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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。

2006年09月03日

湖上通勤と農工一体   

ヒット商品応援団日記No95(毎週2回更新)  2006.9,3,

先日、ある出版企画の件で滋賀県琵琶湖にある桑野造船を訪問した。明治元年創業のボートを作っている企業の代表である古川さんを訪ねたのであるが、ボートが好きで、こよなくボートに魅せられた方で桑野造船の再建にご苦労されている。話を終えた帰り際、”皆にそんな無謀なことと言われているんですが、実は湖上通勤をしているんですよ”と話された。琵琶湖は天候が変わりやすく、プロ中のプロである古川さんも用意周到な準備をもって臨んだという。ボートというモノづくり、モノへのこだわりの裏側には自然への畏敬とチャレンジがあった。それが、湖上通勤であると私は感じた。古川さんは瀬田から会社のある堅田まで17kmの湖上通勤のきっかけを次のように話されていた。

「世界のボートデザイナーであるクラウス・フィルターさんを呼んで講演をしていただいた時、”冬でも湖に出る。風も波もまたこれ自然だ。それを楽しんでいる。仕事場まで湖上通勤することもある。”このことばに刺激を受け、私たちは静水という人工的環境で、しかも安全まで他人に守られて漕ぐことに慣れすぎてしまった」

今、私たち都市に住み、目の前にある自然は古川さんが言うように、そのほとんどが「作られた自然」である。自然の恐ろしさを感じるとすれば、ヒートアイランド現象や集中豪雨による都市水害であろう。この自然も都市が人工的に作り出したものであるが。多くのリゾート地も人工的に作られたものであり、沖縄の海浜リゾートですら海辺の砂を白砂に変えるといったことがなされている。

桑野造船を後にして、同じ滋賀県の山間にある叶匠寿庵「寿長生の郷(すないのさと)」を訪問した。このブログでも何回か取り上げた叶匠寿庵であるが、創業者芝田清次さんが理想とした農工一体、鍬をもって耕し、自然の恵みを得て、お菓子を創り、おもてなしをするといった6万3000坪の理想郷である。今から20年ほど前に創られた郷であるが、当時はお菓子の材料である杏を作っていたと記憶していたが、今は梅など多くの恵みを作っている。入り口までは舗装された道路であるが、車止めからは砂利道を歩いていく。これも「おもてなし」である。歩くとは、自然、日の光や緑、風、鳥のさえずり、こうしたことを五感で感じとれることであり、一休みできるように緋毛氈が鮮やかな休み所が林の中に点在している。自然を目一杯感じ取ってもらうことが、最高のおもてなしとなっている。

桑野造船古川さんの湖上通勤にも、叶匠寿庵「寿長生の郷」にも、都市生活者が失ってしまった自然、自然に対する畏敬の念、感謝の気持ちが通低していると思った。ところで今、子殺し、親殺しといった事件あるいは少年犯罪が多発している。育児、教育の問題、倫理、モラル、様々な視点で言われているが、産經新聞(8/31朝刊、希薄になった「死」)に次のような記事があった。東京純心女子大の中村博志教授が行ったアンケート調査結果をもとにした記事で、

「一度死んだ生き物が生き返ることはあると思いますか?」という質問を行ったところ、「生き返る」「生き返ることもある」との答えが小学校高学年の3人に2人、中学生の約半数にも及んでいたのだ。・・・・・・”子供たちの周りから死が遠ざけられてきた結果、命について考える機会も失われたのではないか”

私は記事を書いた記者ほど驚きはしないが、やはり育児や教育などを超えて社会が根底から変質し始めているなと思う。確かに昔は祖父母と一緒に暮らしており、必ず祖父母の死に向き合うことがあった。丁度その年齢の頃、今や核家族化し個室でテレビゲームやインターネットといった仮想現実を生きている。ゲームのように、リセットすれば「また生き返る」と思っても不思議ではない。現実としての死に向き合うことが無いとは、現実としての生を生ききることが無いということでもある。夜回り先生水谷修さんが直面している問題もこうした子供たちである。水谷先生は「本来、人は人との生身のふれあいで学び合って生きていくものなのに、現代のコミュニケーションは電話上の音声やネット上の文字で行われる」と。私は、現代の便利さを否定するものではない。ただ、あまりにも表層としての自然、人工としての自然ではなく、もっと奥深い野生とか生命といった世界に向き合うことの必要性を言っているのだ。旭山動物園が再生した背景の一つがそうであるし、桑野造船の古川さんのように日常の中で本当の自然と遊んだり、叶匠寿庵のように自然のもつ生命美をお菓子の世界にまで求めたり、そんな市場への着眼がこれから更に求められていくと思う。今は閉鎖されてしまった水谷先生のHPでは、薬物中毒で病んだ子供たちに対し、こんな示唆的なやりとりをしていた。(続く)

少女「・・・・もう死にたい」
水谷「そういえば外は今、桜が満開だよ。外に出て見てごらん。花びらを拾ってごらん。匂いをかいでごらん」
少女「先生、行ってきたよ。きれいだった。来年も見られるかな?」
水谷「うん、いろんな明日があるよ。何がしたい?」
少女「考えてみる。ありがとう」  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:37Comments(0)新市場創造