくても「いいね」と言ってくれる顧客への継続する誠実なビジネスへの転換である。」

「発掘!あるある大辞典II」は「猫だまし」商品であったということだ。同じ時期に洋菓子不二家の不祥事があったが、賞味期限切れどころの話ではない。

今という時代はテレビ番組や株だけでなく、あらゆるものが情報価値商品となっている。例えば、オタクにとってお気に入りのフィギュアの原価を考えたらよく分かると思う。おそらく、原価構成のほとんどがモノ価値ではなく、キャラクターの物語性やデザインといった情報価値を買っている訳である。ファッションにおいても同様でデザインとかブランドという「らしさ」という情報、無形のものにお金を払っている。であればこそ、情報に嘘があってはならない。健康、美容といった商品は、切実な不安や問題を解決してくれるものだ。弱みに付け込むとはこのことだ。問題は情報にあるのではなく、情報の本質を踏まえた情報発信者のモラルと情報偽造・操作を許さない仕組みにある。「発掘!あるある大辞典II」のスポンサーである花王は当たり前のこととしてスポンサーを下り、番組自体も打ち切りとなった。花王のヒット商品である「ヘルシア緑茶」は特定保健用食品、トクホである。トクホを取得するには多くの臨床的データを用意しなければならず、時間とコストをかけた商品である。あのシビアな花王が自社商品ではなくスポンサードした番組とはいえ、よく認めていたと思う。関西テレビの担当者の処分も発表されたが、根本問題の解決にはならない。

例えば、株式の公開は英語ではゴーイング・パブリック(公となる/going public)と表記する。広く投資家から資金調達することは「公」の秩序に入ることなのだ。証券取引法の世界であれば、今回の事件は虚偽記載もしくは風説の流布で逮捕は免れない。しかし、こんなことを言うまでもなく、日本には近江商人の心得である「三方よし」を持っている。商いにおいては「世間よし」という「公」認識・責任をもたないことは罪悪ということだ。「企業は社会の公器である」と言ったのは松下幸之助創業者である。その理念は今も引き継がれ、欠陥商品があった事実に対し、今なお回収し続けている。関西テレビが”納豆ダイエット”以外にもねつ造があったかどうか調査すると言っているが、厳密に精査すれば間違いなくねつ造に近いモノは出てくる。「実証」と称して使用前・使用後の比較方法にしても、医療や調査の専門家にしたらあまりにもサンプル数が少なく、つまり誤差値が大きく「かもしれない」といった程度しか言えない情報ばかりである。しかし、番組構成のテンポは速く、視聴者が疑念を起こす間もなく、次へと進む。こうしたテクニックを用いられると、「かもしれない」から「きっとそうだ」更には「そうにちがいない」と断定へと向かう。こうした心理市場にあって、根本は情報発信者のこころの中にあるモラル、倫理しかない。いくら法、ルール、監視の仕組みを作っても、それを実行するのもまた人である。法やルールの裏側にある精神を自らのものとしない限り、また新手の「発掘!あるある大辞典II」が生まれてくる。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:40Comments(0)新市場創造